満開の「ローカルチェーン天国」の森の下
花見の季節です。
もう30数年前になりますが、
坂口安吾に溺れておりました。
以来、毎年、
この季節になると、
『桜の森の満開の下』を
思い浮かべます。
今、ちくま文庫から
『英語で読む桜の森の満開の下』など
発刊されていることを知ると、
不思議な思いが過ぎりますが、
その瞬間、少しだけ、
酔ったような気分になります。
私は無頼派を気取っていたのでした。
大阪のニッショーストアが、
阪急百貨店に売却されました。
1980年代後半から1990年代にかけて、
ニッショーは輝いていました。
クリエーティブなマーチャンダイジング、
イノベーティブな経営戦略、
そしてブリリアントな売場。
特筆すべきものを
たくさん持ち合わせた企業でした。
私も、毎月のように取材に訪れました。
残念ながらそうした革新性を
内側から支えていた井上靖之さんが、
1995年暮れ、急逝され、
さらにこの企業を事実上創業し、
成長させてきた堀内彦仁さんが、
お体を悪くされてから、
ニッショーからはその先進性が
少しずつ薄れてゆきました。
もちろん現在も、ニッショーストアは
優れたスーパーマーケットであることに
変わりありません。
しかし、経営革新を考えるとき、
リーダーの存在の重さを、
つくづくと思い知らされるのです。
私が、最近、いつも、
強調していることがあります。
それは日本の小売業は、
「ローカルチェーン天国」で
あり過ぎた、という指摘です。
かといってナショナルチェーンとして
立派な企業はまだない。
あるいは全国チェーンは
コンビニや専門店に限られている。
ローカルチェーン天国こそ、
人物に負った業界であった証拠です。
仕組みや組織の強みよりも、
一個人の力のほうが、優っていた
その力関係がどうやら変わり始めた。
ローカルチェーン天国の崩壊は、
まずリージョナルチェーンの勢いをつくり出す。
現状が、それです。
淘汰の中で統合が進むからです。
もちろん地域的な特性にもよりますが、
やがて顧客に強く支持されたローカルチェーンは、
再び、輝きを示す。
インディペンデントといわれる支店経営の店は、
さらに個性を発揮し始める。
私はそう、期待しています。
あのアメリカを見ても、
素晴らしいローカルチェーンや
インディペンデントが、
数多く躍動しているからです。
そしてナショナルチェーンを
視野に入れたリージョナルチェーンは、
いわば日本の道州制レベルの「範囲の経済」の中で、
強さを顧客に誇示し始める。
顧客たちは両者、もしくは三者の競争を楽しみつつ、
クールに店を選択する。
満開のローカルチェーン天国の森の、
地面の下に鬼がいる。
満開は今年が最後となるのでしょうか。
いや、満開は昨年、
もしかしたら一昨年だったのではないか。
確かに、もう桜は散り始めているからです。
(株)商業界社長 結城義晴