日曜版【猫の目博物誌 その50】マツムシ
猫の目で見る博物誌――。
台風が去って、
秋分の日が過ぎると、
夜には虫の声。
ちんちろまつ虫、虫のこえ
庭のはたけで、なきました。
ぎんぎら葉の露、草の露
月のひかりが、ぬれました。
とろとろ燃える火、いろりの火
栗が爆(は)ぜます、匂います。
「秋」は井上赳作詞、弘田竜太郎作曲。
もうひとつ、「虫のこえ」
文部省唱歌。
あれまつむしがないている
ちんちろちんちろ ちんちろりん
あれすずむしもなきだして
りんりんりんりん りいんりん
あきのよながをなきとおす
ああおもしろいむしのこえ
秋の虫の声の代表格はマツムシ。
そのマツムシ(松虫)は、
バッタ目コオロギ科の昆虫。
学名はXenogryllus marmoratus。
体長は19〜33mm。
体の色は淡褐色。
枯れ葉、枯れ草など色に合わせた保護色。
昆虫は頭部、胸部、腹部に分かれる。
頭部にある触角は長い。
雄は発音器のある幅広い翅(はね)をもち、
それが虫の声を生み出す。
雌は錐(きり)状の長い産卵管をもち、
イネ科植物の茎に産卵する。
卵生で幼虫、成虫と変態する。
胸部から肢(あし)が三対生えている。
「歩脚」と呼ばれる。
その肢は、根元から、
腿節、脛節、附節と分かれている。
マツムシは、その一番先の附節に、
吸盤がついている。
この吸盤を「褥盤」(じょくばん)と呼ぶが、
粘液を分泌して、
樹皮やガラスなどの表面に、
静止することができる。
マツムシの成虫は、
8月中旬から11月下旬に現れる。
平地から低い山に生息する。
乾燥していて、日当たりの良い草地。
食性は、草木の葉、昆虫の死骸。
雑食性ということになる。
分布は日本の本州、四国、九州。
北海道、沖縄などには生息しない。
古代から、
マツムシとスズムシが混同されたり、
マツムシのことをスズムシ、
スズムシのことをマツムシと、
逆に呼んだりした。
明治以来、外来種のアオマツムシが繁殖、
この緑色の新種とも混同される。
それでも童謡の「虫の声」の王者。
それがマツムシだ。
河川敷の土手などは、
マツムシの住処。
しかし、都市開発の結果、
マツムシの生息環境は激減している。
そこでインターネット販売などでは、
個体価格が上がっている。
ヤフオクの平均価格は1593円。
秋の夜長の虫の声も、
商品として価格がつく時代だ。
しかし、虫の声と言えば、
やはりこの歌が思い浮かぶ。
ちんちろまつ虫、虫のこえ
庭のはたけで、なきました。
秋の夜長の虫の声。
猫も虫の声は好きです。
西洋人には聞こえないらしいけれど、
虫の声は何よりも、
平和を意味しているからでもあります。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)