『商人舎』12月号と『私の履歴書』奥田務「道標の一冊」
【特集】
「流通革命論」の軛(くびき)を断つ
2015脱チェーンストア経営の弁証法
[Cover Message]
軛(くびき)とは、
「車の轅 (ながえ) の前端に渡して、
牛馬の頸の後ろにかける横木」のこと。
転じて「自由を束縛するもの」を意味する。
1962年に東京大学助教授だった
林周二が上梓した『流通革命』は、
日本の小売業・卸売業・製造業に、
決定的な衝撃を与えた。
それは小売業の近代化を促すかたわら、
一部に「問屋無用論」と理解され、
ながらく日本流通業の軛となった。
一方、2015年の年頭、
セブン&アイ・ホールディングス鈴木敏文会長が
「従来のチェーンストアのあり方を全面的に見直す」と宣言。
「脱チェーンストア経営」のロジックは
日本中の小売業を駆け巡った。
しかしそれは「流通革命論」にパワーを得た、
古典的チェーンストア理論という
テーゼに対するアンチテーゼであり、
そこには必ずジンテーゼがある。
「流通革命論」から「脱チェーンストア論」までを
弁証法的に検証し、新しい時代に向けて、
「軛を断つ」。
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まったくの偶然で、私も少々驚いた。
今日12月10日の日経新聞『私の履歴書』で、
この著『流通革命』が取り上げられた。
今月の主人公は、J・フロントリテイリング相談役。
その第10回目のタイトルは、
「道標の一冊」
「1963年(昭和38年)春のことだ」
慶応大学法学部の4年生だった奥田さんは、
『流通革命』を読んで、思い始めた。
「就職するなら流通業界が
ええんとちがうんかな」
「大ベストセラーとなった
この『流通革命』に心酔して
この世界に飛び込んだ学生は多かった」
「私の人生を決めた一冊に違いない」
奥田さんは、序文を引用する。
「そしてこの変革の意義を自覚した者は栄え、
自覚しない者は滅び去るときが
近い将来にやってくるであろう」
林周二の名文。
奥田さんの述懐。
「どこまで理解できたかわからないが
製造業主体の世の中にあって
流通業の重要性を的確に指摘していた」
「大学に張り出される小売業の求人票は
大丸、三越、高島屋などの百貨店だった」
そこで、奥田さん。
「『流通革命」の現場である大丸に入社した」
林周二さんは、実は百貨店を、
「流通革命」の主体者とは書いていない。
しかし当時の学生からすると、
「流通革命」=「小売業革命」
そしてその「主役は百貨店」
となっても、不思議はない。
ヤオコー会長の川野幸夫さんも、
弁護士を目指していたが、
『流通革命』を読んで、
実家の小売業を継ぐ決意をする。
「流通革命論」は多くの若者たちに、
多大な影響を与えた。
しかし、53年後の今、
その多大な影響が、
いまだに「軛(くびき)」となっている。
特に「流通革命的チェーンストア論」は、
そのインパクトの強さによって、
いまだに業界の一部を縛っている。
その「軛」や「縛り」を解こうというのが、
月刊『商人舎』12月号である。
目次を紹介しておこう。
[Message of December]
自ら軛を断て。
結城義晴の「日本流通革命」評論記
しかし革命の季節は去った?!
革命家の条件/『流通革命』論の主題/
『流通革命』論の展開/『流通革命』論の結論/
「問屋滅亡論」の真相/革命後継者たちの季節
【対談構成】
流通科学大学学長石井淳蔵vs商人舎社長結城義晴
『流通革命』と「流通1.0⇒3.0」を語りつくす
第1部「流通革命」とは何か
第2部流通革命は成し遂げられたか
第3部「流通3.0」は何か
【インタビュー構成】
日本アクセス田中茂治社長に
「問屋無用論」の真偽を問う
前編「日本の問屋は永遠なり」
後編「サービス価値提供業になる」
プラネット玉生弘昌の【特別寄稿】
脱流通革命「科学的問屋有用論」の要諦
卸売業の社会的有用性を数学的に証明する
【渾身Reportage】
「脱チェーンストア」本当の解
イオンリテール、イトーヨーカ堂、ユニー、イズミ――
総合スーパーは「破壊的再生」によって復権するか?
結城義晴【特集のあとがき】
「流通革命理論」と「脱チェーンストア」の弁証法
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では最後に再び、
今月の商人舎標語。
自ら軛を断て。
あなたは縛られていないか。
会社に、上司に、組織に。
あるいは観念に、慣習に、古い理論に。
牛が曳かれてゆく。
首の上に木製の棒がつけられている。
軛(くびき)である。
牛は何も言わない。
ただひたすら下を向いて、
のろのろと歩いてゆく。
強制されているからか。
それが自分の役目だとでも観念しているからか。
それとも何も考えていないからか。
商人はもともと自由である。
一人の顧客と対面するとき、
一人の商人は奔放である。
ところがその自由な商人のなかに、
いつのころからか軛につながれる者が出てきた。
社畜と堕す者が生まれた。
ひたすら命令に従う者、
顧客や市場よりも体制に迎合する者、
権力や理論に従属する者。
強制されているからか。
それが自分の役目だとでも観念しているからか。
それとも何も考えていないからか。
2015年が終わろうとする今、
そんな軛を、自ら断ちたい。
正々堂々、顧客や市場と向き合いたい。
組織人でありつつ、
独立自営商人の気概をもちたい。
自分で考えぬく脱グライダー商人でありたい。
あなたは今も縛られていないか。
会社に、上司に、組織に。
あるいは観念に、慣習に、古い理論に。
今号は単行本のような一冊です。
正月休みの読書に、
1963年に奥田務さんが感動した、
この『流通革命』解説本をどうぞ。
〈結城義晴〉