日曜版【猫の目博物誌 その60】鶯(うぐいす)
猫の目で見る博物誌――。
立春を過ぎて、今日は建国記念の日。
そろそろウグイスの声が聞こえてくるころ。
1年を24分節するのが「二十四節気」。
それをさらに3つに分けると、
「七十二候」となる。
二十四節気が15日、
七十二候は5日が基礎単位。
2月9日から13日の5日間は、
「黄鶯睍睆」(うぐいすなく)。
そう、鶯が初めて鳴く季節。
「ホーホケキョ」。
その年の一番初めのウグイスの声は、
「初音」と書いて、「はつね」という。
ウグイスは、
スズメ目ウグイス科ウグイス属の鳥類。
学名はHorornis diphone。
漢字で「鶯」。
「春告鳥」と言われる。
〈via livedoor.blogimg.jpより〉
英語ではbush warbler。
藪でさえずる鳥の意味だ。
nightingaleと翻訳する場合もある。
こちらは「小夜鳴き鳥」
「ロミオとジュリエット」3幕5場。
もちろんウィリアム・シェイクスピア作。
ジュリエット:
もう行ってしまうの?
まだ夜も明けないのに。
ナイチンゲールなの、
ヒバリじゃないわ、
怖がっているあなたの耳を刺したのは、
夜になるとあそこのザクロの木で鳴くの。
ほんとよ、ナイチンゲールなの。
ロミオ:
ヒバリだ、朝を告げる使いだ。
ナイチンゲールじゃない。
この会話に出てくるのは鶯ではない。
小夜鳴き鳥。
ウグイスはほぼ日本全国に分布する留鳥。
「留鳥」は「りゅうちょう」で、
移動せず、1年中ほぼ一定の地域に住む鳥。
ただし寒冷地のウグイスは、
冬季に暖かい地域へ移動する。
平地から高山帯まで生息する。
今、一番、鶯の声を聴けるのは、
春先の山間地のゴルフ場。
しかし非常に警戒心が強いため、
「声はすれども姿は見えず」
歌川広重は、その鶯を何度も描いた。
体長は雄が16cm、雌が14cm。
ほぼスズメと同じ大きさ。
体色は雌雄同色。
背中がオリーブ褐色の鶯色、
腹は白色。
食性は雑食。
夏場には、
小型の昆虫、幼虫、クモ類などを、
捕えて食べる。
冬場には、
植物の種子や木の実などを食べる。
繁殖期は初夏。
雄が縄張りをつくって、
それを示すために鳴く。
「ホーホケキョ、ホーホケキョ、
ケキョケキョケキョ、ホーホケキョ」
1日に1000回も鳴くことがあるという。
巣は横穴式の壺形。
受精のあと、
雌は4~6個の卵を産み、
雛を育てる。
ウグイスとともに、
ホトトギスも、
鳴き鳥として著名だが、
こちらはカッコウ目カッコウ科。
ウグイスに托卵する習性をもつ。
「托卵」とは、卵の世話を、
他の個体に托する動物の習性。
ホトトギスはウグイスに托卵する。
そしてともに特徴的な美しい声で鳴く。
だからこんな歌が詠まれた。
ほととぎす
なくべき枝とみゆれども
またるるものは 鶯の声
〈藤原道綱〉
万葉集にも鶯の歌あり。
あらたまの年ゆきがへり
春立たば
まづ我が宿に鶯は鳴け
〈『万葉集』大伴家持〉
鶯のこゑ聞きそむるあしたより
待たるる物は桜なりけり
〈本居宣長〉
そして良寛さん。
鶯の 声を聞きつるあしたより
春の心になりにけるかも
みんな、鶯の声を聴きながら、
春や桜の到来を待った。
松尾芭蕉も一句。
鴬を魂に眠るか矯柳
(うぐいすをたまにねむるかたおやなぎ)
しなやかな柳の枝は眠っているようだ。
柳は春の鶯に自分が変化した夢でも
見ているのだろう。
ホーホケキョ、
ホーホケキョ。
ウグイスの声が聞こえると、
春がやってくるのでしょう。
それはあしたなのでしょうか。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)