[日曜の考察]人生100年時代の生活防衛意識と「どう生きたか」
淀井敏夫作「放つ」
1969年(昭和44年)の作品。
文化勲章受章の彫刻家。
1911年2月15日生まれで、
2005年2月14日没。
94歳まで生きた長寿のアーティスト。
水曜日の3月13日に、
大阪に泊まったとき、
シェラトン都ホテルの、
1階ロビーに展示されていた。
「人生100年時代の罪」
その水曜日13日の日経新聞。
経済コラムが「大機小機」
「人生100年時代」という考え方は、
リンダ・グラットンと、
アンドリュー・スコットのアイデア。
ともにロンドン・ビジネススクール教授。
著書は『LIFE SHIFT』
サブタイトルが「100年時代の人生戦略」
日本版の出版は2016年10月。
私も何度か引用したし、
影響を受けた。
「人が長く生きるようになれば、
職業生活に関する考え方も
変わらざるをえない」
「人生が短かった時代は、
『教育→仕事→引退』という
古い3ステージの生き方で問題なかった」
「しかし寿命が延びれば、
二番目の『仕事』のステージが長くなる。
引退年齢が70~80歳になり、
長い間働くようになるのである」
著者たちは、
「働くこと」と「仕事」に関して、
人生の「新しいステージ」、
つまり「マルチステージ」が必要だと説く。
そのとき、「エイジ」と「ステージ」は、
かならずしもイコールではなくなる。
しかしこれを受けて2017年9月、
安倍晋三政権が立ち上げたのが、
「人生100年時代構想推進室」
首相は国民に呼びかけた。
「新たなことにチャレンジしようという
意欲のある人たちが学び直し、
新たな人生を始めることができる」
「そういう社会にすることで、
日本は活力ある社会を維持し、
発展することが可能になる」
考え方はいい。
「人類の歴史は、
悪意とも言える
冷徹さで実行した場合の成功例と、
善意あふれる動機で
はじめられたことの失敗例で、
おおかた埋まっている」
(塩野七生『ローマ人の物語Ⅺ 終わりの始まり』)
「人生100年時代構想推進室」には、
善意あふれる動機の臭いがプンプンする。
世界銀行の調査。
2016年時点で日本の平均寿命は84歳、
香港に次ぐ世界第2位。
日経のコラム。
「平均寿命は延び続けており、
人生100年も夢ではない」
「健康で長生きして、
人生を通じて新たなことに挑戦したり、
学んだりできることが素晴らしいのは
言うまでもない」
しかしコラムニストの問題提起。
「急速に普及した”人生100年時代”は
日本経済や社会に
負の影響ももたらしてはいないか」
「定年後40年?
足りるかな、お金」
これはテレビCMの文句。
俳優の佐々木蔵之介がつぶやく。
アパート経営のシノケンが、
長い老後に備えた資産運用を勧める。
コラムニスト。
「人生が長くなると
やりたいことができる時間が増える半面、
長い老後をどう暮らすのか
という不安が生じる」
「”人生100年”という言葉は、
国民にその現実を突きつけた」
同感。
米コンサルティング会社の調査。
日本の年金制度への評価は、
世界の34カ国・地域で29位だった。
「制度の持続性への評価が低い」
さらに総務省の家計調査。
2018年の平均貯蓄率は26.6%。
2000年以降で最高。
「収入は増えても、将来への不安から
消費を抑える傾向が強まっているのだ」
納得しつつ、恐ろしさを感じる。
「安倍政権下では、
高齢者や女性の労働市場参加で
雇用者は増え、雇用者報酬は増えたが、
なかなか消費は盛り上がらない」
「その理由の一つには、
人生100年時代に備えた
人々の生活防衛もあるのではないか」
100年時代の生活防衛マインド。
大いにあると思う。
昨2018年の秋以降、
さらに2019年の年が明けてから、
消費に鈍痛のような兆候が現れた。
「人間五十年、
下天のうちをくらぶれば……」
織田信長が好んだ「敦盛」の一節。
「敦盛」は幸若舞という踊り芸の演目で、
平家の平敦盛と源氏の熊谷直実の物語。
一之谷の合戦場が舞台だった。
この敦盛の「人間五十年」を、
信長は好んで謡い、舞った。
そして48歳で死んだ。
コラムニスト。
「人生100年時代であれば、
あれだけ信長は
天下統一を急いだだろうか」
「人の生きる長さは、
その行動にも大きな影響を
及ぼすのではないだろうか」
同感だ。
10月の消費増税、
3月から始まった商品値上げ。
その上に100年時代の生活防衛意識。
5月から新しい象徴天皇と新しい元号。
新しい時代を迎えるほどに、
人生100年時代を意識させられる。
そして生活防衛の意識は高まる。
危うい国際政治情勢や、
国内の原発問題など。
来年2020年には、
東京オリンピックが開催されるし、
2025年には大阪万博も開かれる。
しかし、不安感はぬぐえない。
人生100年時代の生活防衛。
商売にとっても重大な問題だ。
「どれだけ生きたかではなく、
どう生きたかが重要だ」
アブラハム・リンカーン。
人生100年時代に生きるからこそ、
どう生きたかを考えねばならない。
〈結城義晴〉