結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2020年09月03日(木曜日)

「アベノミクス」も「経営戦略」も継承するか? 修正するか?

ちょっと涼しくなってきた。
とはいえまだまだ蒸し暑い。
強力な台風10号が、
南から日本列島に向かっている。

今日は一日、横浜商人舎オフィス。
来客もなくて、原稿執筆。

編集スタッフの鈴木綾子さんが、
米国の資料を翻訳してくれて、
それをもとにアンカーとして、
加筆しつつ、原稿として仕上げる。

出来上がった原稿は、
1万2353字。
400字詰め原稿用紙にして30枚。

村上春樹さんは毎日、
10枚書いたら止める。

小説ならば、
しかも売れっ子作家ならば、
それでいいかもしれないが、
専門経営誌の締め切り間際は、
そうはいかない。

書き終わったら、
ちょっと校正などする。

そういった業務のとき、
アロハシャツは最適だ。
IMG_85250000

さて、安倍首相退陣表明のあと、
新聞各紙が「アベノミクス」の総括を始めた。

そのなかで日経の社説。

経済専門紙ではあるけれど、
社会面も文化面もとてもよくなった。

日本の新聞全体を見渡したとき、
まあ中道といったポジションだろうか。

昨年の2月だからもう1年半が過ぎたが、
田村正紀先生と対談した。
神戸大学名誉教授。
201903_tamura8_jukkai

そのときの田村先生の発言。
「ヨーロッパの経営者セミナーでも
アリストテレスの『ニコマコス倫理学』を
必読書として読ませる」

アリストテレスは、
プラトンの弟子。
プラトンはソクラテスの弟子。
そしてアリストテレスの弟子は、
アレクサンドロス。

「彼のキーコンセプトは中道です」

「倫理教育と言うと日本人は
嫌がるかもしれないけれど、
ものの判断基準です」

「人を動かすための最後の判断基準は
どこに置くべきか」

「日本も、そのあたりの教育をどうするか。
情報ばかり取っていればいいと思ったら、
グローバル社会で負けますよ」

日経はその意味で今、
「中道」のメディアだと思う。

さて今日の日経の社説。
安倍晋三首相の経済政策、
「アベノミクス」を問題にする。
20200601sei_yoto0200
自民党総裁選挙の前に、
われわれも認識しておかねばならないこと。
候補者の議論を聞きたいこと。

アベノミクスを継承するのか、
アベノミクスを修正するのか。

会社の戦略を確定するときにも、
店や部門の政策を決めるときにも、
明確にしておかねばならない。

継承するのか、
修正するのか。

2012年末に政権に返り咲いた安倍首相は、
アベノミクスを始動させた。

その3本の矢は、
⑴金融緩和
⑵財政出動
⑶成長戦略

「長引くデフレから脱却し、
日本経済を確実に再生に導くには、
避けて通れないポリシーミックスだった」

「これが円安・株高を演出し、
家計や企業の心理を好転させた」

ここは評価できる。

「12年末に始まった景気の拡大局面は
71カ月に及び、戦後2番目の長さを記録」

しかし、
「13~19年度の年度平均の成長率は
実質0.9%、名目1.6%にすぎない」

2018年の1時間当たりの労働生産性は、
OECD加盟36カ国の21位で、
2013年とほぼ同じ。

そこで検証。
「アベノミクスのカギを握るのは、
民需を喚起する成長戦略のはずだった」

「にもかかわらず、
技術革新などを促す
十分な施策を講じられず、
潜在成長率の底上げにつながらない
痛み止めの金融・財政政策に
頼りすぎた点に問題がある」

それでも為し遂げたこと。
「環太平洋経済連携協定(TPP)や、
EUとの経済連携協定(EPA)を発効させた」

「法人税率の引き下げも評価できる」

しかしマイナスだったこと。
第1に、
「規制改革への取り組みは甘かった」

「医療や教育などの分野で
多くの岩盤規制を温存した」

第2に、
「働き方改革」や「一億総活躍」は、
「問題意識は正しくても、
本丸に切り込めないのでは
意味がなかろう」

第3に、
「企業統治の改革も道半ばに終わった」

「株主と経営陣との対話を促し、
社外取締役の起用を増やす制度を
整備した効果もあって、
上場企業の自己資本利益率(ROE)は
一時10%を超えた」

「それでも100兆円規模の現預金を
抱え込む状況に変わりはない」

第4に、
「官民のデジタル化を推進する努力が
決定的に足りなかった」

結論。
「第1と第2の矢から第3の矢へと、
平時にうまくバトンを託せなかった」

ここに「失敗の根幹」がある。

「中道」の新聞が、
アベノミクスの失敗の根幹を指摘する。

「安倍首相の成長戦略は、
官製のスローガンや
数値目標を前面に押し出し、
その方向に家計や企業を誘導する
パターナリスティックな体質があった」

パターナリズムは、
「家父長制、父権主義、家族主義」など。

実はこれが、
「やってる感」だ。

「それよりも規制緩和などで
民間の創意工夫を引き出す環境づくりに
徹した方がよかった」

「やらせる感」が、
必要だった。

「第1と第2の矢に依存したツケは
あまりにも大きい。
国と地方の長期債務残高は、
GDPの2倍に当たる1100兆円まで膨らんだ」

「日銀が大量に国債を購入し、
政府の財政赤字を実質的に
穴埋めするような状態が続く」

黒田東彦総裁の日銀も、
「異例の金融緩和の出口を探るのは難しい」

消費税率の2度の引き上げ。
しかし「日本経済はコロナ下の4~6月期に、
戦後最大のマイナス成長に沈んだ」

「”強い経済”への取り組みは、
もはや振り出しに戻った」

当面は、
「コロナ危機への対応が最優先でも、
その先に問われるのは
やはり第3の矢だろう」

まあ、常識的な見方だ。
つまり、これが「中道」か。

最後の提言。
「次期首相も
肝に銘じてもらわねばならない」

正解はもちろん、
「修正する」である。

〈結城義晴〉


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