有楽町マリオン閉鎖とナゲットマーケットのスモールカンパニー型CS・ES
有楽町マリオンの閉鎖に関する報道が喧しい。
日経新聞は、「セブン&アイの岐路」という連載まで始めたし、
朝日新聞も経済面にでかでかと取り上げ、
一面コラムの天声人語でノスタルジックに語りかける。
半月か1カ月もすると、月刊の経営専門誌で、
遅ればせながら、ああだこうだと評論されるのかもしれない。
しかし、私も、この面での判断は、
鈴木敏文同社会長や村田紀敏社長とまったく同じ。
利益が上がらない店は、
社会にお役立ちしていないのだから、
閉鎖もやむなし。
日経新聞は、
「百貨店もスーパーやコンビニと同じ」ように、
スクラップ&ビルドする時代、といったことを書いている。
ここには、百貨店は他の小売業と違う、という観点がはいっている。
しかし、百貨店も小売業に変わりない。
業態フォーマットの盛衰の中で、
衰退期にはいったフォーマットは、
きわめて立地が限定される。
百貨店は、100万人商圏、あるいは200万人、300万人商圏の中で、
圧倒的に広い売り場を一番便利な場所に持つところしか、残らない。
有楽町マリオンはその意味で、狭すぎる。
池袋西武百貨店は、面積と立地で十分合格。
だから有楽町を閉鎖し、池袋に力を入れる。
衰退業態類型は、立地が限定される。
そしてこれは明らかに、
総合スーパーにも当てはまりつつある。
さて、アメリカHot情報。
火曜日からずれ込んできて、やっと今日お届けできる。
「ナゲット・マーケット」。
最新の2010年「働きたい企業100社」の第5位に入った。
スモールカンパニーが、
第5位に入ることは、
ほんとうにアンビリーバブル。
しかし、超巨大コングロマリットが、
このランク上位に位置づけられることも、
難しい。
私の掲げる「商業の現代化」の一つの要件は、
CSとESの一致。
すなわち顧客満足と従業員満足の一致。
これが優先条件であると思う。
したがって、例えば、チェーンストアづくりよりも、
これが、上位概念でなければならない。
考え方はこうだ。
顧客満足と従業員満足を実現させるためには、
こういったビジネスモデルならばチェーンストアがいい。
しかしこういった商売ならば、チェーンストアでないほうがいい。
チェーンシステムは、大変に優れた経営の仕組みだ。
しかし、万能ではない。
問題は、例えばスーパーマーケットのようなビジネスでは、
チェーンストアと非チェーンストアで、
顧客満足と従業員満足の両立が、
共に可能であるということ。
だから、難しい。
論議が錯綜する。
かつて、伊藤雅俊さんが社長をしていたころのイトーヨーカ堂には、
商人の論理とチェーンストアの論理と企業の論理が、
上手にミックスされていた。
つまり、近代化の過程での論理整合性を有していた。
今日のナゲット・マーケットは、
チェーンストアではない。
しかし商業現代化に貢献している。
サンフランシスコから、車で3時間も走ったサクラメントで、
スーパーマーケット9店を展開。
地域コミュニティから圧倒的な支持を得ている。
9店舗のナゲットマーケット以外に、
同社は3店舗の「フード4レス」を展開する。
こちらはクローガーのフランチャイズチェーンに入っている。
「ナゲット」とは「金塊」の意味。
だから「金塊のような市場」。
同社は1926年に始まる。
ウィリアムとマックのスティル親子が、
カリフォルニア州ウッドランドに、
ナゲットマーケット第1号店をオープンさせる。
この第1号店は精肉部門が主力。
ビーフ、ポーク、チキンはもちろん、
ラム、ゲームミート、ハム・ソーセージまでを揃えていた。
それらをセルフサービスの冷蔵ケースで販売し、
集中レジのチェックスタンド方式で会計する。
すなわち、肉屋出身のスーパーマーケット。
さらにミート中心の品ぞろえから、
本物のスーパーマーケットになるために、
息子のマックはアメリカ西部に旅をして、
新鮮で高品質な青果物を調達した。
さらに1970年代には低価格宣言を発する。
エブリデー・ロープライスのフォーマットを確立。
その後、便利なテイクアウト・デリの品揃えを広げ、
ナゲットの惣菜部門が確立される。
1980年から1990年代は2号店、3号店、4号店を、
順次オープン。
2000年代には、ヴァキャビルとデイビスに、
ヨーロピアンスタイルの店舗をオープン。
ここからが、特異な動きを示す。
専属シェフによる焼きたてべーカリーの販売。
さらに選び抜かれたワイン売場の充実。
サクラメントの西の郊外、フローリンロードに7店目をオープン。
さらにキャメロンパークのサムズタウンセンターを買収し、
「Food 4 Less」としてオープン。
このフォーマットは、
米国第一位のスーパーマーケット企業クローガーが展開するもので、
ナゲット・マーケットは、フランチャイズ加盟店として、
スーパーウェアハウスと呼ばれるフード4レスを運営する。
ウェグマンズでもそうだが、
ノンコモディティのマーチャンダイジングとともに、
コモディティ型ディスカウントの要素を経営に取り入れなければ、
アメリカでは生き残ってはいけない。
そしてコモディティ・ディスカウントのためには、
どうしても規模が必要となる。
だからナゲットはフランチャイズチェーンに加盟して、
その規模を活用している。
2008年にはエルドラド・ヒル、エルクグルーブに2店舗をオープン。
ナゲットの店づくり、売り場づくり、商品づくりの特徴の第一は、
高品質の商品を周辺のお店のどこよりも安く提供する。
「高品質な商品を低価格で売る」。
これによってエクセレントな店ができる。
第二の特徴は、低価格を実現するために、
専門のスタッフが価格調査を行っていること。
そして個店ごとに価格対応している。
全店統一ではない。
そして第三に、顧客が品質に満足しない場合、
商品の交換や商品返品で保障する制度を取っている。
部門ごとの特徴。商人舎アメリカテキストから再掲。
①青果部門は季節を通して新鮮で、豊富な果物や野菜を、
地元農家と世界の産地から仕入れている。
オーガニック野菜は専門のスタッフが吟味した高品質の品揃え。
その信じられないような陳列。
アンビリーバブルなプレゼンテーション。
②焼きたてのクッキーやケーキ類、ベーカリーで、
店内はいつもオーブンのよい香りに包まれている。
③ベーカリー部門はイベントや特別な日のためのオーダーを受け付けている。
④精肉部門では火加減やカットの仕方などの調理法をアドバイス。
⑤自然放牧で飼育されたアンガス牛のチョイスやプレミアムといった高いグレードの肉、
ハリス牧場で放し飼いされた鶏の肉など。
⑥鮮魚部門には「fishwiseプログラム」がある。
魚の個体数(資源)についての情報を付加した販売方法を行っている。
緑ラベルは、資源が維持できる魚種、
黄色はやや課題になっている魚種。
赤ラベルはキャパシティに問題がある魚種。という表示方法。
⑦ワインやビールはスーパーマーケットでは珍しいほどの豊富な品揃えを誇る。
ワインの試飲イベントも随時開催。
⑧健康的な生活提案。
サプリメントやハーブ、ボディケアやヘアケア製品、バス用品などを1カ所に集めて提案。
⑨キッチンエリアはプロによる手づくりの本格デリ部門、アジアンキッチン部門などで構成される。
⑩400種類以上のチーズの品揃え。
⑪レシピメニューを店頭やホームページで提案。週に1度メルマガ会員に情報発信。
しかし、その本質は、言葉では分からない。
Impossibleも言葉では、理解できない。
行ってみるしかない。
感じてみるしかない。
顧客になってみるしかない。
店頭のベンチは独特のデザイン。
フロントマネジャーのケリーさんが言った。
これも再掲。
「ナゲット・マーケットは、
ファンタスティックな会社です」
「私は大学で働いていた。
そしてこの会社に転職した。
この会社では、オーナーの気持ちで働く者は、
2~3年でデパートメントマネジャーになる。
今年は新店はないが、ニューストアを開設すると、
デパートメントマネジャーが誕生する。
デパートメントマネジャーは、やりがいもあるし、給料もいい」
このナゲットマーケットが、
働きたい企業ランキング5位の理由。
「私たちの会社の社員は、フレンドであり、ファミリーです。
人をどう扱うかで、その会社の考え方が決まります。
私たちの店は特別ではない。
私たちの商品も特別ではない。
しかし会社は社員にフェアで、なおかつ地域に貢献している」
ナゲットマーケットは離職率8.2%。
しかしやめる人はいる。
「会社を辞める人の多くは、大学に行きます。
誰一人、この会社が嫌いで辞める人はいない」
「私たちは、不可能なことをやる。
品質が高くて、価格が安い。
これはどちらも一番にするのは、不可能なことです。
不可能なことをやり遂げるのが面白いのです」
「ウォルマート、セーフウェイ、ウィンコ。
みんな安いけれど、我々は、
アクチュアリー・ロープライスです」
「アクチュアリー・ロープライス」とは、
「外見と違って、本当に安い」といった意味。
外見は、美しいし、ファンタスティック。
しかし、価格は安い。
「我々はスモールカンパニーです。
しかしウェアハウスをもっていて、どんどん買う。
冷凍食品のウェアハウスもある。
それをゲストに、どんどん売る」
どんどん売るから、安くできる。
「セーフウェイと価格勝負すれば、
10回のうち8回は勝っている。
そのセーフウェイより、
我々はいつも、断然サービスがいい」
これこそが「小さいもの」の闘い方である。
ナゲットの象徴は、背中に翼を付けた豚。
すなわち、「Impossible」不可能の実現。
今のところ、この「不可能」が実現されているのは、
ナゲットがインディペンデントのサイズだからだと思う。
インディペンデントとは、
ひとけたの支店数の企業のこと。
まさにスーパーマーケット9店舗のナゲットの現状が、
最適であって、サクラメントでのドミナント形成に役立っている。
かつてダイエーの中内功さんが言った言葉。
「生まれ変わったら、
ダイエーの前で八百屋をやりたい」
そしてイトーヨーカ堂創業者の伊藤雅俊さんが仰ること。
「オーナーシップ経営がいちばんいい」
これこそが、スモールカンパニー。
ナゲットのCSとESにつながるもの。
もちろん中内さんも伊藤さんも、
日本の小売業産業化に大きく貢献したうえでの発言。
商業の工業化・産業化こそ、現代化のプロセスに欠かせない。
インダスとリアリズムという。
しかし工業化の次の「現代化」、
モダンの次の「ポストモダン」には、
多数のスモールカンパニーのオーナシップ経営も、
なくてはならない存在となる。
『スモールカンパニー』も、
CSとESを実現させ、
商業の現代化の一翼を担うのだ。
例えば、豚の背の翼による一翼を。
アメリカの商業は奥が深い。
つくづく思う。
<結城義晴>
[追伸]
そのナゲット・マーケットを結城義晴と一緒に視察しませんか?
3月16日(火)~3月22日(月)の2010年商人舎アメリカ視察セミナー
第1弾「Hot」編。
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