日曜版【猫の目博物誌 その62】鰆(サワラ)
猫の目で見る博物誌――。
春の魚は、サワラ。
「魚」に「春」と書いて、「鰆」です。
サワラは、
スズキ目・サバ科に属する海水魚。
学名はScomberomorus niphonius。
サバの仲間だが、上品な味だ。
そして「出世魚」。
稚魚から成魚までの成長の段階で、
異なる名称を持つ魚。
サワラは大型の、細長くて平たい体形。
「狭い腹」だから「狭腹」と書いて、
「サワラ」と読む。
幼魚は「サゴシ」。
40~50㎝で、
「狭い腰」から「狭腰」ともかく。
50~60㎝を「ナギ」、
そして60㎝以上の成魚を、
「サワラ」と呼ぶ。
春の魚の代表のように見られているし、
俳句の季語でも春。
しかし、サワラは春に産卵し、
その産卵のために沿岸に近づく。
だから春に人間の目に留まりやすい。
そこで「春を告げる魚」として、
「鰆」となった。
その春から夏、秋にかけては、
海岸線に近い沿岸の、
海面に近い表層を群れで遊泳する。
この時期に成長する。
冬になると深場に潜る。
成長しない。
動物に多いが、
メスの方がオスよりも大型。
寿命もメスが8年ほど、
オスは6年くらい。
産卵期は春から初夏。
生後1年ほどで40~50cmほどに成長し、
以後は2歳で68cm、3歳で78cm、
4歳で84cmといった成長を見せる。
色は背側が青色、腹側が銀白色。
体側には黒っぽい斑点が列になって並ぶ。
口は大きくて、
鋭い歯をもつ。
食性は肉食で、
小魚を捕食する。
体内にはウキブクロがない。
エラも少ない。
身には水分が多いし、やわらかい。
魚は大抵、頭に近いほうがうまい。
しかしサワラは尾の側が美味。
上品な味わいで、
青魚と白身魚の長所を兼備している。
高タンパクなうえ、
DHA・EPA・ビタミン・カリウムも含む。
分布は東アジアの亜熱帯から温帯の海域。
北海道南部沿海から東シナ海あたりまで。
日本では焼き魚にして食べる。
西京味噌を使った西京焼きもうまい。
もちろん唐揚げもいい。
身が軟らかくて、
煮ると崩れやすい。
だから煮物には向かない。
春が旬の魚とイメージされているが、
本当に味がよいのは秋・冬である。
冬は深海に潜るから漁獲量が減るが、
脂が乗って、「寒鰆」として美味。
旬といふ声に惹かれて鰆買ふ
〈佐藤良二 『末黒野』より〉
旬というのは春から夏にかけてだろう。
鰆とは知らずに食べてをりにけり
〈『ホトトギス』より 稲畑汀子〉
この句の季節はわからない。
生きる事まだ飽きもせず鰆食う
〈貝田遊山『集』より〉
出世魚だからだろう、
こう言った諦念の句もある。
春を告げてくれる魚。
でも出世魚。
大きくなるにしたがって、
名前が変わります。
猫は、子猫から猫になるだけ。
それでも全然、問題はありません。
(『猫の目博物誌』〈未刊〉より by yuuki)