日本チェーンストア協会会長交代と「アマゾンと小売りの未来」
日本チェーンストア協会会長が変わる。
現会長の清水信次さんから、
現会長代行の小濵裕正さんへ。
協会からはまだ、
正式に発表されていないが、
私のところにはもう昨年から、
その情報が入っていた。
今週金曜日に、
恒例の賀詞交歓会が開催される。
その場で、一応、
発表されるのだろうが、
正式決定は5月の通常総会になる。
日経新聞が今朝の朝刊で報道した。
清水信次さんは、
(株)ライフコーポレーション会長兼CEO。
ご存知、小売業協会会長をはじめ、
日本スーパーマーケット協会と、
新日本スーパーマーケット協会では、
名誉会長。
小濵裕正さんは(株)カスミ会長。
昨年3月まで、
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(株)会長だった。
日本最大のスーパーマーケット企業。
小濵さんが会長のカスミと、
マルエツ、マックスバリュ関東が統合し
共同持株会社が設立された。
小濵さんはその初代会長だった。
清水さんが91歳で、小濵さんは76歳。
とてもいい交代だと思う。
何より清水さんはご高齢。
そして小濵さんは実績もあるし、
業界きっての人格者でもある。
さて日経新聞オピニオン欄の「複眼」。
「アマゾンと小売りの未来」
編集委員の田中陽さんが、
アンカーとなってまとめた。
世界の3人の論客の意見。
「アマゾン・エフェクト」の分析。
「アマゾンの小売り支配は、
世界的な潮流なのか。
近未来に待ち受ける消費社会の姿は」
まず、良品計画会長の金井政明さん。
「小売業は栄枯盛衰、
新陳代謝の激しい産業だ」。
シアーズからウォルマートへ。
「小売りのライフサイクルは、
危うさをはらむ」
これは有名なマクネア教授の、
「小売りの輪仮説」に近い見解か。
だから、「アマゾンが、
未来永劫であるとは思わない」
それはわかる。
しかし、「アマゾンの
自由な発想を見るにつけ、
リアルな小売業は猛省すべきだ」
これもわかる。
「アマゾンは膨大なデータを分析して
新たな事業やサービスの開発に活かす。
たまたまビッグデータが
集まる小売業をやっていて、
小売りで儲ける優先順位が低い。
だから低価格販売も可能となる」
「アマゾンで十分な部分があるのは確かだ。
食品・日用品の著名なナショナルブランドは
商品の価値を誰もが知っているから、
安い価格に流れる」
これはコモディティグッズのこと。
「ただ、世の中がアマゾンで、
埋め尽くされることはない」
コモディティだけの世界には、
豊かさや多様性はない。
「良品計画はあくまで
実店舗を主体でやっていく」
自信満々。
「無印良品の
簡素で生活の素材としての商品と、
働く人を大切にしているからだ」
このあと、体験談。
「ネット通販に参入したのは2000年で
日本の小売業の中では早かったが、
期待したほどは売れなかった」
「『売らんかな根性』が出ていた」
正直に答えてくれた。
「現在は各店舗でのイベント案内など
地域に密着した情報を伝えていて、
これでネットでも売れるようになった」
これは大事な発言だ。
「ネット社会は、
つながっていると思われているが、
本当はそうではない」
「作り手、売り手、運び手の
役割が明確(だが)、
買い手と分断されている」
「情報の共有は乏しい」
「実店舗の小売業は、
そこをつなげる使命がある」
「アマゾンと同じ土俵で
闘ってもしょうがない」
金井さんは言う。
「デジタル革命と異なる世界で
やっていけるはずだ。
日本の小売業、商人には素養がある」
次は、ニコロ・ガランテさん。
タイのセントラル・リテールCEO。
東南アジアではまだ、
欧米や中国ほどECは普及していない。
しかしスマホは普及していて、
「EC時代への準備は整っている」
しかし彼の国では、
「既存の小売業が強く、
ECの必要性がそれほど高くない」
だから、まだ普及していない。
「欧米や中国でアマゾンやアリババが
20年かけてもたらした
小売業界の秩序の変化は、
東南アジアでは3~5年で起こるだろう」。
「既存の小売業にも
ECの世界を制するチャンスは十分にある。
カギとなるのは店舗とネットを融合する
『オムニチャネル』戦略だ」
タイ小売業協会の専務理事は、
チャチャイ・トングラタナハンさん。
博士号を修得したタイ小売業の理論家。
ニコロ・ガランテさんの見解には、
チャチャイさんの影響が表れている。
セントラルは昨年、
中国のEC2位JDドットコムと提携した。
「大きなECサイト上に組み込まれることは
EC時代を生き残るには有利だ」
「オムニチャネル戦略と
強力なECサイトがそろえば、
東南アジアでは既存の小売業が
店舗を持たないアマゾンを
上回ることも可能かもしれない」
最後はアメリカのデビッド・バサックさん。
アリックス・パートナーズ のディレクター。
アマゾンのビジネスモデルには、
「まだまだ拡大の余地がある」という。
アマゾンの現在のビジネスは、
ほとんどがB2Cだ。
アリババはB2Cはもちろん、
B2BもC2Cも幅広く展開している。
だからアマゾンは、
「ビジネスモデルやプラットフォームを
拡大する余地を持っている」
しかし、アマゾンは、
「価格や配達サービスなどで
高いハードルを設定してしまった」
だから「他社が同じサービスを提供し、
その上で利益を出すのはとても難しく、
多くの小売業者が苦しんでいる」
そのうえ、消費者は、
「全ての価格を比べられるようになった」
価格透明性である。
そのことで消費者が優位に立った。
逆に言えば、
「終わりのない価格競争の中にいる」
個々が重要なところだ。
「多くの伝統的な小売業者が
不動産や負債、在庫などの
重荷を抱えながら、今後この競争から
脱落していくことになるだろう」
「ただ価格がすべてではない。
小さくても機転が利く小売店は
店舗でも健闘している」
小さくても機転が利く小売業。
そしてファストファッションを例にとる。
「速いターンで商品を入れ替える点に
消費者は価値を見いだし、
お金を払っている」
これこそZARAの戦略だ。
「回転を速め、身軽でいることも
一つの戦略といえる」
アメリカの小売業は、
「アマゾンの脅威を認識するのに
長い時間がかかってしまった」
しかし、それでも、
「やっと生死がかかった、
緊急性の高い問題であることを認識できた」
「スマホという革新的な製品が登場し、
人々の消費行動は決定的に変わった」
「スマホでの買い物は楽しく簡単で、
自分向けに仕立てられた経験だ。
米国人が愛する『お買い得』を
簡単に見つけやすく、
もう後には戻れない」
もうあとに戻れない。
これが極めつけの言葉だ。
土井たか子流に言えば、
「やるっきゃない!」
最後に田中さんの分析。
「先進国の流通業は未来のために
過去の過剰店舗の整理が欠かせない」
「デジタル革命は
小売業の市場参入障壁を一層低くした。
メーカーも実店舗を飛び越えて
ネットを経由して消費者と結びつく」
「もはや小売業という
業界はなくなり、
異業種が小売りのルールを
変えようとしている」
鋭い分析だ。
やはりアメリカが一番、進んでいる。
だからコンベンショナルな小売業は、
業界も業態も淘汰される。
日本はまだまだ。
だから金井さんのように、
「デジタル革命と異なる世界で、
やっていけると自信を持つ」
それでも日本も急速に、
アメリカのようになっている。
決してガラパゴスではない。
タイはちょっと前の日本のようだ。
日本では「オムニチャネル」は、
もう、死語に近くなっているだろう。
米国の価格透明化現象。
だから終わりのない、
価格競争が続く。
この点に関しては、
最悪を覚悟して、
最善を尽くす。
これっきゃない!
〈結城義晴〉