凡事徹底・有事活躍
私たち㈱商業界には全国に商業界同友会という組織がある。毎月・毎週のように集まって、互いに研鑚し、勉強する商業人の集まりである。現在、北海道から沖縄まで、登録で約150、活発な活動中の同友会は90。すべての同友会にリーダーとしての会長が存在し、例会と呼ばれる月例の勉強会が開催されている。㈱商業界はこの全国の同友会のサポートをする機能という側面を有している。
彼ら同友の合言葉は「友情」。一生の友となる仲間の存在が、いわゆる「商業界精神」を高めつづけることに大きな勇気をもたらす。
そんな各地の同友会は、地域ごとに連合同友会を形成している。そして地域ごとの連合同友会が主体となって、毎秋、7カ所で「商業界地方ゼミナール」が開催される。毎年2月に行われてきた「商業界ゼミナール」の地方版という趣旨の大きなセミナーである<商業界ゼミナールは地方ゼミナールに対して「本ゼミ」と呼ばれる。かつては開催地の名をとって「箱根ゼミ」とも呼ばれた>。
今年は既に、9月2日に福井で北陸ゼミナール(720人参加)、9月7・8日山形・東根で東北ゼミナール(360人参加)、そして13・14日に佐賀・嬉野で九州ゼミナール(680名参加)が開催された。このあと、10月に入って、6日に山梨で関東山静ゼミナール、12日に京都で近畿ゼミナール、13・14日に三重・鈴鹿で中部ゼミナール、そして大トリは11月15・16日鳥取で中四国ゼミナールとして展開される。
私は㈱商業界の社長として、これら地方ゼミナールの応援団長のような役回りを演じる。倉本初夫主幹とともに7カ所すべてに参加し、基調や訣別の講演、開講式や閉講式のスピーチ、懇親会での挨拶などをする。同時に若い同友を励まし、悩みの相談に乗る。
商業界の同友会活動は、明らかにひとつの運動体である。その運動体が選んでいく方向を模索するとき、ともに悩みながら指針を示すのが、私たちの仕事である。
第40回九州ゼミナールの成果
さて今年の地方ゼミナールの中で、第40回を誇る九州佐賀ゼミナールは、昨年9月に発足したばかりの佐賀同友会(山口健次郎会長・㈱サロンモード社長)が主管した。なぜか、九州の地で、これまで佐賀には同友会が誕生しなかったのだが、この生まれたてのグループが、40年の空白を埋めるような快挙を成し遂げた。それは参加したメンバー全員の心が一体となって終了した閉講式に象徴された。
商業界のゼミナールは、どれをとっても、通常の経営研究会や経営セミナーとは大きく異なっている。
それはある種の精神的な昇華現象が、参加者の中に湧き上がり、学んだことを「実行しよう」という強い意思の表明とともに、次につながっていく点である。
どんな地方ゼミナールにも、そして本ゼミナールにも、この昇華現象が見られるのだが、今回の九州ゼミナールは、特に著しい波動のようなものを発した。
その理由はゼミナールの企画・運営が素晴らしかったとともに、「凡事を徹底する」という考え方が、すべての講座に貫かれ、それが「有事に活きる」という結論に至ったからである。九州ゼミナールの講座と講師を順番にご紹介しよう。
①佐賀県知事・古川康「新地方の時代の改革」
②商業界主幹・倉本初夫「21世紀商業への出発」
③アシックス会長・鬼塚喜八郎「転んだら起きればいい」
④商業界社長・結城義晴、イズミ執行役員・脇坂徳男、イオン九州SC事業部長・宅島祥夫「激変する流通業界とイズミ、イオンの九州戦略」
⑤イエローハット相談役・鍵山秀三郎「心あるところに宝あり」
⑥熊本県公立菊池養生園名誉園長・竹熊宣孝「もう!そろそろ命一番」
⑦CASジャパンCEO・小林敬「集客の虎 勝ち残りの秘訣」
⑧南蔵院第二十三世住職・林覚乗「心ゆたかに生きる」
⑨ニチイ創業者夫人・西端春枝「縁により縁に生きる」
⑩熊本県立第一高校校長・大畑誠也「21世紀の人づくり」
⑪長崎県立国見高校校長・小嶺忠敏「指導力」
⑫日本旅行西日本営業部課長・平田進也「なにわのカリスマ添乗員、サービスの極意」
⑬志ネットワーク代表・上甲晃「人間松下幸之助翁に学ぶ」
⑭結城義晴「第3の場所になろう」
現場を重視しつつ、凡事を徹底する
14講座15人の講師全員が強調したことがある。それは、「現場の重要さ」と「当たり前のことの徹底」である。
政治家である知事、教育者、宗教家、経営者・経営幹部、指導家、そしてジャーナリスト。全員が全員、「現場重視」「当たり前の、凡事の徹底」を訴え、そのための忍耐力と使命感の必要性を唱えたのである。
とりわけイエローハット創業者で、「日本を美しくする会」の主催者として名高い鍵山さんは、多くの人々を魅了した<同社は現在、497店、870億円のカー用品を扱うチェーンストア。「日本を美しくする会」は平成5年11月、鍵山さんの掃除哲学に学ぶ有志の集まりとして結成され、平成17年3月8日現在、日本国内98カ所、海外4カ所で掃除に学ぶ会が開催されている。
「大きな努力で小さな成果に耐えることが必要です。小さな努力で大きな成果を上げようとする人は、他人の努力を奪っているのです。最後には何にもならないことに努力する。だから人間として成長する。努力は無駄にはならない。必ず報われるようにできている。ただし、自分が望んだようには報われないけれど」
鍵山さんはさらに続ける。
「幸せは自由の中に存在するのではない。甘んじて受ける義務の中にこそ幸せは存在する」
鍵山さんは、信条の「凡事徹底」を切々と唱えて壇を降りた。
現代の商業にキーンと貫かれるもの
熊本県内のいくつもの荒れた高校を蘇えらせた大畑校長は、「悪戦苦闘能力」をいかに生み出したかを、教育現場からの成果として報告した。
まず「大きな声で挨拶することを徹底させる」。
次に「朝飯を食べることを徹底させる」(⇒どうしても食べてこない生徒には、何と学校で朝食を用意した)。
「家の手伝いをすることを徹底させる」。
「思いをもたせる。それを想いへ、そして念いへと高めさせる」。
そして「1日1回必ず図書館に顔を出させ、本を読ませる」。
この5つの改革を一つずつ、繰り返し繰り返し生徒に体験させる中から、次々に高校が甦っていった。
大畑校長は同じく最後に「凡事徹底」と大きく書かれた紙を高々と掲げて、ユーモアと感動に満ちた講義を終了させた。
訣別講演で私は、イトーヨーカ堂グループの「基本の徹底と変化への対応」を引きながら、「小さく始め、ゆっくり進め、常に改善せよ」と訴えた。「小さく、狭く、濃く、深く」のディープ&ナロウを提唱した。「千客万来の客数主義」を主張した。それらを実行することの大切さを強調した。
最後に私は、新潟県中越地震と阪神大震災の時の文章を読んだ―――。
小さな店も、大きな企業も、
皆が、この時こそと、日ごろの仕事の腕を発揮した。
いつもよりも素早く、力強く、黙々と。
店は客のために、
是が非にも開けておかねばならない。
有事の時にこそ、頭を柔らかくし、
冷静に活躍せねばならない。
人びとが立ちあがる礎にならねばならない。
商業人はどんな時にも、
明日を見つめていなければならない―――
私は「凡事徹底」と「有事活躍」を訴えかけたかった。それが、この第40回九州ゼミナールと現在の商業をキーンと貫く主題だったからである。
<『販売革新』10月号 Publisher’s Voiceより>
株式会社商業界社長 結城義晴