彦根カントリー「念願のラウンド」と「好きこそものの上手なれ」
今日は彦根カントリー倶楽部。
もう40年近く前になるだろうか。
㈱商業界販売革新編集部員だった私は、
当時の夏原平次郎㈱平和堂社長に会いに、
彦根を訪れた。
雑誌のインタビューだった。
当時、平和堂は地方の雄企業として、
アルプラザ1号店を出店したばかりだった。
夏原社長は恐い経営者という評判だった。
1時間半ほど興味深い話を聞いた。
恐いどころか信念に満ちた経営者だった。
創業のころのことから、
総合スーパーに挑戦したこと、
チェーンストア経営に乗り出したこと。
出店の際に何度も地主と折衝したこと。
さらにダイエーの中内功さんとの交流。
ニチリウの設立のこと。
そして将来の夢。
それらの話が終わってから夏原さんは、
社長室のデスクの後ろの窓を開けて、
遠くを指さした。
「あそこに見える緑のところが、
うちのゴルフ場です」
誇らしげだった。
今でもそのうれしそうな顔を覚えている。
夏原さんは2010年に、
91歳で故人となってしまった。
今日まで何度も何度も、
あの夏原さんのゴルフ場で、
プレーする機会はあった。
不思議なことにそれらは実現しなかった。
今日は初めて、
彦根カントリー倶楽部でラウンドする。
いくつかのホールから、
彦根の街を見下ろすことができる。
とくに国宝彦根城と、
その背景に広がる琵琶湖。
素晴らしい景色を望むことができる。
だが9月4日に西日本を襲った台風21号で、
コース内の木が50本近く倒壊した。
暴風に根こそぎなぎ倒された。
ずいぶん片づけられたが、
まだコースに残っているものがある。
残念ながらちょっと雨模様。
今日は平松正嗣さん(左)と福嶋繁さん。
平松さんは平和堂現社長、
福嶋さんは取締役店舗営業本部長で、
コーネル大学ジャパン「実行の3期生」。
実に楽しいラウンドだった。
ありがとうございました。
また、やりましょう。
スルーで18ホールを回って、
昼食をとってから、
すぐに新幹線で帰って来た。
富士山の姿も見えなかった。
それでもこの40年くらいのことを、
私は思い出していた。
「ほぼ日刊糸井新聞」
昨日の糸井重里の巻頭コラム。
「好きであるというのは、
いいことだとされてます」
「特に仕事については、
好きだから励める、
好きだから
しぶとく粘れるということで、
“好きこそものの上手なれ”と、
よく言われます」
「ぼくも、そうだろうなぁと
思っていました」
好きこそものの上手なれ、
反対に下手の横好きもある。
「ところが、上手であることは
だれもが認めているのに、
“好きじゃない”と
言い切る人がいました」
「もう知ってますよね、
そう、歌手の前川清さんです」
「歌はまったく
好きじゃないです、と。
歌いたくて歌ったことは、
ほとんどない、と」
「ごくふつうのファンが、
“聞かなきゃよかった”
と思ってしまうようなことを
真顔で言います」
前川清らしい。
「ただ、”これで食わせて
もらっているのだから”と続き、
“よかったなと思って
もらわなきゃいけないです”と、
結論はそこに行くのではあります」
「なんというネガティブ、
とも思うのです。
そして、ぼくはそういう彼の歌に
しびれてるわけです」
「おかしなものだなぁ、と思います。
じゃ、”好きこそ上手”じゃ
ないじゃないですか!」
そこで糸井さん、自戒する。
「ぼく自身も、文章を書くことが
好きじゃないんですよね。
書かなきゃならないから
書いているようなもので、
たのしいと思って書いていることは、
ほとんどないです」
「真剣に書いてはいるんです、
人が読んでくれるものだし。
だけど、うんうんいって書いて、
書き終えたよろこびや、
読んでもらえたうれしさはあっても、
書くことが好きかと言われたら、
そんなことはないです」
私の場合も、ちょっと似ている。
「書き終えた喜び、
読んでもらえたうれしさ」
それが動機であることは確かだ。
それに書くことは自己実現すること。
そこで糸井さん、
大好きなお鮨屋のご主人に訊いた。
「お鮨をにぎるのは好きですか」
その答え。
「好きだと思ってた期間は長かったですが、
いまは好きじゃあないですねぇ」
「ものすごく丁寧な仕事をするおいしい店」
糸井さんは、そう評価する。
「じゃ、生まれ変わったら
鮨屋にはならないですか?」
そしたら、そのご主人は、
前から考えていたというふうに、
「カウンターのこっちじゃなくて、
向こう側で、お鮨を
食べるのがいいですね」
と、にこりと笑った。
仕事は必ずしも、
“好きこそものの上手なれ”ではない。
むしろその方が少ないかもしれない。
不思議なもので、
“下手の横好き”のほうが楽しい。
私の場合、ゴルフがそれだ。
全然、プロのスウィングに近づけない。
だがそうなりたいと励むことが楽しい。
“好きこそものの上手なれ”のほうは、
嫌いではなくても、楽しさは少ない。
前川清や鮨屋の主人は、
上手だが楽しさを超越している。
仕事はそうでなければいけない。
売れた楽しさ。
喜んでもらった喜び。
買ってもらえたうれしさ。
それが仕事の原動力である。
〈結城義晴〉