玉生弘昌の「日本再評価の年」とバフェットの「永続的競争優位」
本ボランタリーチェーン協会の機関誌。
「ボランタリーチェーン」
隔月刊で発行されている。
その2024年1月号は通巻124号。
協会会長、副会長の年頭のご挨拶。
それから正会員、賛助会員の年頭所感。
これらが掲載されていて、
読みごたえがある。
その中に、
玉生弘昌さんの一文がある。
一般社団法人流通問題研究協会会長。
㈱プラネット代表取締役会長。
実に鋭い切り口、いい提案だ。
「昨年、世界的に有名な投資家
ウォーレン・バフェットが
日本株を買ったという情報が広がり、
日本株が上がりました」
「バフェットは
日本の商社の株を取得したということですが、
日本の商社は、世界的にはない
日本的なビジネスモデルです」
世界にないビジネスモデル。
「欧米の目線は、
日本は欧米モデルとは異質で、特殊で
遅れているとの認識が強かったと思います」
「世界地図は、
イギリスのグリニッジが真ん中にあり、
一番右端、つまり極東にあるのが日本です。
日本は世界の一番端にあるという認識です」
欧米中心主義。
「それが、2020年の調査で、
行きたい国の筆頭に日本が上げられました。
そして、その通りに欧米から
多くの人が来日しています」
旅をするとそのことを痛感させられる。
大阪、京都、奈良、神戸。
東京でも横浜でも、
北海道でも九州でも。
「彼らは日本の旅を楽しんでいます。
日本食がおいしい、トイレがきれいで清潔、
空気が清浄、治安がいい、
と感じてくれていると思います」
海外から帰ってくると、
このことを実感する。
「しかし、日本には
もっといいところがあります。
世界最古の会社”金剛組”、
世界最古の木造建築”法隆寺”、
世界最古の王室”天皇家”、
世界最大の墓”仁徳天皇陵”、
そして、ミシュランの星の数が世界一。」
「ぜひ知ってほしいと思います」
同感だ。
「『選ばれた民』という言葉が
何度も出てくる旧約聖書を経典とする
キリスト教徒は選民意識を持っていますので、
自分たちとは違う文明を、
野蛮で遅れていると認識していました」
「そのため、17世紀から19世紀までに
世界の大半を植民地にしました。
アフリカ全土、南アメリカと
アジアの沿岸部を侵略し、
住民を奴隷にしたのです」
一神教には、
他の宗教の民を殺しても、
なんとも思わないところがある。
それが今のパレスチナ問題の根本にある。
「その後、奴隷側は廃止され、
基本的な人権が認められるようになったのですが、
潜在意識として選民意識は残っています」
アメリカ人は比較的フランクで、
グローバル意識が強かったと思うが、
ドナルド・トランプがそれを戻してしまった。
「したがって、日本の文化を
珍しいモノで興味深いと見ていたものの、
リスベクトするべきものとは
見ていませんでした」
「ところが、近年
日本をより深く理解する人が増え、
リスペクトしてくれるように
なってきたように思えます」
そう、日本をリスペクトしてくれる人が増えた。
「日本の商社のようなビジネスは
欧米にはありません。
海外からの調達や輸出を支援してくれる
ブローカーのようなビジネスはありますが、
組織的に世界を相手に取引を進めてくれる
日本の商社のようなビジネスは見当たりません」
サプライヤー、ジョバー、ブローカーはいる。
けれど日本の商社機能は欧米にはない。
「そのような存在を異質であると、
理解しようとしなかった欧米人でしたが、
投資家バフェットが日本の商社を
評価し投資をしてくれました」
バフェットは、
バークシャー・ハサウェイ社の会長兼CEO、
そして自ら筆頭株主。
同社は世界最大の投資会社で、
2023年度年商3021億ドル。
1ドル140円ならば42兆2940億円。
アメリカ第7位の規模をもつ企業だ。
玉生さん。
「投資家というものは、きわめて
唯物的で合理的な判断をしますので、
注目されています」
そのバフェットが、
日本の商社の株を5%ずつ買った。
三菱商事、伊藤忠商事、三井物産、
住友商事商事、丸紅。
バフェットの語録。
「永続的競争優位性をもつ企業に投資する」
だからバフェットはウォルマートの株ももっている。
さらに、
ルール1 絶対に損をするな。
ルール2 絶対にルール1を忘れるな。
玉生さん。
「今後は、心地いいとか美しいという
感性による理解とともに
計算づくの理性による理解も
深まると思われます」
「今年は、世界と日本との
新しい関係の幕開けの年になることを
期待したいと思います」
年頭所感でこんなことを書く人はいない。
ほかの人たちのコメントも良かったけれど、
玉生さんの一文は際立っていた。
今、日本の政治は行き詰っている。
株価はバブル崩壊以来で最高値をつけるものの、
実体経済の展望は明るくない。
けれど、
日本の良さ、
日本人の美点に、
自信と誇りをもって、
世界との新しい関係をつくる。
その幕開けの年にしたい。
玉生さんの言う通りだ。
〈結城義晴〉