【日曜版・猫の目博物誌 その22】大塚国際美術館
猫の目で見る博物誌――。
猫の目は美しいものの裏側を見る。
そんな猫の目で見る博物誌――。
美術館シリーズ第2弾。
日本が世界に誇るミュージアム。
それは大塚国際美術館。
徳島県鳴門市の鳴門公園内にある。
陶板複製画を中心とした博物館。
1998年開設。
延床面積2万9412m²で日本第2位。
世界三大美術館。
フランス・ルーブル美術館は6万㎡、
メトロポリタンは5万6600㎡、
ロシア・エルミタージュは4万6000㎡。
ルーブルの半分くらいで、
これはまさに国際級。
世界25カ国・190余の美術館所蔵の、
絢爛たる名画が1075点。
大塚オーミ陶業㈱開発の特殊技術によって、
名画を陶器の板に原寸で焼き付けたもの。
陶板複製画は災害に強い。
光による色彩の退行にも非常に強い。
2000年以上にわたって、
そのままの色と形で残る。
だから写真撮影が可能。
直接、触ることもできる。
屋外に展示しても、変色しない。
展示室は5フロア。
地下3階から地上2階まで。
展示手法の特徴は3つ。
第1が環境展示。
環境空間を再現する。
第2が系統展示。
古代から中世、ルネサンス、バロック、
そして近代から現代まで。
ここでは美術史的に理解できる。
そして第3がテーマ展示。
人間にとっての普遍的主題ごとに集められる。
複製は「完全コピー」
それを陶板に焼き付けた。
入り口を入ると、
長いエスカレーター。
地下3階から展示スタート。
トップバッターは、環境展示。
システィーナ礼拝堂。
バティカンの礼拝堂の再現。
天井画と壁画は見事。
もちろん作者は、
ミケランジェロ・ブオナローティ。
上階の地下2階から見下ろすと、
礼拝堂そのものが再現されている。
天井画の中央には、
神によるアダムの創造。
そして天国と地獄。
中央はミケランジェロ自身の投影画。
天井画の中のマグダラのマリア像。
その現物が地上に展示される。
近くに寄って見る。
横に広がった絵柄となっている。
横長の鏡に、
自分の姿を映したごとし。
これを天井に据えると、
下から見て自然な姿となる。
ミケランジェロは天井に、
そこまで計算して、
横に広がった絵を描いた。
地下3階には、
「フェルメールの部屋」
バロック時代のオランダの画家。
ヨハネス・フェルメール。
牛乳を注ぐ女。
手紙を読む女。
部屋の右サイドにある。
左サイドは、
デルフトの小路。
この絵がいい。
デルフトの眺望。
そして真珠の耳飾りの少女。
別名、青いターバンの少女。
地下3階には環境展示が多い。
エル・グレコの部屋。
上階のフロアから見る。
聖マルタン聖堂。
その壁画。
これも環境展示の、
聖ニコラウス・オルファノス聖堂。
屋外展示の貝殻のビーナス。
外光にも強い陶板だからこれができる。
そして圧巻は、
屋外のクロード・モネの水蓮。
パリ・オランジュリー美術館所蔵の大作。
地下3階は古代、中世の環境展示。
地下2階のルネサンス。
ルートの最初に出てくるのは、
「受胎告知」の展示。
世界各地の美術館に点在する名画が、
集中的に鑑賞できる。
レオナルド・ダ・ビンチの受胎告知。
ティントレットの受胎告知。
天使ガブリエルが聖母マリアに、
イエスを身ごもったことを告知する図。
そしてルネッサンス期の天才、
ラファエロ・サンティ。
有名なアテネの学堂。
中央はプラトンとアリストテレス。
その対面に、これも大画、
ラファエロの聖体の論議。
ルネサンスの秀才、
サンドロ・ボティチェリ。
その代表作2点がある。
ラ・プリマべーラ(春)。
チェーザレ・ボルジアが私蔵して、
ベッドサイドに飾った。
ビーナスの誕生。
ボティチェリは、現代画としてみても、
秀逸の斬新さ、繊細さをもつ。
地下2階の愁眉は、
最後の晩餐。
もちろん、
超天才レオナルド・ダ・ビンチ。
この美術館全体の価値を高める展示。
この1498年製作の巨大絵画は、
1999年に修復されて、
原画の美しさが再現。
その修復前と修復後の絵画が、
対面に並んで展示され、
それらを比較鑑賞できる。
これこそ本物を超える展示。
地下1階のバロックに移って、
大工の聖ヨゼフ。
ラ・トゥール作。
レンブラント、べラスケス、
リューベンスと並んで、
最後はフランシスコ・デ・ゴヤ。
着衣のマハと裸のマハ。
これも並んで展示。
素晴らしい。
地下1階には、
その後の近代の印象派まで、
よだれが出るほどの名作ぞろい。
ただし、印象派などの小型絵画は、
ちょっと陶板では物足りない。
接吻。
グスタフ・クリムト。
オーストリア美術館蔵。
家族。
エゴン・シーレ。
これもオーストリア美術館。
そしてこのフロア最後は、
エドヴァルド・ムンク作品群。
ノルウェーの画家。
病める子、メランコリー、
そして叫びと続く。
そのなかの思春期。
2階は現代画。
モディリアニ、ユトリロ、ピカソ、
シャガール、マティスから、
現代抽象画まで。
最後に1階に下りて、
テーマ館。
ピカソのゲルニカがすごい。
陶板画としても秀作。
ポール・ゴーギャン。
長いタイトルの大作。
われわれは何処から来たのか?
われわれは何者であるのか?
われわれは何処へ行こうとしているのか?
この絵とこのテーマだけは評価している。
そして最後の最後は、
キリストの磔刑(たっけい)。
ディエゴ・ベラスケス。
エドゥアール・マネは、
スペインのベラスケスを、
「画家中の画家」と呼んだ。
複製画の美術。
いわば究極の模倣。
しかし模倣から、
新しい価値が生み出されると、
それには大きな評価が下される。
ただの模倣は真似に過ぎない。
猫の目はそれを正しく見ている。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)