鈴木敏文「人間心理学・仮説と検証・継続」と経営の短期か長期か
今日は横浜の商人舎オフィス。
新田間川の川面もちょっとだけ緩んできた。
正月8日だというのに、
寒さの中のほんの少しの温かさ。
三寒四温と言ったりするが、
その「三日寒くて四日暖かい」の厳密さは、
もう大分、薄れてきた。
川べりの木々の姿が美しい。
彼らも今日の温かさを感じ取っているようだ。
横浜高島屋は、外装だけ見ても、
元気よさそうだ。
日経新聞に「初売り商戦に消費回復の芽」の記事。
「今年は日並びが良いこともあり、
6日までの売上高は
前年を上回る百貨店や専門店が多い」
「消費者心理が大きく改善されたわけではないが、
消費回復への期待が高まりそうだ」
セブン&アイ・ホールディングス会長の鈴木敏文さんは、
「消費者心理」をこそ重視する。
「人間の心理を考えた
細かなものの見方から仮説を立て、
正確なデータによって検証していくことを
継続的にやっていく」
〈著書『商売の原点』第二章「お客様の心をつかむ」から〉
この言葉には、鈴木さんのビジネス観がくっきりと、
しかもほとんどすべての要素が込められている。
「人間心理学」「仮説と検証」、
そして「継続」。
鈴木経営が言い尽くされている。
その消費者心理は、今日の陽気のごとく、
ちょっと温まってきたが、
まだ本格回復には至っていない。
日経記事は、そのセブン&アイ傘下のそごう・西武から始まる。
今年は百貨店で初めて全店元日営業。
「セール品目当ての顧客を取り込み、
1~6日の売上高は昨年1月2~7日と比べ15%増」
大丸松坂屋百貨店も、
2~6日の売上高が前年同期比9%増。
高島屋のコメントは、
「客数は増えたが
目当ての商品以外には手を出さない顧客も多く、
先行きは楽観視できない」
イオンリテールは、
「衣料品や食品が伸びて6日までは約5%の増収」
一方、インターネット通販の好調。
楽天は年始からの取扱額が1割以上プラス。
「正月用の本マグロなど食品の取り寄せや、
体形に合わせて選べる衣料品の福袋が売れた」。
アマゾンジャパンは、
「最大9割引きの年始セールで集客」。
記事は、「年末商戦の昨年12月にネット販売額は
個人消費の5%近くを占めた」と書く。
「今年の消費のけん引役」となるかもしれないが、
いまだ完全回復していない消費マインドでは、
限られたパイの取り合いで、
リアルがネットに奪われてしまうこともありうる。
そんな1年になりそうだ。
日経新聞コラム『大機小機』
コラムニスト隅田川氏が、
「短期か長期か」と題して書く。
「短期と長期のバランスをとることは
常に難しい問題である。
短期的な視野で問題を解決しようとすると
長期的な問題を大きくすることがあるからだ」
いわば永遠のテーマといえよう。
経済に関して3つの観点から分析する。
第1は財政運営。
新政権は大型補正予算を編成し、
公共投資を増やして景気を良くしたいと考えている。
短期的に公共投資を増やせば、
その分、成長率がかさ上げされる。
しかし、公共投資の増額分以上に
税収が増えることはあり得ない。
財政赤字は確実に拡大する。
これは長期的には
日本の財政破綻の日をより近づける。
第2は金融政策。
「日銀による積極的な金融緩和を求める声」が強いが、
短期的に金融政策面で圧力をかけすぎると
日銀の独立性に疑問符が付き、
長期的には金融政策への信頼性が失われてしまう。
さらに「デフレからの脱却を通り越して
インフレになる恐れがある」
インフレは歯磨きのチューブのごとし、
出し過ぎると戻しにくい。
第3はグローバル化への対応。
ここでは環太平洋経済連携協定への参加を問題視する。
日本の市場を開いていけば短期的には
日本の農業は大きな打撃を受けるだろう。
しかし、保護し続ければ農業の競争力はさらに低下し、
日本経済のお荷物になっていくだろう。
長期的な視野からは、
市場を開いていくことこそが
日本の農業を強くする道となる。
短期か長期か。
当面は長期的な視野での政策運営を、
コラムニストは支持する。
これはまさしく小売りサービス業、
そして卸売業、製造業の、
今年1年の経営の考え方そのものだ。
目先の利益に目をくらまされる理由は、
何一つない。
〈結城義晴〉