「良く噛んで食べる」
食欲の秋、私たちは、毎日、3回の食事をする。
日本人は1年間に1200回食事する。
朝昼晩の食事以外に、間食、夜食、つまみ食い、おやつなど含めると。
それが黒田節子先生の名著『1200食のマーケティング』の根拠となった。
この1200食をすべて、「良く噛んで食べる」
特に10月には、「良く噛んで食べる」
それが今月の標語。
私の著書『メッセージ』(商業界刊)にも文章が入っている。
「良く噛んで食べる」
人間ドックに入って出てきたら、
金属疲労のごとく、いっせいにチェックが入れられた。
全身疲労の四十九歳。
要は、体重を減らせ、痩せろ、節制せよ。
そこで、考えた。
「良く噛んで食べる」
これだけに徹しよう。
そうすればすべて上手くいく。
まず消化がよくなる。
胃腸の負担が軽くなる。
歯が丈夫になる。
顎も発達する。
食べ物の味が分かるようになる。
食べる時間は長くなるが、総体的に量が減る。
量が減れば、少しだけお金もかからなくなる。
その分、美味しいものを食べようと努力する。
うん、すべてよくなる。
健康になるはずだ。
しかし困った。
「良く噛んで食べる」とは、いったいどうすることなのか。
そこで再び、考えた。
「心の中で数えながら噛む」
最低四〇回、あるいは四十八回。
この習慣をつける。
「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
「に、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
「さん、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
「し、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
・・・・・・・・・。
このくらいで、たいていのものは、
心地よく口の中から消えていく。
きちんと噛むために、適当なかたまりを、
順序よく口の中に入れるようになる。
食物の堅さにも、
関心を払うようになる。
すべてよくなる。
ときどき、舌や唇を噛んでしまうこともあるが。
しかしみたび、考えた。
この私の「食べるマニュアル」は、
果たして、
食事時だけのものなのか。
・・・・・・・・・・。
実は、これが何にでも使える。
事実も、問題も、「良く噛んで食べる」
苦情も、報告も、「心の中で数えながら噛む」
目がさめている限り、何でも。
「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
「に、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
「さん、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
「し、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち」
・・・・・・・・・。
私が49歳、『食品商業』編集長の時の巻頭言から抜き出して、
『メッセージ』に収録。
しかし9年前の文章が今も、使える。
それが10月の商人舎標語の意味。
政府に向けて言うならば、
尖閣諸島問題も「良く噛んで食べる」
円高デフレも「良く噛んで食べる」
会社に対して言うならば、
売上げや利益が上がらないという問題も「良く噛んで食べる」、
労務問題も環境問題も「良く噛んで食べる」。
とりわけ、食べにくい食物、繊維質の食べ物、固い食品は、
「良く噛んで食べる」
むずかしい問題、絡み合った問題、二律背反の問題は、
「良く噛んで食べる」
<結城義晴>