【日曜版・猫の目博物誌 その17】キキョウ
猫の目で見る博物誌――。
猫の目は夜にも見える。
光のないところでも見える。
そんな猫の目で見る博物誌――。
秋です。
せわしなや桔梗に来り菊に去る
〈正岡子規〉
〈写真はTrev Grantより〉
キキョウ。
「桔梗」と書く。
漢名で「桔梗」。
「きちこう」と読む。
それを音読みで「ききょう」。
つまり和名は、
中国の命名に由来する。
万葉集にも歌われる古い花。
その万葉集の山上憶良の歌。
尾花葛花
なでしこの花
をみなへし
また藤袴
朝貌(あさがほ)の花
最後の「朝貌」が「桔梗」。長らく論争が繰り広げられたが、
日本最初の漢和辞典で、
桔梗となった。
その漢和辞典は『新撰字鏡』
901年頃に昌住が著した。
Platycodon grandiflorus。
〈野草デジカメ日記より〉
キク目Asterales
キキョウ科Campanulaceae
キキョウ属Platycodon
キキョウ種P. grandiflorus
多年性草本植物。
「多年性」とは、
「個体として
複数年にわたって
生存すること」
反対語は「一年性」。
こちらは、
種子から発芽して、
1年以内に生長して、
開花・結実して、
種子を残して枯死すること。
一年性の植物は、
この博物誌で取り上げた、
アサガオ、ヒマワリなどがある。
しかしたいていの植物は、
多年生。
「草本」は、木にならない植物。
樹木のように大きくならず、
太く堅い幹を持たない植物。
反対語は「木本」
こちらは木になる植物。
山野の日当たりの良い所に育つ。
極東に分布する。
日本列島、朝鮮半島、
中国、そして東シベリア。
イメージは秋の花だが、
開花時期は6月中旬の梅雨時。
夏を通じて咲き、初秋の9月頃まで、
目を楽しませてくれる。
つぼみは、
花びらが風船のように、
ぴたりとつながっている。
そのため英語では、
“balloon flower” ともいう。
〈ヤサシイエンゲイより〉
つぼみは緑色から、
徐々に青紫に変わる。
それが裂けて、
星型の花を咲かせる。
「雌雄同花」。
つまり雌花と雄花との区別がない。
同じ一つの花に、
雄しべと雌しべが備わっている。
しかし「雄性先熟」でもある。
つまり性転換すること。
開花時点では雄しべが成熟して、
花粉を放出する。
「雄性期」と呼ぶ。
やがて雌しべが成熟して、
花粉を受け取る。
「雌性期」という。
花冠は複数の花弁のことだが、
その花冠は広鐘形。
だから、学名のPlatycodonは、
「広い鐘」の意味もつ。
種小名のgrandiflorusは、
「大きな花の」の意味。
花は五つに割れている。
「五裂」という。
雄しべ・雌しべ・花びらは、
それぞれ5本。
桔梗らしくて、キリがいい。
きりきりしやんとしてさく桔梗哉
〈小林一茶〉
夏目漱石にもある。
むつとして口を開かぬ桔梗かな
桔梗はよく、
人間にたとえられる。
桔硬咲く
襟つきにくき人のごと
女姿の少年のごと
〈与謝野晶子〉
ただし、絶滅危惧種。
万葉の時代から歌われ、詠まれ、
長らく人間にたとえられている桔梗。
それが絶滅寸前。
悲しいことですが、
それも自然というものです。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)