倉本長治『商売十訓』の二つの社会的活動と小売業のメセナ
今日も商人舎オフィス。
朝から来客。
土井弘さん(左)と、
斉藤保明さん、宍戸健宏さん。
土井さんは電通きっての流通通。
現在は退任して、悠々自適。
東洋学園大学非常勤講師。
商人舎MagazineのWeeklySpecialに、
「日記調査と生活導線マーケティング」連載中。
斉藤さんは㈱綜研情報工芸社長。
宍戸さんは同プロモーションディレクター。
土井さんが同社顧問ということもあって、
今回、商人舎に来てくださった。
いろいろと情報交換。
この綜研情報工芸会長の小泉宗雄さんが、
面白いメセナ活動をしている。
それは、
「日本の【伝統的工芸品】普及推進」。
【伝統的工芸品】とは、
通称「伝産法」で認定された商品。
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」。
熟練した技を必要とする工作物で、
芸術的要素を備えたもの。
さらに5つの条件がある。
①主として日常生活の用に供されるものであること
②製造過程の主要部分が手作業であること
③伝統的技術または技法により製造されること
④伝統的に使用されてきた原材料であること
⑤一定の地域で産地を形成していること
それらを制作するのが【伝統工芸士】。
資格制度がある。
(財)伝統的工芸品産業振興協会が、
年に一回、知識と実技の試験を実施して認定。
受験資格は12年以上の実務経験を有し、
原則として産地内に居住していること。
そしてこのと伝統工芸士は現在、
4592名が登録されている。
平成23年度に伝統的工芸品は、
全国で211品目、企業数1万5147社、
従業者数7941人。
年間生産額は1281億円。
企業数が最も多かった1979年は、
3万4043社、従業者数28万7956人。
現在は企業数が44%、従業者数28%。
年間生産額は1983年がピークで、
5237臆円。
現在は24%に激減。
伝統的工芸品産業振興関連予算は、
2010年度に総額9.4億円。
産地補助金2.6億円、
振興協会補助金6.8億円。
そこで綜研情報工芸が、
これをメセナ活動の対象とした。
会長の小泉さんの母方の祖父・小野塚平吉氏は、
明治2年に旧幕臣の家に生まれ、
江戸名残の細工師の道に入って、
親方となって活躍。
小泉社長時代の2005年度から、
この活動をメセナとして開始。
毎年、2品ずつ探して、
商品化し、紹介している。
今年は福岡の「博多織」。
ポケットティッシュ・ケースと、
本の栞。
小洒落たケースに入っている。
中にはメセナの説明書などが、
丁寧に添えられている。
これまでの【伝統的工芸品】。
・江戸切子 (東京)
・東京銀器 (東京)
・江戸千代紙 (東京)
・多摩織 (東京)
・甲州印伝 (山梨)
・桐細工 (春日部)
・箱根寄木細工 (箱根)
・鎌倉彫 (鎌倉)
・無妙異焼 (佐渡)
・金沢箔 (金沢)
・樺細工 (角館)
・曲げわっぱ (大館)
・七宝 (名古屋)
・首里同頓織 (沖縄)
・飛騨春慶(高山)
・駿河竹千筋細工(静岡)
・壺屋焼き (沖縄)
・有田焼 (佐賀)
・江戸木版画 (東京)
・出雲めのう細工(松江)
・高岡銅器 (高岡)
・小田原漆器(小田原)
・会津塗 (福島)
mécénatは、
フランス語で「文化の擁護」の意。
企業が資金などを提供して、
文化や芸術を支援する活動。
ある企業のメセナに賛同して、
支援することもメセナではある。
販促活動の一環ではない。
それは認識しておく必要がある。
小売りサービス業では、
1992年のすかいらーくの東京交響楽団支援、
1993年のセゾン美術館運営などが名高いが、
実は1980年のイオンの岡田文化財団が早い。
創設者は小嶋千鶴子さん、
岡田卓也名誉会長の姉上。
ダイエー創始者の中内さんも、
様々なメセナを展開したが、
流通科学大学の創設が、
その代表だろう。
最近では、2011年12月、
ヤオコー川越美術館がオープン。
企業を創業し、
成功させ、株式を公開した後、
会社を盤石にしたうえで展開すメセナ活動。
さぞかし気分がいいことだろう。
その資格がある人だけが、
それを味わうことができる。
しかし上場せずともできることを、
綜研情報工芸のメセナが示している。
ほどほどのメセナも、いい。
このテーマを論じるときに、
いつも思い浮かべるのが、
倉本長治の『商売十訓』。
「一 損得より先きに善悪を考えよう」
ここから始まって、
「八 公正で公平な社会的活動を行え」
「九 文化のために経営を合理化せよ」
第八訓は企業のミッションを意味する。
社会的活動には二つあると、
私は考える。
第1は、自分の本業の仕事。
第2は、ボランティア活動。
メセナは二番目にあたる。
ここには二つの法則がある。
第1の社会貢献では、
「小さな経費で大きな収益」を目指す。
それを徹底する。
第2の社会貢献は、
「大きな努力で小さな成果」に満足する。
をれを貫く。
いや、企業にとっては、
「成果」をすら求めない。
それがメセナだ。
第九訓は「文化」と「合理化」を論じる。
一見、相矛盾する。
しかしドラッカーは、言う。
「仕事が出来る者は、集中する。
集中するための原則は、
生産的でなくなった過去のものを
捨てることである。
過去を捨てなければ、
明日をつくることは出来ない」
これは「経営の合理化」を意味する。
「あまりにわずかの企業しか、
昨日を捨てていない。
あまりにわずかの企業しか、
明日のために必要な資源を手にしていない」
未来のための経営合理化とは、
過去を捨てることだ。
いわゆるリストラや人員削減ではない。
「死臭を防ぐことほど、
手間のかかる無意味な仕事はない」
ドラッカーは辛らつだ。
だから生産的でなくなった過去のものを捨てる。
残るのは、生産的な過去のもの。
それが企業の「文化」である。
明日につながる昨日のもの。
それが「文化」である。
だからこそ「文化」のために、
「経営」は「合理化」されなければならない。
「企業文化」をつくっていく上では、
ノスタルジックではあろうが、
不要な過去の要素は、
「死臭」でしかない。
メセナがすがすがしくて気分がいいのは、
この死臭を完全に遮断しているからだ。
〈結城義晴〉