大岡政談「三方一両損」と「大晦日のお弁当箱とハンカチ」

土曜日は休養日。
やっと時差ボケの眠気がなくなった。
今回は回復するまでが長かった。
毎日新聞巻頭コラム「余録」
「三方一両損」の大岡政談。
有名な話でこのブログでも何度か書いた。
年の瀬に3両を拾った左官屋が、
落とし主の大工を探し出す。
だが大工は「厄落としだ」と受け取らず、
裁判になった。
大岡越前守は1両を負担し、
正直な2人に2両ずつ報奨金を与えた。
江戸時代の「公事方御定書(くじかたおさだめがき)」
ここにも拾得物の規定があった。
「現金は落とし主と拾い主が半々に分け、
謝礼は今より高額」
「持ち主が半年現れなければ、
拾い主の物になる規定は、
18年前の改正遺失物法施行まで長く同じだった」
明治以降の日本の学校教育でも、
拾得物は必ず届け出るように教えられ、
当たり前の習慣として根付いた。
実にいいことだ。
日本は世界的にも、
落とし物が見つかりやすい国として知られる。
昨年、日本の警視庁に届けられた現金が、
過去最多の約45億円に達した。
このニュースを中国メディアが取り上げた。
そしてタイトルをつけた。
「あなたにはできますか」
「素養がどれだけ高いのか」
中国の読者からも体験談が寄せられた。
「百貨店でお金をなくして
2時間後に警察に行くともう届いていた」
2年前には米国人女性が
日本旅行中になくしたダイヤの婚約指輪が
東京駅で見つかって交番に届けられ、
手元に戻った。
これは米国のメディアで報じられた。
交番、警察の遺失物センターや駅、
百貨店の忘れ物窓口。
安東みきえさんの物語。
やまあいの街の駅の遺失物係の人が、
少女に読んでくれた、
月曜日から日曜日までのお話。
コラム。
落とし物を探し出すデータベース。
完備されたシステムも外国人には驚きらしい。
コラムニスト。
「インバウンド大国を目指す上で
大事なソフトインフラである」
私は、違う思いだ。
インバウンド大国など、
目指さなくてもいい。
そんな国に住んでいることを、
誇りに思うし、
心が安らかになる。
そしてそんな国であり続けてほしいと思う。
そんな国を守りたいと考える。
2008年4月。
㈱商人舎を設立した時の私の著書。
『お客様のためにいちばん大切なこと』から。
2006年12月31日、大晦日。
東北のスーパーマーケットとして、
日本有数のクォリティとホスピタリティを誇る
ヨークベニマルの、
ある店の社員食堂でのこと。
ちょうどお昼を過ぎた時間帯。
パートタイマーさんが3人、
遅い昼食休憩に入っていた。
ヨークベニマルでは、
8割がたのパートタイマーが、
自分で弁当をこしらえて持ってくるという。
倹約のためだ。
忙しい年末の仕事の中の、
ほっと一息つく瞬間。
突然、鉄腕アトムのテーマ音楽がかかった。
すると3人のパートさんが、誰言うとも無く、
静かに自分たちのお弁当箱にハンカチをかぶせて、
店に出て行った。
ヨークベニマルでは、
お客さんがレジに並ぶと、
店内に、耳になじんだ
あの鉄腕アトムのテーマが流れる。
店員さんたちに知らせるためである。
大晦日だから、当然のことかもしれないが、
昼のピークタイムが終わったにもかかわらず、
このとき鉄腕アトムが鳴り響いたのだ。
パートさんたちは、
レジに入るために昼食を中断したのである。
10分ほどしてから、彼女たちは帰ってきて、
またハンカチをとって、
昼食の続きをとったというが、
このさりげない姿に、
偶然にもこの店に年末の激励に訪れていた
同社大高善興社長は、ひどく感動した。
もちろん心から感謝した。
小売業の店に、お客は、
毎日のようにやってくる。
もちろん商品が確かだから、
この店にやってくるのだろう。
良い品が安いから、
やってくるのかもしれない。
しかし、こんなパートタイマーさんが
レジで迎えてくれるからこそ、
この店が好きだと思ってくれる顧客は多い。
ヨークベニマルの高い支持率は、
こういった全従業員の
日常の行動に支えられている。
「弁当箱にハンカチをかぶせて、
店に出て行くパートさんの姿」
想像するだけで、
心がジンとしてくる。
こんな店であり続けてほしいと思う。
こんな店を守りたいと考える。
ありがとうございます。
〈結城義晴〉
2 件のコメント
ヨークベニマルさんのバックヤードには、パートタイマーさん達が自ら発信する様々な事例紹介がペタペタとはり出されていて、自然体で発信される愛のオーラをすごく感じたのを覚えています。何十年も前の経験談ですが、ネギや大根などの生き生き溌剌とした陳列はこういう所から生まれるのかと、とても得心しました。
もしかすると、お客様の喜びを自らの喜びとする、これが商売、商人の論理でしょうか。工業の論理には感心する。商業の論理には感動する。というような。
吉本さん、ありがとうございます。
素晴らしいですね。
お客の喜びを自らの喜びとする。
工業の論理の製造業の皆さんも、
これは同じでしょうね。
「イノベーションの必要性を最も強調すべきは、
技術変化が劇的でない事業においてである」
だから商業や製造業、卸売業の営業の仕事には、
感動が必要なのでしょう。