2024年の冬至。
日一分一分ちゞまる冬至かな
〈正岡子規〉
少しずつ昼が縮まって、
今年も冬至。
これからだんだん、
陽が長くなる。
その微妙な変化が楽しい。
山陽新聞の巻頭コラム「滴一滴」
作家の幸田文の女学生のころのこと。
「豆腐の切り方や雑巾の絞り方を、
父の露伴から習った」
露伴は時の文豪とはいえ生家は貧しく、
何でも手伝いながら育った人。
自分なりに合理的な手法を編み出した。
掃き掃除一つとっても、
その教えは奥が深い。
「ほうきは筆と心得て、
穂先が利くように
使いならさなければならない」
道具をどう扱い、動きに緩急を付けるか。
畳の目と縁ではどう違うか。
「やらせて見る。
やって見せる。
再度やらせる。
身に付くまで稽古した」
そこで面白いのは、
しまう前に必ず呪文を唱えるように指導したこと。
その呪文は、
「あとみよそわか」
「跡を見よ、つまり振り返って
いま一度確認しなさい」という意味。
「後工程はお客様」と同じ。
幸田露伴が幸田文に、
「あとみよそわか」と教えた。
師走に似合う、いい話だ。
月刊商人舎では、
2017年3月号で特集した。
商品情報Platform
「商品Master/商品Contents」の共有と競争
もう8年前になる。
[Cover Message]
欧米ではワン・ワールド・シンク(1WorldSync)。日本では非食品のプラネット(Planet)と食品のジャパン・インフォレックス(JII)。商品マスタ(Product Master)が整備され、商品情報の交換と交流によって、数多の商品がつつがなく流通・供給される。そこでは情報をベースとした社会システムの標準化と効率化、合理化、最適化が推進される。製配販のサプライチェーン・マネジメントが貫徹される。さらに商品デジタルコンテンツが充実して、実店舗とElectronic Commerceが融合する時代がやってくる。結果として豊かで、多様で、低価で、オムニチャネルのライフスタイルが保障される。そのためのさまざまな社会インフラが構築される。それが近未来型の「商品情報プラットフォーム」である。この動きを推し進める者、阻む者、そして傍観する者。鍵を握るのは、Platform概念の産業レベルでの社会化と、その「共有と競争」の共通認識に他ならない。
商品情報のPlatformに焦点を当てたが、
そのベースとなるのが商品マスターだ。
そして商品コンテンツは一元化されねばならない。
店頭での競争はそのあとの話だ。
私はニハット・アーカンさんと、
オンライン対談をした。
1WorldSync Global CEO。
「もうTechnologyの問題ではない!
Approach&Processの競争時代だ!」
この特集はグローバルな視点だったが、
日本のチェーンストアには早すぎたか。
一部の読者以外にはあまり反応はなかった。
それでも問題意識は変わらない。
いや問題が向こうから近付いてきた。
特集のまえがきの最後に私は書いている。
「かくて、世界のプラットフォーム・ビジネスは、
参画せずにはいられない存在となってしまった。
ガラパゴス化した特殊な世界を除いて」
SM物流研究会はその序章である。
その時に必要なこと。
私が書いた「Message」
「標準化」の呪縛を解け!
これほど誤解されている概念はない。
「標準化」「standardization」
最も標準となる「広辞苑」で調べる。
すると「標準に合わせること」
または「標準に従って統一すること」
その結果、「互換性が高まる」
では合わせるべき「標準」とは何か。
What is the standard?
同じく広辞苑。
①判断のよりどころ。
②あるべき形。
③いちばん普通のあり方。
ところが小売りサービス業、
とりわけチェーンストアでは、
「例外行動をなくすこと」となる。
だから経営者や幹部は嘆く。
「わが社では標準化が進んでいない」
「もっと標準化しなければならない」
コンサルタントは叫ぶ。
「おたくは標準化ができていない。
だから効率が悪い、生産性が低い」
しかし、本当の標準化は、
わが社だけのものではない。
良いものに、全体に、合わせることだ。
その分野の規格に合わせる。
全体最適の基準に従う。
プラットフォームがあればそれに乗る。
そのうえで競争する。
標準化の上で個性を発揮させる。
だから本来、「標準化競争」はおかしい。
標準化の呪縛を解け。
標準化の誤解を正せ。
標準化の亡霊を拭い去れ。
活用できるものは大いに使え。
多くが参画すればコストは飛躍的に下がる。
合理化、効率化が進み、生産性は高まる。
標準化は人類の英知によってもたらされた。
その進化は信頼感と透明性に支えられる。
この標準化の共通認識こそ産業化の礎である。
そして標準化は総体的な経費を削減する。
人々の仕事を軽減させてくれる。
標準の上に展開される個性化は豊かさをもたらす。
〈結城義晴〉
2017年3月号、もう一度読んでほしい。
物流にも商品マスターの共有にも、
「あとみよそわか」の精神がなければならない。
「公平で中立でわかりやすく」は、
世界共通の認識なのだ。
〈結城義晴〉