コブシとよく似ているが、
コブシの花はやや小ぶりで横に広がり、
花びらが完全に開く。
モクレンの花は上向きに開く。
大きな花びらは完全に開くことはない。
木蓮に夢のやうなる小雨哉
〈夏目漱石〉
日経新聞電子版の「時論・創論・複眼」
シカゴ大学大学院の、
ラグラム・ラジャン教授。
警告を発する。
1963年、インド生まれの62歳。
2013年から2016年まで、
インド準備銀行(中央銀行)の総裁を務めた。
金融論、銀行論が専門の経済学者。
2003年、フィシャー・ブラック賞受賞。
2005年、後の米住宅バブルの崩壊を警告し、
2007年の世界的な金融危機を予見した。
2011年、米国ファイナンス学会会長。
2013年ドイツ銀行金融経済賞受賞。
トランプ政権をどう見るか。
「新しい手法を試そうとの姿勢だろうが、
保護主義などはごく古い策で、
皆にとって害になることを
あらゆる研究が示している」
「今日の製造業の雇用喪失は、
オートメーション(機械化)が主因だ。
関税で製造業を守っても、
機械が米国内で仕事をするだけだ」
関税は雇用の回帰には全く効果がない?
「第1次トランプ政権の、
鉄鋼関税をめぐる研究では、
1人分の雇用を生むのに、
50万〜100万ドルかかった。
わずかに雇用が増えても
費用対効果は見合わない」
「現実には電気自動車や電池といった分野では、
中国の技術が米国をしのいでいる。
中国企業が国内で激しく競争した結果で、
学ぶべきだ」
関税による保護は米競争力を削がないか。
「インドでまさに起きたことだ。
関税を課すたび生産効率が落ち、
関税措置の継続や強化を強いられる、
悪循環に陥る」
産業は鍛えられねばならない。
「関税を使うなら特定産業が一息ついて、
追いつくための時間稼ぎと位置づけ、
恒久的な補助器具にしてはいけない」
関税の引き上げはインフレの沈静化を阻むのか。
「製品にコストを上乗せする関税は
理論上インフレ要因だが、
それ自体の影響は限られる」
「関税引き上げに伴う値上げが
一度きりならインフレの持続と言えず、
米連邦準備理事会(FRB)も看過するはずだ」
「だが関税引き上げが繰り返され、
これによりインフレ期待が高まったり
賃上げの要求が強まったりすれば話は別だ」
「長期的には、
米国への生産移管に伴うコスト増や、
外国製品との競争が和らいだ企業の賃上げ、
といった要因も考慮する必要がある」
トランプ政権は減税の公約をした。
「過去の減税を続けるだけなら、
景気刺激にはならない。
だがチップ収入や社会保障に絡む免税など、
他の措置を上乗せすれば、
景気を刺激し物価上昇の要因となる」
「連邦準備理事会が、
インフレ抑制に取り組むなか、
正反対の政策をとるのは、
マクロ経済政策面からご法度だ」
米国の国際経済・貿易の課題は?
「米国が自由貿易に背を向けたのは
トランプ氏のせいだけでなく、
『他国にだまされ競争力を失った』と
国民が信じたためだ」
「この現象は米国で定期的に起きる。
1980年代には日本が世界の製造業を支配し、
米国は魅力ある製品を作る力を失ったと思われた」
「だが米国はiPhoneやテスラを開発し、
AIも発展させた」
「米国は製造業だけでなく、
サービス業でも
競争力をもつことを
自覚すべきだ」
これは私たちが実感することでもある。
アメリカはサービス業の国だ。
「無理に太陽電池を作る必要などない。
AI分野で世界一であり続ければ、
十分なビジネスを維持できる」
「保護主義への幻想が去れば、
おのずと何をすべきかは見えてくる。
その後、自らの技術革新の力を信じ
前に進めばいい」
「問題の本質は米国の人々が
技術変化にうまく対応できるかだ」
私たち日本人にも同じことが言える。
今、2007年のような危機の芽は見えるか。
「経済には常に脆弱な部分がある」
「問題はそれらが重なり大きな破滅を招くかだ。
何がどう危機を生むか予想は難しい」
「前回の震源地となった
低所得者向けのサブプライムローンも、
誰も注目していなかった」
「規制緩和の動きには注意したい」
「焦点はこれが
高水準の資産価格を一段と押し上げ、
レバレッジ(てこの原理)を高めないか。
この両者は常に危機の源泉となる」
「前回の金融危機から17年がたち、
人々の気も緩んできた。
当時を知らない教え子らも
投資銀行などで働いており、
記憶の忘却という問題も生じる」
「危機の記憶が次世代に引き継がれなければ、
同じ間違いは、
繰り返される危険がある」
西村博之コメンテーター。
「過ちが繰り返されるのには理由がある。
自国産業を守るのに関税を課すとの主張は、
直感に訴える。
規制撤廃で経済が潤うとの理屈もそうだ」
「そこに潜むコストやリスクに、
痛い思いをした後に気付いても遅い。
教訓は、なぜ生かされないのか」
ラジャン教授。
「我々は同じ間違いを
繰り返す一方、
新しい過ちも犯す」
残念ながら人間の営みに、
夢のような小雨は降らない。
〈結城義晴〉