「吉野家の迷い」と新春全国セルコトップ会の強み
サトー八チローの詩「寒椿」。
寒い朝でも 寒椿
きりきりしゃんと ひらいてる
ながめていると 手をたたき
こっちのキモチも しゃんとする
寒い朝なら 寒椿
きりきりしゃんと ひらいてる
庭下駄はいて そばへ行き
何かを話して みたりする
〈『抒情詩集』(サンリオ出版)より〉
明日からまた、寒波来襲。
しかし、大寒のその寒さを、
八チローのように楽しみたい。
日経新聞の連載『迫真プライスウオーズ』。
3回目の今日は、
「王者陥落 吉野家の迷い」。
すかいらーく創業一族の横川竟さんが、
吉野家ホールディングス会長の安部修仁さんに語りかける。
「500円の和牛牛丼でも出してみたら」
安部さんの返答。
「いや、今はもっと安値の方が必要かもしれない」
日本マクドナルド、サイゼリヤ、吉野家、
価格競争力のある外食チェーンが、
軒並み既存店マイナス。
記事は指摘する。
「もはや安ければ売れる時代でもない」
吉野家は「やすい、はやい、うまい」で先行。
しかし近年、価格設定に苦しむ。
2001年、400円の牛丼を280円に「価格破壊」。
「デフレの勝ち組」として安部さんは、
ファーストリテイリングの柳井正さんと並んで、
『日経ビジネス』の表紙を飾った。
ところが、2003年、米国でBSE発生。
米国産牛肉の現地調達がかなわなくなった。
艱難辛苦、新製品開発で乗り切るかと見えたが
オージービーフで割り切ったすき家に
間隙を突かれた。
昨2012年秋、「480円の牛焼肉丼の発表会」。
「価値追求」という一つの方向性が示されたかに見えたが、
既存店売上高は上がらない。
吉野家HDの2012年度第3四半期までの決算は最終赤字。
安部さんは、悩む。
「コストは上がるが、
消費者の節約志向は続く。
難しい」
一方、このブログでも紹介したが、
2012年10月、新フォーマットを実験。
「築地吉野家 極」。
業界最安値の250円牛丼店。
記事は、評する。
「価値追求を続ける一方で
安さにもこだわりたいとの安部の強い思いと同時に、
価格への迷いを浮き彫りにした」。
しかし私は違う見立て。
マルチフォーマット戦略として、
吉野家と極の二本立て作戦。
迷う必要はない。
記事は続ける。
「ポストデフレ時代をにらみ、
価格の設定が一段と難しくなることを
誰よりも安部が承知している」
価格設定はいつも難しい。
しかし、
「わかりやすくて、安い」
これが一番いい。
安部さんは、自信を取り戻しさえすればいい。
経営から離れた横川さんに対して、
「和牛牛丼はもう実験済みです」
このくらい言い切ってよい。
どんな価格設定が正しいのか。
そんなことは誰もわかりはしない。
まして他人にはわかるはずもない。
この『迫真プライスウオーズ』の第1回は一昨日。
「PB覇権 哲学の衝突」のタイトルだった。
イオンの岡田元也社長。
「なぜ企業規模を拡大するのか?
価格決定権をメーカーから奪うためだ」
セブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文会長。
「中内さんは大量生産時代の価格破壊。
質も高いセブンこそが現代の価格破壊だよ」
編集委員の中村直文さんは結論づける。
「価格への考え方は相反するが、
セブンとイオンが掲げる大義は
同じく消費者の支持。
消費が弱含む中、メーカーや卸は
小売り2強のはざまで揺れ動く」
私はこのあたり明快にしている。
コモディティはディスカウント。
ノンコモディティはそれぞれの値ごろ。
イオンはコモディティ重点型、
セブンはノンコモディティ重点型。
重点型といっても、
コモディティ一色でも、
ノンコモディティ一色でもない。
そのマーチャンダイジングミックスの按配の中身が異なる。
発言が反対でも、
それはポリシーの違い、
ビジョンの差異。
ピーター・ドラッカーは、
事業の定義として、三つの要素を挙げている。
第一は、組織を取り巻く環境。
第二は、組織の使命すなわち目的。
第三は、使命を達成するために必要な強みについての前提。
取り巻く環境は同じでも、
使命や目的は異なる。
強みに関しては、同じはずはない。
イオンの使命と目的と強み、
セブン&アイの使命と目的と強み、
吉野家の使命と目的と強み、
ゼンショーの使命と目的と強み。
それぞれ違って当たり前。
自分の使命と目的と強みに自信を無くしたとき、
「価格設定の迷い」が生まれる。
ならば、自分の使命と目的と強みに、
戻ればいい。
そうすれば、自信は湧き上がってくる。
さて、昨日は午後、
2013年新春全国セルコグループトップ会。
場所は新横浜国際ホテル。
特別講演会と懇親会の2部構成。
講演は岸博幸さん。
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。
テーマは「日本経済のゆくえ」
通産省(現・経産省)官僚出身で、
第一次小泉内閣では竹中平蔵氏の大臣補佐官として活躍。
歯に衣着せぬ霞が関批判もあり、
政治経済についてメディアでもひっぱりだこ。
そこで、会場はご覧とおりの満席。
アベノミクスの三本の矢の評価と課題、
日本経済の本質的な問題点などを、
90分、語ってくれた。
「日本経済の強みは現場の力」と言い切る。
「民間の力、地方の力は強いが、
政治も行政もエリートの力は弱い。
現場は頑張っているにもかかわらず、
企業が減速するのは経営ミスによるもの。
日本の開発力、海外展開は、
グローバル化、デジタル化に対応できていない」
iPhone、AKB48、宮城県女川町の復興取り組みなど、
わかりやすい事例と語り口で面白かったと好評。
第二部は懇親会。
理事長、副理事長が入口で出迎え。
私はごあいさつをしながら、ここからの参加。
初めに佐伯行彦さんのあいさつ。
協同組合セルコチェーン理事長。
昨年設立50周年を迎えたセルコチェーン。
力強く「戦う集団」を宣言。
これがセルコグループの強み。
そして来賓あいさつ。
はじめに経済産業省中小企業庁から安久惠さん。
経営支援部商業課長補佐。
農林水産省食料産業局は池渕雅和さん。
食品小売サービス課長。
㈱商工組合中央金庫東京支店長の中川祐一さん。
そして卸のトップの皆さんが、
次々に登壇して、3分間スピーチ。
お名前の50音順で話されるが、
これは意外に大変。
三菱食品㈱社長の井上彪さん。
国分㈱会長兼社長の國分勘兵衛さん。
㈱日本アクセス社長の田中茂治さん。
三井食品㈱社長の長原光男さん。
伊藤忠食品㈱副社長の星秀一さん。
さすがにトップの皆さん。
メッセージはそれぞれの視点、
巧みな話術で会場を沸かせた。
これも恒例となったセルコチェーン役員の紹介。
一人ひとり紹介される役員の皆さんを確認する会場の参加者。
乾杯の音頭は、
セルコチェーン理事相談役の平富郎さん。
㈱エコス会長。
「競争に参加できないものはさっさと退場しなさい」。
「競争は経営者を磨く砥石」という平さんならではの物言い。
歯切れのいい平節(たいらぶし)、とてもよかった。
そしていよいよ懇親。
会場は懇親、名刺交換と大にぎわい。
久々にお会いしたセルコチェーン副理事長の川崎博道さん。
㈱サンシャインチェーン本部社長。
商人舎は一昨年、昨年とアメリカ視察ツアーをコーディネートした。
サンシャインチェーン、阪食、ハローデイ、エブリイの4社が、
ともにサービス&クォリティ型のスーパーマーケットを志向し、
勉強会を重ね、協業している。
その一環としてのアメリカ視察。
川崎さんをはじめ各社のトップ4人は第1回に参加。
「業態からフォーマットへの時代」を私は強調した。
それから改善、改革を進め、
「店が変わってきた、良くなってきた」との報告。
私も本当にうれしい。
30年来懇意にしているという宮本洋一さんをはさんで、
川崎さんと三人で写真。
宮本さんは、ブルーチップ㈱社長。
後ろで顔をのぞかせているのは、
ブルーチップ営業統括部長の鍋島丈夫さん。
奥州市のケー・マート社長の千葉喜夫さん。
今年もよろしく。
全日本食品㈱社長の齋藤充弘さん(右)と、
三菱食品㈱相談役の後藤雅治さん。
日本スーパーマーケット協会会長の川野幸夫さん。
㈱ヤオコー会長。
國分勘兵衛さんとは、
インフレターゲットの2%について、
意見交換。
㈱たいらや社長の村上篤三郎さん(中)。
商業経営問題研究会(RMLC)のコアメンバーのお1人。
ブルーチップ宮本さんとともに、
昨年の商人舎忘年会の話で盛り上がった。
㈱エコス社長の平邦雄さん。
私の大学のかわいい後輩。
㈱ライフコーポレーション専務の並木利昭さん。
押しも押されもせぬ専務取締役。
並木さんが初めて取締役に昇格したときの4人のお祝いの会の話をした。
メンバーは元『販売革新』編集長の伊東清さん、
現ストア・ジャパン社長の和田國男さんだったか。
副理事長の桑原孝正さん。
㈱セルバ社長。
㈱さえきホールディングスとの経営統合を発表したが、
私はその決断を高く評価している。
副理事長の井原實さん。
㈱日本セルコ社長、㈱与野フードセンター社長。
こちらは㈱商業界OB会。
㈱バリュークリエイター編集主幹の緒方知行さん(左)、
商人舎エグゼクティブ・プロデューサー、アドパイン代表の松井康彦さん(中)。
最近痩せてきたらしい緒方さんを2人で心配。
そして最後は、もちろん平富郎さんとにっこり。
3月に平さんご夫妻とゴルフをすることになった。
3年前には一緒に富士登山を敢行。
今年はゴルフ。
互いに山登りは少し控えましょう。
中締めは井原實副理事長。
さえきセルバホールディングスの話題をまじえながらの三本締め。
和やかなとてもいい新年会だった。
その各協会、団体の新年会行事も、
そろそろ終盤戦。
なんというか、全体に、
明るい雰囲気が横溢としている。
アベノミクスの効用。
しかしみな、それを、
心から信じているわけでもない。
どこかに不安感を抱えている。
講師の岸さんが指摘した「日本の強みは現場力」。
私もまったく同感。
自分だけの使命と目的と強みを知るところから、
私たちの復活が始まる。
そのためには、
大寒の寒椿ではないが、
きりきりしゃんと、
していればいい。
〈結城義晴〉