【日曜版・猫の目博物誌 その8】雲
猫の目で見る博物誌――。
猫の目はわずかな光で、
白黒を見分ける。
しかし猫の目には、色がない。
猫の目で見る博物誌――。
山村 暮鳥。
大正時代の詩人・児童文学者。
1884年(明治17年)に生まれ、
1924年(大正13年)に没した。
暮鳥も『博物誌』のような詩を書いている。
最後の作品がこれ。
雲
丘の上で
としよりと
こどもと
うつとりと雲を
ながめてゐる
おなじく
おうい雲よ
いういうと
馬鹿にのんきさうぢやないか
どこまでゆくんだ
ずつと磐城平の方までゆくんか
ある時
雲もまた自分のやうだ
自分のやうに
すつかり途方にくれてゐるのだ
あまりにあまりにひろすぎる
涯のない蒼空なので
おう老子よ
こんなときだ
にこにことして
ひよつこりとでてきませんか
〈青空文庫より〉
雲は、
大気中にかたまって浮かぶ
水滴または氷晶のこと。
英語で、cloud。
宮沢賢治も詩を書いている。
雲の信号
あゝいゝな せいせいするな
風が吹くし
農具はぴかぴか光つてゐるし
山はぼんやり
岩頸(がんけい)だつて岩鐘(がんしよう)だつて
みんな時間のないころのゆめをみてゐるのだ
そのとき雲の信号は
もう青白い春の
禁欲のそら高く掲げられてゐた
山はぼんやり
きつと四本杉には
今夜は雁もおりてくる
雲の博物誌は、詩になる。
鱗雲。
入道雲。
今日の雲。
夕暮れの雲。
雲を眺めて、
一日を過ごす。
それも猫の目博物誌。
雲は猫の目にも、
見えます。
夕暮れの赤は、
見えないけれど。
〈『猫の目博物誌』(未刊)より by yuuki〉