「商売は科学だ」とカルビー松本晃の「経営幹部の育て方」
朝、目覚めたら、
目の前に堺の港。
ここはどこ?
私は誰?
出張ばかりで、
そんな感覚を実感する。
ホテル・アゴーラリージェンシー。
朝食を摂って、
タクシーを呼んで、
新大阪へ。
そして新幹線。
京都、名古屋、静岡を過ぎて、
富士川を渡ったら、
雲のはるか上に、
うっすらと富士の頂。
しかしその姿はすぐに消えて、
黛ジュンではないけれど、
「霧のかなたへ♬」
詞はなかにし礼だったか。
緑の水田と雲がかかった丹沢山系。
横浜に戻ってから、
久しぶりに商人舎オフィス。
もう、月刊商人舎7月号の、
締切りが迫っている。
思い返せば2013年の4月。
月刊商人舎プレ創刊号をつくった。
次の5月号が第1巻第1号、
通巻第1号だった。
特集「ニッポンCRM元年」
その巻頭言。
月刊商人舎の一番初めのメッセージ。
[Message of May 2013]
リテールをサイエンスせよ。
いや、商売は勘と経験だ。
あなたは、どっち派?
現代の消費社会と情報社会を鑑みれば、
明らかにサイエンス派が有利に見える。
しかし、多くの小売り現場では、
まだまだ「勘と経験」や変な「人間力」が幅を利かせている。
この時、最も人間臭いゲームの「第2回将棋電王戦」において、
コンピュータソフトが、天才プロ棋士たちをなぎ倒してしまった。
そして人間の天才たちは述懐した。
「コンピュータを使ってでももっと強くなりたい」
だとすると商売も「強くなる」ために、
徹底的に科学しなければいけない。
心底、お客のためにと思い詰めるならば、
サイエンスしなければならない。
そして「商売は科学だ」と胸を張らなければならない。
この境地に至って初めて、
「勘と経験」も最高のレベルで活かされるのである。
〈結城義晴〉
あれから4年。
懐かしい。
しかし、創刊号の巻頭言で、
将棋電王戦のことを書いていた。
コンピュータソフトを話題にした。
それから通巻50号を数えた、
先月号の2017年6月号。
巻頭の提言記事。
「鉄人28号から鉄腕アトムへ」
私は次のように書いた。
――日本の将棋界ではこの5月20日に、
第2期電王戦二番勝負において、
現役の最高峰・佐藤天彦名人が
コンピュータ将棋ソフト「PONANZA」に、
2連敗した――。
4年前はまだまだ、
緒に就いたばかりだった。
藤井聡太は10歳の子どもだった。
それが4年後は、
より現実に近くなる。
聡太はプロになって、
29連勝の新記録を打ち立てた。
私自身も、
商人舎スタッフも。
本当に無理をして、
雑誌をつくってきた。
けれど、
こんな時代の変遷を、
描き出すことができた。
よかった。
そう思って、
また無理をしつつ、
編集仕事に精を出す。
ああ。
さて今日、
新幹線の中で読んだ「Wedge」
2017年7月号。
特集は「日本型人事への最後通告」
その中の松本晃さんがいい。
カルビー会長兼CEO。
松本流の経営幹部の育て方。
シンプルに概括しよう。
まず第1に「トップ自らが、
既得権を捨てなければならない」
第2に、
「権限を委譲された人たちが、
自ら考えて決断すること」
経営者候補が身につけるべき13の項目。
カルビーと松本さんは掲げている。
経営者はゼネラリスト。
だから13項目が必要となる。
ピーター・ドラッカーは、
大工道具に例える。
それをみな、身に着けよと。
①アカウンティング(会計)。
計数と言い換えてもいい。
数字が読めなければ仕事にならない。
②リーガル(法律)。
これは本当に必須。
「水素水」に関する、
「薬機法」違反のようなことが起こる。
③英語。
これはカルビーのような会社だから必要。
流通業では必ずしも必須ではないと思う。
④人事
⑤情報技術、つまりIT
⑥財務
⑦製造
⑧品質
⑨営業
⑩総務
ここからが面白い。
⑪プレゼンテーション
⑫一般教養(特に歴史)
⑬マーケティング
この13項目は、
松本さん自身の考えもあろう。
しかし、「一人ひとりが、
人生の『究極のゴール』を掲げ、
そこから逆算して今、
何をすべきか考えて行動せよ」
「学びて思わざれば、
則ち罔(くら)し、
思いて学ばざれば、
則ち殆(あやう)し」
第3に、経営者を育てるためには、
とことん競わせること。
会社の中に競争がないと
人は伸びないし、企業も成長しない。
競争をさせて経営者を育てるためには、
第4に、
環境と制度を整えておくこと。
そのキーワードは3つ。
⑴分権化
⑵簡素化
⑶透明化
第1の分権化は、権限委譲。
「権限を与えると、
人は活力が出て成長するものだ」
しかし権限を委譲する代わりに
与えた利益目標に対しては、
全責任を負わせる。
さらに評価制度。
「commitment & accountability」
「約束と結果責任」
年に一度、全員が直属の上司と面接し、
前年度よりも高い目標を設定している。
この目標の達成度合いで
厳格に成果を査定し、
賞与に反映させている。
ここでのポイントが第2の「簡素化」。
目標設定の際は、
数値化が難しい部門であっても、
必ずデジタルに設定させている。
また、役職者らの目標と成果は、
社内データベースで公開している。
社員なら誰でも閲覧できる。
第3の「透明化」をはかり、
公平・公正な評価ができるような
環境を整えている。
こうした環境の中で、
部長以上はトーナメント方式で競わせる。
目標を達成すればアップ(昇進)、
達成できなければアウト(降格)。
ただし、第5に、1回だけ、
敗者復活を認めている。
幹部候補は他にもおり、
チャンスを平等に与えることが大事だ。
最後は、
企業のビジョンを実現するために、
ベクトルを合わせ、
一番成果を出した者が、
トップまで上りつめることになる。
松本さんは毎月、
全国の職場を巡りながら
社員に説いて回っている。
「正しいことを正しく」
「勉強しろよ」
ただし、本当に正しくないといけない。
そうでない者が、とかく、
「正しく」と言いたがるものだ。
〈結城義晴〉