コーネル大学RMPジャパン第二回講義と公開講座抄録
バラク・オバマ氏の大勝を受けて、
世界がその動向を注目している。
まずは、米国の経済再生と景気浮揚だとの指摘。
しかし、貨幣経済と実体経済の問題こそ、
最重点課題であることは変わりない。
伊藤忠商事会長・丹羽宇一郎さんの見解通り。
さて、11月5日、
コーネル大学RMPジャパン講義。
東京・市ヶ谷の法政大学。
私たちのクラス。
荒井伸也首席講師の講義は
「スーパーマーケット原論」。
「日本でスーパーマーケットを作るとはいかなることか」
サブタイトルがつけられている。
最初は、「サミットストア物語」から自伝的な経験のストーリー。
『チェーンストアエイジ』に長きにわたって連載されている物語だ。
その後、スーパーマーケットとは何か。
業態の一般論。日本人の内食事情。
日本における生鮮食品の難しさ。
消費者に見放された初期のスーパーマーケット。
職人問題の解決。
こういった日本のスーパーマーケットの原点問題を、
荒井先生は丁寧に、論理的に整理してくださった。
メーカーのプロダクトが「商品」であるのに対して、
スーパーマーケットのプロダクトは「店舗」である。
これが荒井先生の持論。
見事なスーパーマーケット本質論であった。
私は、「商業の理念と現代化の思想」。
まさに、ミッションそのものを論じた。
世界の商業の近代化の歴史から解き明かし、
小売業のポジショニング、
ご存知「働きたい企業ランキング」とCS&ES。
商業現代化のビジョン。
法政大学教授で主任講師の矢作敏行先生は、
「小売イノベーションモデル①」
小売業におけるイノベーションとは何か。
いかにイノベーションが発生するか。
そのために小売業務の革新はどんなところで起こるか。
そして業態はいかに発展するか。
業態のライフサイクルとは何か。
小売イノベーションの連続性と累積性に関する考察。
アカデミックに小売業の革新を説いてくださった。
良い講義の一日目は、終了し、
6日、二日目は公開講座。
場所は、東京・芝公園の東京グランドホテル。
朝9時から、150人の参加者が集まった。
もちろん第一期生の26人は最前列で熱心に学んだ。
冒頭で、副学長の挨拶。
何度も何度も、私は語る。
コーネル大学リテール・マネジメント・プログラム・オブ・ジャパンの主旨と意義。
日本のスーパーマーケットと食品産業のための、
「産業内大学」であること。
次の50年に向けて、
「本物のリーダー」を残す目的であること。
第一講座は、河津司さん。
経済産業研究所総務ディレクターにして第一期生でもある。
「経済産業省の流通政策」
商業統計や家計調査年報を駆使して、
現在の流通業の位置づけを明確にしたあと、
通産省から経産省に至る流通政策の系譜を、
わかりやすく解説。
そして自身の関与した「街づくり三法」まで。
よく整理されたプレゼンテーションだった。
第2講座は、
ライフコーポレーション会長の清水信次さん。
日本スーパーマーケット協会会長。
明治維新から、ご自分の生まれた大正時代の日本の動き。
太平洋戦争とその後の闇市の中から商売を始めたエピソード。
83歳の清水さんは1時間半、立ちっぱなし。
よどみなく数字と固有名詞が繰り出され、
一人の商人の生きざまが描かれた。
一同、その元気ぶりと記憶力と描写力に、あっけにとられた。
感動した。
化け物級の商人のミッションは、皆にしっかと、伝わった。
昼食休憩後、第3講座は、
ヤオコー会長の川野幸夫さん。
ヤオコーの生い立ちと、
「絶対に商人になりたくなかった自分」が、
流通革命論に燃えて、この世界に入ったこと。
そしてヤオコーは、エクセレント・カンパニーを超えて、
「アドマイヤード・カンパニー」を目指すこと。
このことを繰り返し、繰り返し、語り続けていること。
ライフスタイル・アソートメント型スーパーマーケットを、
つくってきたこと。
これからも「アドマイヤード・カンパニー」を、
目指し続けること。
川野さんの考え方の、見事な集大成であった。
その後、質問タイム。
「ヤオコーの店長塾」に関する質問、
「食の安全問題」に関する質問など。
最後に川野さんは、
スーパーマーケットの社会的地位の低さについて、語った。
ある新卒社員の母親が言った。
「うちの娘は高校まで出て、どうしてヤオコーなんだ」
悲しかった。悔しかった。
川野さんは今も、この母親の言葉を忘れない。
第4講座は、アークス社長の横山清さん。
全国スーパーマーケット協会理事長、
日本セルフ・サービス協会名誉会長。
「アークスグループの経営ビジョン」とタイトルされ、
「スーパーマーケットの地政学」とサブタイトルされている。
創業の苦労から始め、
地政学とスーパーマーケットの店舗展開の関係性を説き、
八ヶ岳連峰経営、クリティカル・マスといった横山理論を展開。
私は、横山さんからも多くを学んで、持論を構築している。
だからほんとうにうれしかった。
横山さんの講義は、ユーモアにあふれ、
ウィットに富み、
批判精神に満ちていた。
その上に、業績がついてきている。
この講座も、見事なミッションの提示であった。
最後に、荒井伸也首席講師のまとめ。
オール日本スーパーマーケット協会会長。
「三人のリーダーのコミュニケーション能力の高さこそ、
日本のスーパーマーケット経営者に共通する特徴です。
そしてそこには“愛”があふれている。
清水さんには、日本に対する愛、
川野さんには、小売業に対する愛、
横山さんには、地域社会に対する愛があります」
荒井さんのまとめは、いつもながら鋭くて、的確。
無事終了したコーネル大学RMPジャパン公開講座。
近来にないセミナーだった。
すべての皆さんに、心から感謝。
<結城義晴>