「てまえどり」の「自分の家なら古い牛乳から飲むだろう」
昨夜の雪。
帰宅のときの坂道は、
大変だった。
明けると横浜も雪景色。
東京都心を含む関東甲信地方の大雪。
交通機関は遅れるし、
車は渋滞するし、
大都会の雪の弱さが露呈された。
雪による怪我人は298人に上った。
24時間降雪量。
長野市で31㎝、甲府市で12㎝、
東京都千代田区で9㎝、
さいたま市で8㎝、
横浜市と宇都宮市で4㎝。
それでも突然の大雪に、
子どものころのように、
ちょっとだけ心が躍った。
怪我をした人たち、
すみません。
さて山陽新聞巻頭コラム「滴一滴」
今日のテーマは、
「食品ロス」
ままごとも
導入された
てまえどり
消費者庁の食品ロスに関する川柳コンテスト。
最優秀賞に輝いた岐阜県の女性の作品。
「てまえどり(手前取り)」は、
小売店舗で棚の手前側にある、
消費・賞味期限の近い商品から購入すること。
農林水産省、環境省、消費者庁などが、
日本フランチャイズチェーン協会とともに、
3年近く前から呼びかけている。
参加企業はコンビニ4チェーン。
セブン-イレブン、ファミリーマート、
ローソン、ミニストップ。
まだ食べられるのに、
廃棄される食品を減らすためだ。
山陽新聞だけに、
岡山県赤磐市のイタリア料理人が登場する。
E-Flatの藤原祐哉さん。37歳。
10年ほど前、
食文化を学びにイタリアを訪れた。
そして現地シェフの食材仕入れに同行した。
ズッキーニを品定めしていると、
手前から取るようにたしなめられた。
牛乳売り場に連れて行かれて、
「自分の家だと古い牛乳から飲むだろう。
どうしてスーパーだと新しい物を買うのか。
イタリア全体が冷蔵庫だ」
大きさや形が不ぞろいの野菜の箱を
中身も確認せず持ち帰るのにも驚いた。
当時働いていた東京の店では、
使う野菜は品種ごとに一定の大きさで、
先が二股の大根などは問題外だった。
帰国後、郷里の赤磐で店を構えた。
野菜中心のイタリアンを掲げ、
地元産にこだわる。
規格外野菜も受け入れる。
イタリアのシェフの言葉。
「野菜も人間も一緒。
みんな同じ身長じゃなきゃだめなの?」
私も納得。
「イータリー」に通じる哲学だ。
「消費期限」と「賞味期限」の問題でもある。
消費期限は、
加工食品の「安全性」を担保できる、
最長期間を示す。
一方、賞味期限は、
加工食品の「品質」を保持できる期限。
アメリカでは消費期限が使われ、
日本では賞味期限が適用される。
例えば一般に牛乳の場合、
賞味期限は店頭で購入した時から約1週間。
消費期限は賞味期限のさらに1週間だ。
牛乳を未開封の状態で、
冷蔵庫で保存した場合には、
賞味期限を3日過ぎても、
安全な状態で飲める。
このことはもっと周知されていいだろう。
そして日付管理の期間を適正にする。
それが全体として、
廃棄ロスを減らすことになる。
もちろん牛乳は飲料だから、
人によっては3日で症状が出る可能性がある。
そのことは承知しておかねばならない。
しかし「てまえどり」は、
スーパーマーケットにとっても、
コンビニやドラッグストアにとっても、
実にありがたい。
それをやってくれる顧客には、
1割引きぐらいのサービスをしたいものだ。
フランチャイズチェーン協会だけでなく、
日本チェーンストア協会も、
スーパーマーケットの3協会も、
チェーンドラッグストア協会も、
「てまえどり」に参加したらいい。
いかがだろう。
自分の家ならば、
古い牛乳から飲むだろう。
「イタリア全体が冷蔵庫だ」
素晴らしい。
〈結城義晴〉