[結城義晴インタビュー]高木剛連合会長「労働組合は会社を映す鏡だ」
「生産性三原則」とは?
<高木剛さんとは20年来のお付き合い。
東京御茶ノ水の連合本部・会長室で、激務の高木さんに、
労働組合と会社との関係の本質を語ってもらった。感謝>
結城
小売りや外食を見ていると、
労働組合を作ることによって初めてまともな会社になれる,
という発言がトップからずらりと出ています。
高木
どの業界でも、働いている人にとっては、まず労働条件です。
それからいろいろな権利。
こういうものをきちんとしていくことは、
労働組合のあるなしにかかわらず、
経営者のマネジメントのなかで非常に大きなポイントです。
ただ、経営者も、せいぜい何十人の従業員なら,
大体どういう人だとか、働きぶりなどを直接見られるかもしれませんが、
100人や1000人になったら直接見られる限界を超えます。
そのなかで労働組合が健全に役割を果たせれば、
そういうマネジメントに求められている機能も,
レベルアップして緩和していけるだろうと思います。
最初は労働組合なんて、
赤旗振りまわして、うっとうしいんじゃないか、
と言う経営者もおられるのですが、
こんなにありがたいものができるのに、
なぜそんなにうっとうしがるのかと思う。
労働組合がないときには、
すべて経営者の皆さんや管理職の皆さんがやらなければいけないのです。
まとめて代表者と話す方がよほど話は早くつく。
組合を作るときには、
労働組合の存在意義とその本質を、
組合の役員の人たちは十分理解しておいてほしい。
そういう意味では経営者の皆さんは、組合ができるときに、
組合の役員決めは組合自身が決めることだけれど、
組合が相談してきたときには、
できるだけいい人を出してやってほしい。
高木
経営者の皆さんの目から見て、
将来この会社は多分こういった人たちが中心になって、
会社の発展のために尽くすのではないかという、
有能で、かつ信頼も高いという人を喜んで出してやってほしい。
極端に言えば、将来は自分の企業の役員にしたいと思う人たちを、
組合に出してほしいのです。
高木
組合の仕事をやるようになれば、
時には会社に嫌なことも言ったりするかもしれないけれど、
彼らが将来組合の仕事を離れたときには、
そういった経験を非常に有意義なものとして、
自分たちのストックにしてくれるはずです。
現に多くの企業で、組合の役員経験者が、
役員やトップになっている例があるのです。
結城
多くの人をまとめていくことが、
普通に働いているよりも個人の能力開発につながるのですね。
高木
会社側と意見が合わないときは、徹底的に議論する。
民間企業ですから、
生産性というか、企業経営を通じての付加価値が増えない企業は、
やはり発展していけない。
高木
戦後の日本の経済発展は、政府も経営者も労働組合も、
「生産性三原則」という考え方でやってきたので、
発展が図られたのです。
この生産性三原則というのは、
①生産性を向上させながら雇用の安定を図ろうという雇用安定の原則。
②生産性の向上のさせ方、仕事の仕方などについては、
労使で十分協議してやろうという労使協議の原則。
③生産性が上がったら、上がることによって付いた付加価値は、
ステークホルダーの間で適正に配分しようという適正配分の原則です。
適正配分の原則は、当然、株主あるいは企業自体の、
設備投資などに使う内部留保という取り分もあるでしょうし、
社員、従業員には賃金などで配分してほしいということもあるでしょう。
高木
消費者に向けては、サービスのレベルアップのために、
製造業であれば株主引き上げ、それから地域社会には税金という格好です。
いろんなステークホルダーに対して適正に合理的に配分しましょう、
というこの3つの考え方が、
日本の戦後の過程で大きな役割を果たしたと思います。
結城
いい会社にはいい労働組合がありますね。
高木
労働組合ができたときは誰もそう詳しいわけではないので、
結成する前に、その道の先達の人たちの正しい動きについて勉強してもらい、
会社側とはいい意味での緊張感を持つべきです。
高木
私は若いころ先輩から、「労働組合というのは会社を映す鏡だ」と言われた。
「だからお前たちがブサイクだと会社が笑われるぞ」
という教えを受けたことがある。
高木
経営者側に対するお願いは、経営者の立場があるかもしれないが、
労働組合の役員になっている人間をある意味では育ててやってほしい。
それはいずれ会社のために必ず戻ってくるわけだから。
それからときどきは励ましてやってほしい。
ベタベタしてくれという意味ではないですよ。
高木
労働組合が存在する意義は、
働きやすい職場をつくり、
そこで働くことによって生活を成り立たせ、
できれば権利の改善をすることです。
そして、日本の社会が健全な民主主義へ発展していくために、
必要な機能を果たすことです。