ゴーリキイ「私の大学」と上野光平「自己啓発のすすめ」
一陽来復。
毎年、三が日は、
今年の年賀状を掲げ続けます。
このところ使っているのが、
「一陽来復」。
陰の気がきわまって、
陽の気にかえること。
悪いことが続いた後で、
幸運に向かうこと。
もちろん、新年が来ること。
冬が終わり春が来ること。
昨年は幸運に向かった気がするが、
本当の幸運は今年。
それを信じて、
精一杯、力一杯、目一杯。
今月の標語、そして今年の標語は、
こまかく・きびしく・しつこく・なかよく。
本年も、よろしくお願いします。
昨日、実家に帰って、
87歳になる両親に会った。
母は腰を悪くして、
臥せっている。
父も足が弱って、
日課としている碁会所通いにも、
支障をきたしている。
それでも二人とも、
懸命に生きている。
その両親が口をそろえて言った。
「東京オリンピックまでは生きる」
2020年の東京五輪は、
なんとしても見届ける、と。
こうして見ると、
オリンピックの東京誘致は、
老いたふたりにとって、
とても意義あることだ。
「あの角まで、あの角まで」
そう思って、走る。
あるいは、歩く。
その「あの角」が、
2020東京オリンピック。
そんな意味があることに、
あらためて気づかされた。
新年を迎えた朝、
郵便箱を開けると、
年賀状の束がある。
部屋に持ってきて、
一枚一枚読む。
様々な人たちの顔が浮かぶ。
最近では、その前にfacebookなどが、
友人・知人の近況を伝えてくれる。
私はその両方ともが好きだ。
「一つの方法に頼りたいという誘惑は、
これを退けねばならない」
今年もたくさんの年賀状をいただいた。
この賀状一枚一枚が、
やはり生きる喜びとなる。
ソーシャルネットワークの一言一言が、
生きがいとなる。
この場を借りて、
すべてのメッセージに、
お礼申し上げたい。
さて、上野光平先生。
かつて「西のダイエー、東の西友」と、
並び称せられた。
そのころの西友ストアー副社長・支配人。
実質的な経営者。
あの堤清二さんが社長で、
上野光平は副社長。
二人三脚で西友を成長させた。
1966年の初めから、
「西友ストアー通信」が発刊されはじめた。
社内報のようなもの。
その「今月のことば」を、
上野先生が書いていた。
1966年7月号の「今月のことば」。
人間が社会の中で働いて生きる年代を、
20歳から60歳までと考えると、
その日数はわずか
1万5000日でしかありません。
二度と味わうことのできない、
やり直すことのできない、
そして取り返しのつかないこの日数。
一日たつごとに、間違いなく減っていゆく
あなたの残された生命の日を、
より豊富に、より充実したものにしたいと
思いませんか。
社会の中であなたの生命を
より豊かに生かす途は
あなたの値打ちを、
より高く生かす以外に方法はありません。
それはあなたの値打ちですから、
金で買うことはできませんし
家柄や学歴で代行させることもできません。
あなたがあなた自身を
かけがえのない大切なものと思い、
その成長を真剣に願うことが必要です。
自己啓発は
このあなたの願いから始まります。
あなたの成長を
会社の責任に転嫁してはなりませんし、
人事部門の行う教育活動に
期待してもなりません。
もしあなたの成長が
会社の力によるものだとしたら
それは会社の値打ちであって、
あなたの値打ちではないでしょう。
人間の成長が第三者によって規制できないところに、
倫理すなわち人間の成長の尊さがあるのです。
あなたの願いが真剣であればあるほど、
自己啓発は途方もなく広い、新しい世界を
あなたの前にひらいてくれます。
それは専門知識の分野から、
ものごとを筋道を立てて考える能力、
そして総合的に全体をつかまえる能力まで、
あなたの値打ちも限りなく伸ばしてくれる途です。
そして自己啓発の過程の中で、
あなたはあなた自身の大学
――あなたが通えなかった、
あるいは卒業した形になっている
ポンポコ大学ではない――
本当の大学を持つことができるのです。
わが社のすべての社員の履歴書の中から、
ポンポコ大学を一掃しましょう。
そしてすべての社員の履歴書の中に、
文豪ゴーリキイにならって、
輝かしい「私の大学」を記入しようではありませんか。
〈支配人 上野光平〉
毎月の社内報の巻頭に、
上野さんはこんな文章を書き続けた。
この中に出てくるのは、
ソビエト連邦の文豪マキシム・ゴーリキイ、
そしてその自伝的小説『私の大学』。
1923年の著作。
「ポンポコ大学」と書いているが、
上野先生自身は東京大学経済学部卒業。
そのことを含めてポンポコ大学と称し、
社内から学歴主義を一掃しようと宣言している。
そして「自己啓発」を薦めている。
自身、1987年に、
『自己啓発のすすめ』(ビジネス社刊)を、
上梓している。
この本は月刊『商業界』に、
3年余り連載された文章をまとめたもの。
この本の中で上野光平は問う。
「二度とない一生をかけて、
自分は何をやりたいのか、
何になりたいのか、
それをはっきりさせることだ。
そしてそのために
毎日をどのように生きるのか」
なぜか正月には、
上野光平先生を思い出す。
昨年はその上野さんと
とても関係が深かった二人の人が亡くなった。
一人が堤清二さん、
もうひとりが杉山昭次郎先生。
ともに1925年生まれで、
上野先生の二つ年下。
だからかもしれないが、
今年も上野光平を思った。
人間が働く日数1万5000日。
その1日1日を大切にしたい。
「この一瞬の積み重ねこそ、
君という商人の全生涯」
(倉本長治)
この貴重な1万5000日の間に、
あなた自身の値打ちを上げていく。
それが自己啓発。
正月だからこそ思う。
今年1年を自己啓発に使いたい。
自分の値打ちを高める日々にしたい。
本当にそう思う。
〈結城義晴〉
2 件のコメント
結城先生
上野光平さんの言葉を取り上げていただきありがとうございます。改めて、限られた時間の中で自分自身の生き方を考えなければいけないことを思い知りました。
今年は私にとっても節目の年になります。世の中の変化への対応以上に自分が何をすべきかが大切であり、それを行動に移すことだと思いました。
本年もご指導のほどよろしくお願い致します。
村上篤三郎
村上篤三郎さま、新年からのご投稿感謝します。
上野先生の「今月のことば」。
ところどころ抜け落ちてはいるのですが、
手元にあります。
それを読むと、40代の経営者だったのに、
ひどく成熟していることに驚かされます。
もっともっと精進しなければと励まされます。
その上野先生、63歳で逝去されました。
私はもうすぐですが、村上さんはその年を超えて、
また節目だとか。
まだまだ、ともに頑張って、
上野先生の分まで生きましょう。