日曜版【猫の目博物誌 その53】皇帝ダリア
猫の目で見る博物誌――。
季節は冬。
1年でいちばん短い日に向けて、
少しずつ昼の時間が減っていきます。
短日や皇帝ダリア咲き誇る
〈「末黒野」より 加藤八重子〉
ダリアは夏の花。
皇帝ダリアは冬の花。
ダリアの和名は「天竺牡丹」。
花の形がボタンに似ている。
あつき名や天竺牡丹日でり草
〈正岡子規 〉
英語でdahlia、
フランス語でもdahlia、
学名もDahlia。
それに対して皇帝ダリアは、
「キダチダリア」「木立ダリア」、
あるいは「コダチダリア」などといわれる。
だから英語ではTree dahlia。
学名はDahlia imperialis。
キク科ダリア族。
日本語の「皇帝ダリア」は、
学名からとられた。
本来、高地や山地の植物。
メキシコ、コロンビアなど、
中米南米の原産で、
標高1500~1700mの地に生育する。
球根植物の多年草。
冬期には休眠し、
そのあと急速に伸びる。
3~4mとなるが、
10mになるものもある。
見上げたる皇帝ダリアに見下ろされ
〈「峰」より 村上倫子〉
茎は竹のように節のある四角形。
葉は羽状複葉(うじょうふくよう)。
つまり葉軸の左右に小さな葉が、
羽状に並んでいる。
高い茎の先で、
花は下向きに咲く。
頭花は直径75~150mm。
8枚の舌状花。
ラベンダー色、
または紫がかったピンク色。
短日植物で、
日照時間が短くなると花が咲く。
この点は長日植物ダリアと反対。
これは「光周性」という現象。
「こうしゅうせい」と読む。
昼の長さを「明期」といい、
夜の長さを「暗期」と呼ぶ。
生物はその明期と暗期の変化に応じて、
年周期の反応を行う。
皇帝ダリアは短日条件によって、
急激な生長を示し、
最初の霜の下りる前に開花し、
11月から12月に咲く。
初冬の街。
木の枝に葉はない。
花屋もまだ店を開けてはいない。
皇帝ダリア冬日大事にしてをりぬ
〈「槐」より 犬塚芳子〉
ダリアは長日性、
皇帝ダリアは短日性。
面白いですね。
短日性という違いによって、
高い高い植物に育って、
それに皇帝の名前が与えられた。
いい皇帝なんですね。
ダリアの皇帝は。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)