「東北関東大津波大震災」結城義晴・渾身の現地レポート「四章 ヨークベニマル湊鹿妻店物語〈前編〉」
Everybody! Good Monday!
[vol15]
2011年の第15週、4月に入って第3週目。
「東日本大震災」と名づけられた地震と津波が起こってから、
数えて、1カ月。
私にはひどく長く思われた31日間だが、
実際に被災した人々には短く感じられた日々。
私たちは何を考え、どう行動したか。
そしてさらに、これから、
何を考え、どう行動するか。
それが問われている。
昨日は全国的に統一地方選挙。
石原慎太郎東京都知事が四選を果たし、
高橋はるみ北海道知事も三選、
12の都道府県知事選挙で、
9人の現職知事は全員、当選した。
私の住む神奈川県では、
ニュースキャスターの黒岩祐治候補が当選。
「現職強し」
こういった震災などの直後の選挙としては、
定石どおりの結果。
しかし、政権与党の、いわば現職の民主党は、
知事選・市長選・県議選・市議選トータルで惨敗。
対する自民党も改選前の1247議席に比べ、
獲得したのは1119議席で、1割以上の減。
決して勝ったとは言えない。
民主党が政権をとって、
二大政党時代への価値観の転換がなされたかと思ったら、
そうは単純明快ではなかった。
被災して将来に対する不安感が増幅された上に、
政治への展望が持てない。
政治の世界にも、経済や商売の分野にも、
複雑怪奇なパラダイムへの転換の時期が来ている。
複雑怪奇な言説を駆使する石原都知事の圧勝は、
東国原英男候補や渡邊美樹候補の、
過ぎたるシンプルさやわかりやすさが、
大都会の東京ではそろそろ見透かされてきたのかと、
考えさせられてしまう。
複雑で難解な価値観への大転換。
それが2011年の現在である。
シンプル過ぎる発言や提案、
わかりやすすぎる言説や誘惑は、
信用できない。
そう心得ておかねばならない。
私が言い続けているのは、
「トレード・オフ」から「オクシモロン」へ、
考え方が変わったということ。
あちらを立てれば、こちらが立たず。
こちらを立てれば、あちらが立たず。
ならば、えいやっと、
どちらかを切り捨てる。
それがトレード・オフ。
しかしあちらも立てて、こちらも立てねばならない。
それが「愚かな賢さ」「鈍い鋭さ」「創造的破壊」など、
反対の概念を包含しつつ、
問題を解決していく姿勢、
すなわちオクシモロン。
今日で、震災から1カ月。
堺屋太一さん言うところの「第2段階の救済」がほぼ終了し、
「第3段階の復旧」に移る。
もちろん現地を訪れてみると、
まだまだ救済段階だらけであることも実感できるが、
日本全体で見ると復旧に動き始める。
いよいよ、立ち上がる時だ。
元気を出して、
立ち上がれる者たちが、
立ち上がる。
そして、まだ立ち上がれない者に、
手を添えて、ともに立ちあがる。
それがこれからの日々。
だから、最初は被災地の商業人を励ましたこの詩は、
これから日本の商人全員のものとなる。
元気を出そうよ、
それがあなたの仕事です。
元気を売ろうよ、
それがあなたの役目です。
だからふたたび、
3月12日の九州新幹線全線開通のCM。
[youtubeID:UNbJzCFgjnU]
「ひとつになってくれて、ありがとう」
開通に歓喜する九州新幹線沿線の人々。
東北新幹線が復旧して、
被災地が復興したら、
絶対に、この歓喜を、
東北・北関東の人たちと、
分かち合いたい。
ともにがんばろう、東北。
負けるな、不屈の日本人。
さて、私は先週の火曜日から木曜日まで、
東北の被災地を訪問した。
その二日目の4月6日水曜日。
宮城県石巻市を訪れた。
目指すはヨークベニマル湊鹿妻店。
しかしこの店は、被災し、閉鎖中。
そこで、まずはじめに、
石巻で営業しているヨークベニマル石巻蛇田店に行く。
ここに湊鹿妻店の物江信弘店長をはじめ、
スタッフがいて、働いている。
湊鹿妻店の物江店長(左)、
蛇田店の小林稔店長、
二人のお話を聞いた。
それから物江店長の運転する車で、
石巻市内をご案内いただいた。
今日はその石巻の現在の状況を、
写真でレポートする。
私たちはまず、石巻市の山側にある蛇田店から、
海岸の方向にある中浦店へ。
建物は残っているが、周辺には瓦礫が寄せられている。
その駐車場は今、一般道路となっている。
なぜか。
店舗のわきを走っていた石巻街道の道路が、
陥没して通行できなくなったからだ。
だから店舗の駐車場を道路にしているが、
そこに自衛隊の給水車が停まっていた。
「ヨークベニマル」のマークとともに、
店舗の建物は一応、立っている。
マークのところに黒い筋が残っているが、
そこまで津波が来て、しばらく浸水していた。
近寄ってみると、浸水の高さがわかる。
自動販売機の上段まで、浸かっていた。
中浦店の中は、使えない。
復旧の目途は立っていない。
その中浦からさらに海に向かって走る。
石巻米穀販売協同組合の建物。
津波によって浸水した海水が、残る。
建物のガラスは割れ、水流で運ばれた瓦礫が、
その建物の中に詰まっている。
ローソンの跡。
海に近づくにしたがって、こういった光景が多くなる。
建物の骨組みだけ残り、中には瓦礫が詰まっている。
右手が海。
その前面は瓦礫が残されている。
これも骨組みだけが残った建物。
瓦礫も片付けられつつあるが、
あとは、戦場跡ような荒れ地となる。
曲がった電信柱。
人家の垣根には、白いものがまとわりついている。
そして日本製紙石巻工場が見えてくる。
巨大な工場には鉄道の引き込み線があるが、
それも津波に破壊されている。
工場の威容だけが残るが、
メル・ギブソンが主演した映画「マッド・マックス」のようだ。
石巻の工業埠頭に突き出るように日本製紙がある。
その埠頭は津波の大波を、もろにかぶった。
そして巨大な鉄のかたまりとなって残った。
工場はどこまでも続くかのように感じられた。
港から木材を積み上げて、パルプに変え、紙をつくる。
出来上がった白い紙が、工場周辺から出て、街中に散乱している。
日本製紙石巻工場は2000人の従業員を雇用していた。
しかし、全員解雇という方針が出されている。
工場の中心部から離れて、倉庫などが林立しているが、
それも骨組みだけの空き家となっている。
いつまで続くのかと思われる工場。
石巻工場にいた従業員は全員無事と伝えられる。
非番だった2人の死亡が確認され、4人が行方不明。
それが途切れると、右手に海が見えてくる。
左手には建物跡。
東に向かって、北上川に近づく。
周辺は荒涼たる光景。遠くにマンションの建物が見える。
海に面した倉庫は、外壁と骨組みだけ。
中はガランドウ。
石巻市内の真ん中を流れる北上川の、
いちばん海側の橋を渡る。
写真の左手が旧市街及び日本製紙の工場。
右手が被災度が激しかった漁港地区。
橋のうえに避難した人がいたのだろうか。
その人たちは助かったのだろうか。
橋を下りきると、同じように骨組みだけの建物。
ファミリーマートも被災している。
石巻は鯨漁の街でもあって、鯨缶詰が名物。
その巨大な広告宣伝ディスプレーが、道の真ん中に転がっている。
石巻ガスのタンクが2基。
ヨークベニマル物江店長が教えてくれた。
「このタンクの外周の階段を頂上近くまで登って、
助かった人たちがいました」
看板は斜めになっている。
車はぐちゃぐちゃになって、連なっている。
ベルプラスのビッグハウス魚町店が見えてきた。
この店も津波に浸水し、
お客と従業員は屋上に上って、助かった。
ビッグハウスの店舗の裏側。
骨組みだけになって、店内には流れてきた瓦礫が、
ぎっしり詰まっている。
そしてローソン石巻緑町店。
しまむら緑町店も同様の惨事。
いよいよヨークベニマル湊鹿妻店に近づいてきた。
一方、石巻市中心部の商店街は、床上浸水したものの、
漁港地区や日本製紙付近ほどひどい被害は受けてはいない。
それでも街の中は泥だらけ、瓦礫がいっぱい。
しかし北上川に近くなるにしたがって、
どんどん被災が激しくなる。
サルコヤ楽器の店舗は、
ガラスウィンドーが割れ、
泥をかぶったピアノが並んでいる。
瓦礫に囲まれ傾いた商店街の人家。
商店街の交差点には、
津波に打ち上げられ、陸に上がった漁船が、
赤い船底を見せて横たわる。
商店街の店舗も、使い物にならない廃屋と化した。
北上川沿いの市場付近も、
ひっくり返ったようになっている。
北上川の対岸沿いの石ノ森萬画館。
建物はしっかり残ったし、
入口の仮面ライダー看板も健在。
橋を渡って、漁港地区の女川街道。
その街道沿いは、どんどん被害が激しくなる。
今のところ復旧工事には手をつけられない。
ほとんどが、瓦礫撤去工事。
女川街道沿いには、流されてきて連結してしまった人家。
救助・救済に大活躍の自衛隊の隊列が行く。
とても頼もしく見える。
陸橋の下には、横転して車底を見せる車。
その向こうは避難所になっている石巻市立湊小学校。
女川街道は陥没し、水浸し。
物江店長によると、
「このあたりに水が上がったことはありません」
ヨークベニマル湊鹿妻店近くのローソン。
山を背景にしたこの店には、
「流されてきた車が2、3台詰まっていました」
そして山の裾野にお墓。
墓石のうえに、
流されてきたトラックや車が載っている。
街道沿いに車が積み重なっている。
津波は海側から山側に押し寄せた。
だから山側には様々なものが流されてきた。
それが今も人家や建物にへばりついている。
ショッピングセンターも形だけ残った。
そしていよいよ、見えてきた。
ヨークベニマル湊鹿妻店。
物江店長の息遣いが、
心なしかあらくなったように感じた。
この石巻の惨状の中で、
ヨークベニマル湊鹿妻店は、
四方を津波に囲まれつつも、
屋上に500人の人々が避難し、
生き残った。
物江店長の胸の鼓動が、
また激しくなったように感じられた。
(物語は明日に続きます)
さて、4月第3週。
明日からプロ野球が始まる。
救済段階は1カ月。
その後、復旧段階に入る。
ひとつずつ、
すこしずつ、
いっぽずつ。
今月の商人舎標語。
石巻を見ていても、
復旧は途方もなく遠いことのように感じてしまうが、
それも、「ひとつずつ、すこしずつ、いっぽずつ」
これしかない。
地道に地道に、
ひとつ、すこし、いっぽ。
その積み重ね。
気が遠くなるような仕事。
それも一人ではつらい。
1万の仕事をひとりでやると、
1万回しなければならないが、
1万人ならば、
1回ずつなせばよい。
100万の仕事なら、
100万人でやろう。
1億の仕事なら、
1億人でやろう。
この精神が、
ひとつずつ、すこしずつ、いっぽずつに、
元気と勇気を与えてくれる。
では、今週も、
Everybody! Good Monday!
<結城義晴>