「そこまでやるか」の上方大工の仕事ぶりとイノベーション
このところ、仮眠ばかり。
立教大学大学院結城ゼミのメンバーの卒論提出が、
明日午後8時と迫っていて、
私はかつての雑誌編集長の心構えで、
記事に赤字を入れるがごとく、
読みふけっているからだ。
いずれも力作で、
手を抜くことができない。
ギリギリまで、粘って、
少しでも良い論文にしようと、
頑張る。
すると時間は、
あっという間に過ぎていく。
この時間、
楽しいんだか、
苦しんだか、
辛いんだか、
よくわからない。
そういった境地になる。
しかしそれでも、
手は抜かない。
私はそうやって生きてきた。
さて、日経新聞の一面コラム『春秋』。
今日は、JR福知山線脱線事故の話。
しかしそのイントロダクションに使われたエピソードが面白い。
「江戸と上方の大工仕事」の古いたとえ話の比較。
それが仕事に対する気質を表しているという。
「江戸は100人の手間がかかっているようでいて、
じっと見ると80人の手間しかかけていない」
「上方は100人のようでいて、
実は150人の手間がかかっている」
この上方の仕事ぶりを「ねつい」というそうだ、。
「ねつい」とは、
「粘り強い、綿密でねちこい」といった意味。
「人の目の届かぬところも手を抜かず、
そこまでやるか、というほど念を入れる」
いい気質だ。
「ねつい」。
私の編集仕事は、
これを志していた。
さて昨日は、滋賀県彦根を訪れた。
平和堂の研修会。
昨年2回、アメリカ視察セミナーをコーディネートした。
その総括報告会。
平和堂社長の夏原平和さんが、
最初に講義。
夏原さんは故渥美俊一先生のもとで、
徹底してアメリカのチェーンストアを学んだ。
だから一本、芯が通っている。
渥美門下生ということでは、
私の兄弟弟子。
だからなにを、どう、アメリカに学ぶかが、
良くわかっている。
夏原さんの講義の後、
昨年秋にアメリカ研修を受けた60人9班のリーダーが、
それぞれに報告をした。
とてもよかった。
私はすべてに講評をした。
ちょっと辛口だったけれど。
そして春に同じくアメリカ研修を受けたメンバーが、
やはり同席していて、
鋭い質問を投げかけたり、
自分のイノベーションを披露しつつ、
報告者と共有できる考え方を述べたり。
ともにイノベーションを果たそうという
気概にあふれた報告会だった。
最後に1時間、私の総括講義。
今年最初の講義でもあり、
いつも以上に気合が入って、
声がかれた。
夏原さんと写真。
そして研修終了後には、
春の団長、副団長、
秋の団長、副団長と、
写真。
右から秋の副団長・販売促進部部長の杉崎邦彦さん、
団長の経営企画本部本部長の平松正嗣さん、
専務取締役営業統括本部長の中田俊数さん、
春の団長・取締役教育人事部長の村上茂人さん、
副団長の経営企画部長の谷口昇さん。
私はこういった研修を、
イノベーションの現出のためにやっている。
ピーター・ドラッカーの言葉。
イノベーションの三つの「成功条件」。
(1)イノベーションは、
集中でなければならない。
(2)イノベーションは、
強みを基礎としなければならない。
(3)イノベーションは、つまるところ、
経済や社会を変えなければならない。
そう、イノベーションは、つまるところ、
地域経済や地域社会を変革しなければいけない。
小売業のイノベーションは、
即、地域のお客様の生活を変革する。
それを志すかぎり、
成功条件の第3はクリアできる。
それがイノベーションである。
イノベーションを起こすためには、
「人の目の届かぬところも手を抜かず、
そこまでやるか、というほど念を入れる」
そしてイノベーションが果たされたら、
飛躍的に大きなご利益がもたらされる。
それが組織や会社に戻ってくる。
上方大工は、知っていた。
この「戻ってくる利益」の確かさを。
そうでなければ、
あの上方人が、
「そこまでやるか」を、
やるはずがない。
だから「100人のようでいて、
実は150人の手間」がかかっていた。
何度もいうが、
100人の手間に見えるところに、
150人の手間をかけて、
イノベーションを起こせば、
1万人、10万人、100万人の人々の生活を変えることができ、
それが組織に膨大な利益をもたらす。
「そこまでやるか」
この繰り返し、
積み重ねが、
ほんとうの仕事である。
<結城義晴>