やなせたかし「ヒーローは普通の人々」と名取・松島の「叶わず」
ソチ冬季オリンピック。
開会式は明日7日だが、
既に競技は始まっている。
スノーボード・スロープスタイル、
フリースタイルスキー女子モーグル、
フィギュアスケート団体男子ショートプログラム。
そんなとき、
「全聾の作曲家」を名乗る佐村河内守に、
ゴーストライターが名乗り出た。
桐朋学園大学非常勤講師新垣隆さん。
フィギュアスケート高橋大輔選手が、
この五輪で使用する楽曲は、
「ヴァイオリンのためのソナチネ」。
これも佐村河内作曲とされていた新垣作。
新垣さんは高橋選手と五輪を気づかって、
名乗り出たという。
「私は共犯者」
新垣さんの謝罪の言葉。
テレビで記者会見を見た。
真実なのだろうと、
感じさせられた。
NHKスペシャル、
「魂の旋律」~音を失った作曲家~。
昨年3月31日放映。
作曲家の三枝成彰、
音楽学者野本由紀夫、
そしてNHK自身。
佐村河内を絶賛。
朝日新聞の巻頭コラム『天声人語』も自戒する。
「感動話に何かと弱いメディアの習性」
3年前の東日本大震災のとき。
漫画家のやなせたかしさんが、
正義について語った。
「怪獣を倒すスーパーヒーローではなく、
怪獣との闘いで壊された街を
復元しようと立ちあがる普通の人々が
ヒーローであり、正義なのです」
さて、東日本大震災の被災地の旅。
昨日はレンタカーで、
仙台の南地区、岩沼市と名取市を視察。
名取川を渡る。
この川を津波がさかのぼってきた。
はじめに名取市と岩沼市にまたがる仙台空港へ。
機体が流されるほどの大きな津波被害を受けた。
空港の先には、
名取市の閖上町がある。
その閖上の海岸へ。
防潮堤が延々と作られている。
昨日はこの冬一番の冷え込み。
海は穏やかだが、風はひどく冷たい。
その閖上地区はなにもない。
ただし一軒だけ残された。
震災の記録として保存されている鈴木英二さん宅。
震災前、震災時、震災後の
家の画像をパネルで掲示している。
周辺には何もない。
一方で奥まった仙台空港線の美田園駅周辺は、
商業視察や新興住宅地が広がっている。
住宅の建築も次々に行われている。
トライアルカンパニー。
相馬市から進出するフレスコキクチ。
ホーマック。
スーパービバホーム。
コーナンPRO。
住宅需要が旺盛なエリアだけに、
建材強化のホームセンターが多い。
一方、アミューズメント需要も堅調。
パチンコホールのダイナム。
店長の齋藤斗紀雄さん。
そしてドミナントを築くヨークベニマル。
被災した名取西店は復活。
昨年の新店の仙台太子堂店は、
ベニマル最新ノウハウが満載。
大震災で被災したエリアで、
街の構図が変わり、
商業の競争も変貌した。
次に仙台東部道路を北上し、
仙塩道路で松島へ。
松島海岸が見えてきた。
松島は浮かぶ島々が防潮堤になって、
被害が思いのほか少なかった。
五大堂も守られた。
島に掛けられたすかし橋もそのままだ。
しかし、海辺に面したカステラ喫茶店は、
1メートルの浸水があった。
柱に刻まれた津波の水位。
暖かい店内でコーヒーを飲みながら
日本三景・松島を望む。
松尾芭蕉の「奥の細道」の旅。
この松島に対するあこがれが動機だと、
芭蕉自身書き残している。
松島や ああ松島や 松島や
芭蕉作と誤解されているが、
江戸時代後期の狂歌師・田原坊作。
句を見れば、蕉風でないことは瞭然。
しかし松島は芭蕉の時代から変わらない。
そして本物の前には芭蕉すら、
「絶景にむかふ時は、
うばはれて叶(かな)わず」
絶景もそうだが、
大地震や大津波にも、
「叶わず」と思う。
しかしそこから立ち直るのは、
普通の人々の正義。
そして普通の人々には、
ゴーストライターは存在しない。
(旅はつづきます)
〈結城義晴〉