スティーブ・ジョブズと中内功の「夢想と思い」
「明日は関東地方に大雪」
「警報レベルになるかもしれない」
朝から盛んに報道された。
まだ夕方の空には雲があった。
雲は動いていなかった。
しかし大雪報道によって、
スーパーマーケットは、
年末並みの混雑を極めた。
オーケー、ロピアは行列ができた。
私のところにも、
ウォッチャーから報告が来た。
顧客は天候の異変に敏感になった。
気象庁もマスコミも、
過剰にアナウンスし報道する。
消費者はその予報や報道に動かされる。
実際の天候よりも、
天気予報に影響力がある。
月刊商人舎2020年1月号で、
「極端気象」を特集した。
新型コロナウイルス感染拡大の直前だった。
その特集の中で、
顧客は天気予報に従って行動することを、
強く指摘した。
実際に起こった天候の変化よりも、
天気予報によって動く。
それは商売にとって、
極めて大事なことだ。
2月7日((月)の「ほぼ日」
糸井重里さんが書く、
「今日のダーリン」
「昔、商売をやっている人に
相談されたことがありました」
「イトイさんだったら、
どういう店が理想ですか?」
「そういうときに、ぼくは
“どういう店があったら、
その商売はうまくいくか、
稼ぎにつながるか”を考えてしまって、
親切めかしてそれを言ったわけですよ」
「そしたら、その人が、
静かに言ったんです。
“どういう店が儲かるかとかは、
わたしの専門なんです。
イトイさんには、
そんな利益とかに関係なく、
どんな店があったらいいだろうなぁ
を聞きたいんです”と」
うわあーっ。
衝撃的なご発言。
「夢のような、
理想だなぁと思えるようなことが、
いまビジネスをしているじぶんたちには
考えられない。
“ほんとうは、どういうものがいい”
という夢が、
みんなが思いつく
ありきたりのものになってしまう」
「ホラのようでも、冗談みたいでも、
夢想でも、
“そんなのあったら、
だれだってうれしいさ!”
という想像さえできれば、
ビジネスは後で考えられる、と」
糸井重里の告白。
「それを言われたときは
ショックだったなぁ」
「ちょいと利口ぶって
“どうやったら利益があがる”とかを、
考えられるつもりでいたのかよ、
という思い上がりと、
じぶんなりの、笑って語りたい
“夢のようななにか”を、
考えられなくなっているという現状に、
落ちこんだのです」
わかる。
スティーブ・ジョブズは、
そんな夢想をする若者だった。
年をとっても夢想した。
だからマッキントッシュが生まれ、
iPhoneが登場した。
1998年2月、
最後の商業界箱根ゼミナールの、
その最終講座。
私は舞台の袖で聴いていた。
前にも書いたけれど、
故中内功さんが特別講演をしてくれた。
「皆さん、赤ちゃんはどうして
生まれてくると思いますか。
それは、若い男性と若い女性の、
赤ちゃんがほしいという『思い』から
生まれてくるのです」
「事業も会社も『思い』から
生まれてくるのです」
夢のような何か。
それをいつも考えている。
それにいつも挑んでいる。
そして失敗し打ちのめされても、
さらに考える。
さらに挑む。
それが商人だ。
それが起業家だ。
極端気象と感染症パンデミックの中でも、
夢のようなことを考えていたい。
雪が降ってくる前だからだろうか。
そんなことを思った。
〈結城義晴〉