1年の折り返しの日の「傘がない」
7月2日の日曜日。
1年は365日。
1月1日から数えると、
7月2日がその折り返し点だ。
ああ、折り返し点か。
マラソンランナーのように、
考えてみる。
ここまで、よく走ってきた。
ありがたい。
あと半分をがんばろう。
そんな気になる。
木々は生き生きとしていて、
あと半年を乗り越えるぞ、という意志が感じられる。
ラベンダー。
朝日新聞「天声人語」
今はどうか知らないが、
大学入試問題に出題されるとか。
読売新聞の「編集手帳」と並んで、
名文が多いとされる。
全面的に賛成はできないけれど。
今は、「折々のことば」のほうが、
断然、いい。
「ああ、傘がない。
しまった。忘れた。
そんな思いをすることが
ずいぶんと増えた気がする」
今年はとくにそう感じる。
このところ私も、
続けてコンビニで傘を買ってしまった。
傘は安くなった。
いつでもどこでも、
コンビニやスーパーマーケットや、
ドラッグストアで買える。
天声人語。
「真夏のような強い日差しだったかと思うと、
ゲリラ豪雨が突然に降り出す。
急変する天気に
傘のありがたさを痛感する日々である」
「名曲『傘がない』を井上陽水さんが歌ったのは
もう半世紀も前のことだ」
♪都会では自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の町に行かなくちゃ 雨にぬれ
つめたい雨が今日は心に浸みる
君の事以外は考えられなくなる
それはいい事だろう?
セブン-イレブン1号店の豊洲店は、
1974年開業である。
この時代にコンビニはなかった。
それにたいてい、
一人が一本だけ傘を持っていた。
主人公はその一本の傘を持っていない。
だから雨が降っているのに傘がない。
深刻な問題だった。
二番。
♪テレビでは我が国の将来の問題を
誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
だけども問題は今日の雨 傘がない
行かなくちゃ 君に逢いに行かなくちゃ
君の家に行かなくちゃ 雨にぬれ
つめたい雨が僕の目の中に降る
君の事以外は何も見えなくなる
それはいい事だろう?
天声人語。
「新聞やテレビが報じるのは、
何やら実感がわかない、
遠くの話ばかりではないか。
もっと目の前の難題にあたふた
振り回されているのが、
私たち人間というものではないのか」
「作り手の問題意識が
強く伝わってくる話である」
陽水がそこまで考えていたかどうか。
「いまは亡き筑紫哲也さんはこの歌を聞き、
人々の関心から離れたニュース番組を
つくってはなるまい、と思ったそうだ」
これは有名な話だ。
井上陽水の発言。
「傘は平和や優しさだったりする」
(ロバート・キャンベル『井上陽水英訳詞集』)
天声人語。
「なるほど、と気づく。
だから、ひとはよく、傘を忘れるのか。
忘れて、失って、それからいつも、
しまったと悔やむのか。
ああ、傘がない」
ただしこの「傘がない」の楽曲。
グランド・ファンク・レイルロードに似ている。
「ハートブレイカー」のコード進行と同じ。
アレンジも似ている。
1969年のリリース。
グランドファンクの歌は、
「Gimme your love」を連呼する、
シンプルな歌詞だ。
だから陽水この曲の価値が、
それによって損なわれることはない。
私にとっては、
コンビニやスーパーマーケット、
ドラッグストアが、
これだけ世間に普及して、
生活が便利になったことが、
なんとも意義深く感じられる。
それもちょっと寂しいか。
〈結城義晴〉