国と国・人と人の交流制限とバルコニーの歌の連鎖
国と国、
地域と地域、
人と人。
その交流が、
閉ざされていく。
外務省によれば、
感染者確認国・地域からの、
入国制限が行われている国・地域は、
112カ国・地域に及ぶ。
大阪府と兵庫県は、
互いの往来自粛をする。
互いの意地の張り合いもある。
そして人と人の交流も、
制限され、自粛させられる。
アスリートとアスリートの交流、
東京オリンピックもどうやら、
延期される機運が高まってきた。
「人間」が、
「人の間で生きること」を制限して、
「人」となってしまう。
いま、問題にされているのは、
ウィルスに襲われる「ヒト」である。
東京新聞の「筆洗」
昨日の巻頭コラム。
まず、英国BBC放送から。
英国の八十八歳の男性が亡くなった。
新型コロナウイルスに感染していた。
原因はレストランでの接触。
イタリア旅行から帰った人との。
その悲劇から物語は始まる。
「信仰心のあつかった男性の
葬儀をどうするか。
残された家族は話し合った。
結論を出し、生前、
親しかった人々に伝えた」
「故人への献花もお悔やみのカードも忘れて」
その代わりに男性を悼むため、
別のことを頼んだ。
「誰かにやさしくして」
感染拡大によって困っている人が大勢いる。
孤独を感じている人がいる。
買い出し、子どもの世話、
おしゃべりの相手。
なんでもいいから助けてあげて。
それが男性を追悼することになる、と。
「誰かにやさしくしよう」
ダイレクトな交流は制限されても、
やさしくすることはできる。
人間らしくすることはできる。
もう一つの話。
外出が原則禁止となったイタリア。
バルコニーで歌うことが
人々の心を慰めている。
誰かがウクレレを弾きながら歌う。
エルビス・プレスリー、
「好きにならずにいられない」
それに応えて、
隣や向かいの部屋のバルコニーからも、
歌声が聞こえはじめ、
やがて大合唱となる。
NHKなどで映像が報じられた。
世界が困難にある中で
互いを助け合い、励まし合う
人間の小さな知恵や行動が頼もしい。
コラムニスト。
人間を「好きにならずにいられない」
中日新聞の巻頭コラムも、
このイタリアのバルコニーの話を紹介。
「中日春秋」
イタリアの感染者と死者は、
中国に次ぐ数になった。
「人と人が近い国だろう。
店先でのおしゃべりや
抱き合ってのあいさつといった光景は、
ほほえましくも映る」
「欧州からの報道には、
この近さが急な感染拡大に
関係しているのではないかとあった」
人間らしさが感染を拡大させる?
コラムニストが紹介するのは、
村上春樹の『海辺のカフカ』の一節。
主人公に向けて語られる。
「人は
その欠点によってではなく、
その美質によって
より大きな悲劇の中に
ひきずりこまれていく」
イタリア人の人と人の近さが、
新型コロナウィルスの感染を広げる?
それでもイタリアの人たちは、
バルコニーで歌の連鎖をつくり、
それが大合唱となる。
私たちの店も、
人と人との交流によって成り立つ。
バルコニーでの歌の連鎖、
そして大合唱。
2016年1月の商人舎標語。
「人をつくる、人を残す」
後藤新平は言い残した。
金を残すは下なり、
事業を残すは中なり、
人を残すは上なり。
人を集め、
人をつくる。
人を残す。
会社も店も売場も、
人々が喜び勇んで、
集まるところである。
商人舎2018年1月号のMessage。
「人の強みを発揮させよ」。
人間の、
人間による、
人間のための産業の、
人間一人ひとりの強み。
国と国、地域と地域、
人と人との交流が制限されるとき。
最も大切なもの。
人間の、
人間による、
人間のための産業の、
人間一人ひとりの強み。
〈結城義晴〉