北京・王府井ヨーカ堂撤収の英断と「ダウンスケール」のトンチンカン
関東甲信越の大雪。
成人の日と重なった。
きっと20年後も30年、40年、50年後も、
新成人たちは昨日のことを、
くっきりと憶えているに違いない。
仕事上、迷惑を被った人たちも、
この美しい思い出に免じて、
許してやってほしい。
しかし、日本の企業は素晴らしいし、
日本人は素晴らしい。
横浜の街に出てきたら、
多くの人が歩くところは、
きれいに雪かきが終っていた。
東日本大震災のときに発揮された日本人の美徳。
都市機能は、大雪対応型にできてはいないけれど、
またしても人の心の美しさによって、
社会はまっとうに動いた。
多くの日本人に拍手。
朝日新聞巻頭コラム『天声人語』は、
雪の名句を取り上げた。
俳人・片山由美子さんの一句。
まだもののかたちに雪の積もりをり
「しんしんと降る雪が、ものみなを白く埋めていく。
しかし郵便ポストにせよ公園のベンチにせよ、
まだものの形は判別できる――」
コラムの解説は、
小室等作詞・作曲の『雨が空から降れば』を、
無意識に、パクッてしまった。
小室の詞は「雨」がテーマだったが。
「雨が空から降れば
オモイデは地面にしみこむ」
「電信柱もポストも
フルサトも雨のなか
しょうがない
雨の日はしょうがない
公園のベンチでひとり」
モノを書いていると、
こんな無意識の表出がある。
気をつけようにも、
無意識だから仕方ない。
それでも、
以って自戒とすべし。
雪の句と言えば、
私が好きなのは、これ。
雪とけて村いっぱいの子どもかな
〈小林一茶〉
季語は「雪とく」で、
長い冬の終わりのころの句だが、
長野の雪の村の、ある日の情景。
雪が解けて、
家の中に押し込められていた子どもたちが、
いっせいに外へ出てきて、
村じゅうが子どもたちでいっぱいになる。
一茶らしい温かさ、小さな希望、
ほのぼのとしてくる。
さて今朝の日経新聞『企業』欄の記事。
「セブン&アイ、北京の食品スーパー清算」
タイトル通りの内容。
グループ会社「王府井ヨーカ堂」が、
北京に食品スーパーマーケットを2店営業していたが、
1店は先週末に閉店、残る1店も2月後半に閉鎖。
王府井ヨーカ堂は、
イトーヨーカ堂40%、ヨークベニマル20%出資の会社。
理由は、「中国の国内消費に勢いがないなか、
現地企業などとの競争激化で販売が伸び悩んでいたうえ、
昨年の沖縄県尖閣諸島を巡る日中対立が追い打ち」とある。
しかし「コンビニは北京や成都などで出店を加速し、
総合スーパーは四川省などで
店舗を拡大する計画に変更はない」
この記事自体に矛盾がある。
あるいは説明が足りない。
コンビニと総合スーパーは拡大するが、
食品スーパーは撤収。
「中国の消費動向を示す社会消費品小売総額」。
昨年の伸び率は前年比約14%。
一昨年の約20%と比べると鈍化したが、
それでも日本国内と比較すると、すごい伸び。
「中国や海外の小売り大手が、
消費拡大を見込んで店舗を拡大したため競争も激化」とあるが、
ならばセブン&アイの食品スーパーは競争力がないのか。
私は昨年6月7日の中国からの報告ブログで書いている。
タイトルは、
「上海第2日目、台湾資本RTマートの圧倒的優位性に感動」
「中国の小売業競争は、
ハイパーマーケットとコンビニに、
スーパーマーケットがはさまれて、
まだまだ育っていない。
日本の高度成長のときに、
ダイエーをはじめとする総合スーパーが躍進して、
食品スーパーマーケットが苦戦していたのと、
同じ構図。
ただし現在の中国には、
コンビニがまた、増えた。
これは『後進の先進性』で、
世界最先端の知恵が活用されている」
「ここから学ぶものは、非常に多い」と、
結んでいるが、セブン&アイは、
このことを学んだのだと思う。
そしていち早い撤収。
これは誠に的確な意思決定。
国際的には総合スーパーをハイパーマーケットという。
アメリカでもヨーロッパでも中国でも。
一般に小売業の歴史ではまず、
ハイパーマーケットが初めに普及する。
その後、市場が成熟してから、
スーパーマーケットが発達する。
アメリカはこの手順が、
完全に逆になった珍しい例であることを
知らねばならない。
セブン&アイの北京のスーパーマーケットは、
ウーマート(Wu Mart)という国内既存のスーパーマーケットと、
福建省から進出してきた永輝集団のスーパーマーケットに、
完全にやられてしまった。
私は、永輝こそ、
中国型スーパーマーケットの革新型だと思っているが、
セブン&アイがこれらとはまともにやり合わず、
総合スーパーとコンビニに特化するのは英断。
さすが。
しかしそうなると、勇躍乗り込んでいるイオンの、
その食品スーパーマーケット軍団はどうするのだろう。
奮闘あるしかない。
食品スーパーマーケットの発達は、
消費社会の成熟度のバロメーターとなる。
一番最後に進化を遂げる難しい業態ということになる。
その食品スーパーマーケットの経営専門誌『食品商業』。
㈱商業界発刊で、私はその第3代編集長を長らく務めた。
最近は「日本一の業界誌」などと言われているらしいが、
せめて「日本一の経営専門誌」と呼んでほしい。
その『食品商業』2月号が、
今日、発刊された。
第1特集のタイトルは、
「『ダウンスケール』総力戦」
このタイトルを見て、
驚いた。
「ダウンスケール」は、
英語の語感として、
あまりよろしくない。
「スケール」(scale)は、
「尺度や基準」を意味する。
「アップ・スケール」などというが、
それは端的に言えば、
基準が上がる、基準を上げるといった内容を示す。
だから「ダウン・スケール」は、
基準が下がるということになってしまう。
その総力戦が展開される。
それが『食品商業』の特集タイトル。
もちろん辞書を調べると、
「小型化する」といった意味も出てくるが、
その内容ならば本来、
「ダウン・サイジング」という。
サイズ(規模)をダウン(下げる)。
だからダウン・サイジング。
ウォルマートが環境対応型の店を実験したときに、
「ダウンサイジングした」といった使われ方をした。
規模を小さくしたら、省エネルギー店舗としての基準が上がるから、
これは「アップスケールのダウンサイジング」となる。
この特集には、ヤオコー大宮上小町店が、
主役として登場する。
ヤオコーは343坪の小型店を開発して、
実験を始めた。
ヤオコーが志向したのも、
「ダウンサイズによるアップスケール」
これが正しい言葉の使い方。
私なら、こうするだろう。
「総力特集・ダウンサイジング」
もしくは説明的に過ぎるかもしれないが、
「アップスケール型ダウンサイジング」
ヤオコー副社長の川野澄人さんは、
ハーバード大学MBA出身というから、
この特集タイトルを見たら、
苦笑するに違いない。
以って自戒とすべし。
私が最も愛するメディアのひとつだけに、
ちょっと辛口になってしまった。
お許しいただきたい。
これも愛の表現である。
決して、桑田真澄が指弾する「体罰」ではない。
〈結城義晴〉