日曜版【猫の目博物誌 その56】ダイコン
猫の目で見る博物誌――。
新年おめでとうございます。
今年第1回目の猫の目博物誌は、
春の七草のひとつ、ダイコンです。
ダイコン(大根)は、
アブラナ科ダイコン属の越年草。
英語でも「Daikon」、
あるいは「Japanese radish」。
フランス語で「Radis japonais」。
学名は、
Raphanus sativus var. longipinnatus。
肥大した根が食用となる。
種子からは油が採られる。
春の七草。
パックを開けると、
七種類の野菜。
その中のスズシロがダイコン。
原産地は地中海地方や中東。
日本には弥生時代に伝わった。
古くから栽培されて、
食用として普及した。
江戸時代には大都市・江戸の近郊が、
大消費地を背景に名産地となった。
練馬、板橋、浦和、三浦半島など。
そして日本を代表する野菜となった。
だから英語でも「Daikon」。
根は太い。
その主根は肥大して、
それが食用にされる。
カブの食用部分は「胚軸」だが、
ダイコンでは、根の地上部分が胚軸。
たとえば青首大根の葉に近い緑の部分。
根には両側に一列ずつ二次根が発生する。
その痕跡がくぼんだ点の列になる。
種類は多い。
しかし現在は青首大根がほとんど。
その青首大根は、
全作付面積の98%を占める。
甘みが強いし、辛みが少ないからだ。
さらに地上に伸びる性質が強いため、
収穫作業が楽で、生産性が高い。
白首大根は、胚軸が発達しない。
だから緑色の部分がない。
当然、生産性も低い。
練馬大根や三浦大根、
東京・世田谷の大蔵大根などは、
白首大根。
桜島大根は巨大な球形だが、
守口大根はゴボウのように細長い。
聖護院大根はカブのような球形。
統計上の分類としては3種類。
①春大根
②夏大根
③秋冬大根
秋冬大根が全体の7割の生産量、
春大根と夏大根が大体1割5分。
1年中、生産され、売場に並ぶ。
日本のダイコン生産量は、
ずっと減少傾向にある。
2016年の生産量は、
136万2000トン。
千葉県が15万5700トン、
北海道が14万7100トン、
青森県が12万6800トンで、
この3道県が圧倒的な産地。
鹿児島県、神奈川県、宮崎県と続くが、
47都道府県すべてで生産されるのも、
ダイコンの特徴だ。
ダイコンの味は、
「クビ」と呼ばれる葉に近い部分が、
汁が多くて甘い。
「サキ」と呼ぶ先端部分は、
逆に汁が少なくて辛い。
だからクビは生食やサラダに適していて、
サキは大根おろしなどに向いている。
100 gあたりの栄養価は18 kcalで、
カロリーは少ない。
ビタミンCに富んでいて、
鉄分、リン、カルシウムを含む。
デンプンの分解酵素「アミラーゼ」を、
多量に含有する。
その旧名が「ジアスターゼ」。
カイワレダイコンは、
ダイコンの発芽直後の胚軸と子葉である。
「スプラウト食材」と呼ばれる。
「スプラウト」(Sprout)は、
発芽野菜、新芽野菜。
種子を人為的に発芽させた新芽。
ダイコンの俳句で最も有名なのは、
高濱虚子の作品。
流れゆく大根の葉の早さかな
「花鳥諷詠」の代表句。
「自然の呼吸と虚子の呼吸が一つになった」
無私の状態を詠んだと高く評価される。
小林一茶には大根の句が多い。
大根引大根で道を教へけり
(だいこひき だいこでみちをおしえけり)
これはいい句だ。
一茶はダイコンと人間を対比させる。
大根で団十郎する子共哉
子どもがあれば爺もある。
大根を丸ごとかじる爺(じじい)哉
大根の俳人はやはり一茶だ。
正月の七草粥。
やさしい食べものですね。
その中のスズシロがダイコン。
ボクはあんまり好きではなかったけれど、
おとうさんは大好きでした。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)