ウォルマート三度目の最低賃金アップとトランプ減税の効果
2018年の年が明けて、
ウォルマート。
この世界最大企業は、
もう、恒例となった観のある施策を、
発表した。
2月17日から最低賃金を、
時給11ドルに引き上げる。
現時点の為替レートは110円だから、
1210円の時給が最低ラインとなる。
さらに年度末の1月31日に、
2018年度の特別ボーナスを支給する。
対象者1人あたり最大1000ドルとなる。
こちらは11万円。
ただしその恩恵を受けるアソシエーツは、
米国内で働く100万人以上となる。
この賃上げの予算は3億ドルの330億円、
特別ボーナスは総額4億ドルの440億円。
CEOのダグ・マクミロンのコメント。
「これまで進めてきた人材に対する投資を、
今回もさらに行います」
「我々のアソシエーツは
成功の源です」
「彼らは忙しい顧客の生活を、
少しでも良くするために努力しています」
「新しい減税の恩恵を、
顧客と社員のために投資して、
さらにビジネスを強化します」
ドナルド・トランプ政権が、
「米国史上最大の減税」と胸を張るのが、
税制改革法案の修正案。
昨年、連邦議会で可決され、
ドナルド・レーガン政権以来、
約30年ぶりに抜本税制改革が実現した。
減税規模は10年間で1兆4560億ドル、
約160兆円。
この際、焦点となっていたのが法人税。
今年、法人税率は35%から21%に下がる。
マクミロンはこの減税分の14%から、
従業員と顧客に還元しようというのだ。
「目標となるのは、
第1に顧客への低価格提供、
第2にアソシエーツの賃金改善と教育訓練、
第3にテクノロジーなど将来への投資」
「世界中で競争力強化を図り、
国内では着々と計画を推進します」
「今回の減税はその計画を速める
良い機会となります」
さらに待遇に関しては、
フルタイムのアソシエーツに対して、
産後有給休暇を10週間に拡大する。
この際、父親にも6週間の有給を提供する。
子どもの養子縁組に対しても、
最大5000ドルの補助金を支給する。
「低賃金のウォルマート」と言われた。
まるで低賃金が代名詞のようだった。
しかしマクミロンは、
2014年2月に5代目CEOに就任すると、
次々と手を打ってきた。
まず2015年の初めに、
10億ドル(当時1200億円)をかけて、
アソシエーツの最低賃金を引き上げ、
教育訓練を強化した。
8ドルの時給を9ドルに、
1ドルアップした。
さらにこのとき、
アソシエーツの能力アップ訓練を始めた。
名称は「アップスキリング」
ウォルマートの店舗の人員構成は、
3階層に分かれる。
第1に月給のマネジャー、
第2に時給のフルタイマー、
そして第3に時給のパートタイマー。
時給のフルタイマーが、
日本でいう正社員。
従来からマネジャーの教育訓練は、
プログラムが完備されていた。
しかしフルタイマーには、
Eラーニングによる自習とOJTだけだった。
このアップスキリングは、
作業技術だけでなく、
ウォルマート経営の全体像はもちろん、
マネジメント技術まで含まれる。
教育を受けて半年後の査定で合格すれば、
昇格、昇給する。
さらに一昨年、
2016年初頭。
ウォルマートは二度目の賃上げを断行。
米国内アソシエーツ120万人以上に、
最低賃金を1ドル上げて、
10ドル(1200円)にした。
このとき、時給フルタイマーは、
最高24ドル70セント(2964円)までの、
昇給の可能性を示した。
この結果、
フルタイムの平均時給は13ドル38セント、
パートタイムは10ドル58セントとなった。
この2016年の人材投資額は、
総額27億ドル(3240億円)にのぼった。
「有給タイムオフ」(有給休暇)は、
フルタイマー社員で年間最大80時間、
時給パートタイマーは48時間、
理由に関係なく提供されている。
短期障害による休暇は、
平均週給の5割または200ドルが、
最大26週間まで支払われている。
米国小売業界の平均離職率は、
新入社員の場合、半年間で5割といわれる。
ダグ・マクミロンの連続賃上げは、
離職率の面でも効果を発揮している。
ただし、ウォルマートは、
店舗閉鎖も断行している。
今年はサムズクラブを、
63店閉鎖する。
これはサムズ全体の9.5%に当たる。
サムズの営業利益率は2.9%と低い。
スーパーセンターは5.8%。
だから閉鎖の対象となって、
63店のうちの10店は、
配送セターに衣替えする。
もちろんフルフィルメントセンターと呼ぶ
ウォルマート・ドット・コムのセンターだ。
時代は変わる。
その時代の変化に、
超巨大なウォルマートが、
対応しようとしている。
この姿勢にはぜひとも、
学ばねばならない。
朝日新聞「折々のことば」
第990回。
大切なところに出す人間は
どういうふうに
選ぶかといいますと、
ものすごく疲れ果てたときに
笑顔のいいやつを
出せっていうんです。
(辻静雄『料理に「究極」なし』から)
「弟子を修業に出す時に、
精根尽き果てても
目だけはちゃんと相手見て
気持ちよく挨拶している者を選ぶ」
料理研究家の辻静雄さん。
この目が、
「本人が社会で受け入れられるか
受け入れられないかの
瀬戸際の防波堤になる」
ダグ・マクミロンの目を、
見てほしい。
〈結城義晴〉