オリンピックも終幕が近づいた。
日本のアスリートたちを、
心底、見直した。
前にも書いたが、
ざっくり言えば私たちの世代は、
イザという時に弱かった。
内弁慶などと言われたし、
自分たちもそう思っていた。
それが今回のパリのメダリストたちは、
そのイザというときに自分の力を発揮した。
メダルを獲れなくとも、
自分なりの成果をしっかりと上げた。
日本人のDNAが変わったのか、
あるいはその呪縛が解かれたのか。
優勝はエチオピアのタミラト・トラ。
2時間6分26秒、オリンピックレコード。
それでも赤﨑は凄かった。
スポーツクライミング複合、
男子の安楽宙斗は銀メダル。
女子の森秋彩は4位。
卓球の早田ひなのは、
リストを怪我しても銀メダルを獲った。
張本美和は中国選手と戦いながら、
目に見える如く成長し、進化した。
それ以外にも、
凄い場面を私たちは見せてもらった。
感動した。
そしてオリンピックは、
人間の人種のことを考えさせられた。
アメリカのメダル量産は、
ブラックアメリカンによって成し遂げられた。
イギリスもフランスもドイツも、
陸上などの種目はアフリカ系が成果を上げた。
日本でもハーフの選手がいなかったら、
陸上もサッカーもあれだけの成果は上げられなかった。
そしてそれを自然に受け入れる風土が、
私たちの中に生まれてきている。
中国人も世界各国で活躍した。
韓国人もいろいろな国に同化していた。
日本人もそれは同じだ。
ユダヤ人となると、
もう長い間、世界民族である。
そこにイスラムの世界化が加わる。
オリンピックは、
そんなことを確認できる場として貴重である。
スポーツは人種の面において世界化している。
それはグローバルスタンダードではない。
「仕事や安全やより良い未来を求めて、
ますます多くの人がますます多くの国境を
越えるようになった」
ユヴァル・ノア・ハラリ。
移民や難民という問題には、
深刻な矛盾が内在するが、
スポーツはそれを超えさせてくれる。
しかし、ウクライナ戦線。
戦闘が続く。
ウクライナ軍が形勢逆転への賭けに出た。
ロシア西部クルスク州に侵攻。
さらに進軍を続ける。
「ウクライナ軍は驚かせる方法も、
成果をあげる方法も知っている」
ウラジーミル・ゼレンスキー大統領。
ウクライナ軍は国境から15kmを超えて進軍した。
ロシア軍はクルスク州などの国境防衛は、
脆弱な状態で放置していた。
それに対してウクライナ軍は、
奇襲のために周到な準備をして臨んだ。
この奇襲作戦は、
今後の停戦交渉をにらんでいる。
戦争の長期化によって、
国内の「厭戦(えんせん)機運」も高まっている。
欧米各国は今回の奇襲攻撃に対して、
理解を表明した。
米国務省のミラー報道官。
「我々の政策に反していない」
クルスク州の占拠は、
一定の成果を上げるのか。
停戦に向けて有利に働くのか。
この間もパリでは、
ウクライナ選手団が活躍している。
今大会には140人の選手が派遣されていて、
夏のオリンピックでは過去最少。
それでも金メダルを3つ獲得。
銀メダル4、銅メダル4の成果を上げている。
まずフェンシング女子サーブル団体。
準決勝で日本を破ったウクライナが、
韓国を仕留めて金メダルを獲得。
団体では世界ランキング3位。
女子サーブル個人では、
オリハ・ハルラン選手が銅メダルを獲得。
団体では3人のチームワークが働いて、
最終の第9試合でハルランが連続ポイントで逆転。
45対42で勝利。
ハルラン選手。
「ロシアによる軍事侵攻が始まって以降、
戦闘が続くこの困難な時代は間違いなく
ウクライナにとって最悪のときだが、
この金メダルで何か少しでも
喜びを届けられるのではないかと思う」
マシュク選手。
「希望がない時代でも私たちは
信じて前に進むことができると証明できた。
今夜、不可能を可能にすることができたと思う」
一方、陸上女子走り高跳び。
ヤロスラワ・マフチフ選手、22歳。
世界記録を37年ぶりに更新して金メダル。
走り高跳びでは待ち時間が長くなる。
血流を良くして体の柔軟性を保つ効果がある。
寝袋は雨が降っても、
「外で寝転ぶことができるのでおすすめ」と話す。
「ウクライナがあらゆるところで
戦い続けていることを
世界の人に知らせる機会になったと思う」
そしてボクシング男子80キロ級決勝。
オレクサンドル・ヒズニャクが、
カザフスタンのヌルベク・オラルバイを破って、
金メダルを獲得した。
ヒズニャクは東京五輪のミドル級で、
銀メダルを獲得した。
自分の国では戦闘が続く。
帰国すればまた落ち着かない毎日だろう。
それでも寝袋で休みつつ、
体調を整え、精神を統一して、
世界記録を更新する。
スポーツは、
グローバル化とナショナリズムを、
どちらも私たちに見せてくれる。
ハラリは言う。
「私たちは進退窮まっているようだ」
しかしスポーツエリートたちが、
未来へのかすかな突破口を示してくれている。
〈結城義晴〉