「三越伊勢丹企業統合」にクリティカルマスはない!
結城義晴の「百貨店の現代化論」
「三越伊勢丹ホールディングス」と仮称のついた企業統合。
単純に、両社の年商を足し算すると、
1兆5800億円、33店舗、日本最大の百貨店グループとなります。
まだ誕生していないグループの、推定順位ですが、
第2位が、J・フロントリテイリング。26店舗。
⇒ここも今年9月に、大丸と松坂屋ホールディングスが統合予定。
第3位が高島屋。20店舗。
⇒こちらは今のところ、単独行動。
第4位がミレニアムリテイリング。28店舗。
⇒セブン&アイホールディングス傘下に入った、西武百貨店とそごうの連合体。
最新の商業統計による日本の百貨店の年間総販売額は、8兆0212億円。
これは5年前の平成14年調査ですから、
現在ではもう1兆円ばかり減っていると推測できます。
すると三越伊勢丹は、
日本の百貨店の20%を越えるシェアを有することになります。
これをもって、「クリティカルマス」といえるのか。
それが、今日の命題。
日本で「百貨店」。
英語で「デパートメントストア」。
この業態の起源は、
1852年、アリステッド・プシコー「ボン・マルシェ」にあるといわれています。
フランス・パリに生まれたマザガン・ド・ヌヴォテという革新的な業態でした。
アメリカでは、1876年、ジョン・ワナメーカーが、
フィラデルフィアにデパートメントストアを開店しました。
日本では、1904年の「三越呉服店」が、百貨店の起源といわれます。
何が言いたいのか。
百貨店は、世界的には150年以上、
日本でも100年を超える古い業態である、ということです。
だから、当然のこととして、淘汰が進む。
アメリカでは、淘汰がもっともっと激しく進んでいて、
シンシナティに本部を置く「フェデレーテッド」1社に統合された観すらあります。
かつてのメイシーもメイも、
マーシャルフィールドもブルーミングデールも、
ロビンソンもブロードウェイも、
みんなフェデレーテッドです。
全米小売業ランキング13位。
年商269億7000万ドル(3兆2364億円)ですが、
何と、1360店の店舗を展開するチェーストアなのです。
名前の通った企業は、他には、39位のノードストローム、100位のサックスくらい。
23位コールズや41位ディラードなど、
新興のまったく新しいタイプの百貨店はあるけれど。
日本の百貨店が、アメリカのようになるとは言いません。
しかし「4強+H2Oの阪急・阪神に収斂される」
などという予測は、本当に目先しか見ていないのだと思います。
私は、ずっと、こう言っています。
「寡占」から「複占」へ。
寡占は、数社によって、同一のマーケットの大半が占有されること。
複占は、2社によって、そのマーケットの大半が占有せされること。
この「複占」への過程で、最初に17%のシェアを突破することを、
「クリティカルマス」と言います。
では、三越伊勢丹は、日本の百貨店のクリティカルマスを突破したのか。
残念ながら、これは、論証できません。
私は、今のところ、
「クリティカルマス」は「コモディティグッズ」の領域で発生しやすい現象、
と考えています。
本来の百貨店のマーチャンダイジングやサービスは、
誰が見ても、「ノンコモディティ」の領域にあります。
つまり、「クリティカルマス」という、
量の領域のロジックでは説明できないのが百貨店なのです。
これが、家電量販店のエディオンとビックカメラならば、
ジャストミートで「クリティカルマス」といえます。
しかしこの事例は、両社の意思一致が図れず、
頓挫してしまいました。
したがって、今回の三越伊勢丹ホールディングスは、
何を、目指すか。
第1に、M&Aや企業買収・合併の本来の目的は、人材の大量採用です。
とりわけて、小売業の場合には、
さらに2007年から2008年にかけては、
優秀な人材を大量に抱えることが、
企業力そのものになります。
企業力とは、人間力だからです。
三越と伊勢丹のその意味で、単純に足し算すると、
従業員数が約1万8000人となり、
日本の百貨店業界トップとなります。
この人材を、融和させ、プラスアルファを生み出すパワーとなすことが出来るか。
ここにかかっています。
持ち株会社の名前は、「三越伊勢丹ホールディングス」はよくない。
「伊勢丹三越ホールディングス」も同様。
何か、人心が、融和されるようなネーミングが必需です。
「ナントカ・リテイリング」はもうやめてほしい。
各店の店名は、それぞれ「三越」と「伊勢丹」でよいでしょうが。
持ち株会社による企業統合は第2に、
資金力、資本力の安定をもたらします。
第3のメリットは、システムの統合と管理部門のコスト削減です。
これも当然のこと。
ただし、両社の客層が異なるから補完関係になって、メリットが出る、
というのは嘘です。
マーチャンダイジング上も、補完関係は成立しません。
伊勢丹には伊勢丹のカスタマーが存在します。
三越にも三越のお客様があります。
両者がカバーしあったら、両社の顧客は喜ぶかといえば、
逆です。
がっかりします。
私は、両社の優秀な人材が、
調査や討論を重ねて、
潤沢な資金力と信用を元に、
まったく新しいビジネスモデルを創り出すことに期待をかけます。
100年以上も続いた百貨店を自己否定し、
新しい業態やフォーマットを創造する。
そのための企業統合なのです。
だから、異質な歴史と企業風土を持つ者同士の統合に、
意味が出てくるのです。
それでも、企業統合や合併は、
完全な融合のために、最低10年を要するでしょう。
これだけは、確かなことです。
生き残りのための統合では、
たとえ「ノンコモディティ」領域に
「クリティカルマス」が適用されるとしても、
マーケットは永きの存在を許さないでしょうから。
ここでも『ゴールデンルール』が必要とされるに違いありません。
長文のご愛読、感謝。
<㈱商業界社長 結城義晴>
3 件のコメント
Posted by 神戸 ミズチ at 2007年08月21日 10:37
先だっては、本当にお忙しい間を縫ってご来福をいただきましたこと、感謝に耐えません。またこのたびはご本までお送りいただきまして重ねての感謝!です。
ブログを拝見しました。まさに『ご慧眼恐れ入る』の分析と論旨の展開。物事に対する結城さんの真摯な取り組みが推察できる素敵な内容です。
残暑というよりいまだに暑中の感ある九州ですが江戸表はいかがでしょう。
末尾になりましたが、異常な酷暑のこの晩夏、くれぐれもご自愛ください。合掌。
ハローデイ 神戸 ミズチ
Posted by RBS 阿部 at 2007年08月23日 12:46
結城先生
私どもにとって三越・伊勢丹の統合は身内の話と言ってよいほど、身近で影響の大きな一件です。
大丸・松坂屋に続き、業界では大きな再編の波がきています。でも、誰のための再編でしょうか。呉服店だった頃からの長期にわたるお得意様とのお付き合い、お客様のロイヤルティまでもが「再編」されては本末転倒です。企業サイドの視点のみで統合がなされるのであれば危険ですね。百貨店はお客様あっての商売なのですから。
先生のおっしゃるように両者が融合し、全く新しいビジネスモデルを構築できるかが問題でしょう。はたして、企業風土の全く違う両者がうまく融合できるのか、ちょっと心配です。
Posted by 結城義晴 at 2007年08月24日 00:46
昨日、統合が発表されました。
「三越伊勢丹ホールディングス」
残念。
私の言うこと、聞いてくれなかった。
『岡田卓也の十章』に出てくるのですが、
何度も合併を経験してきた岡田さんの合併の急所、第1が社名。
元の会社の名前を重ねるやり方があるが、あれは駄目。
どちらを上にしても、社内の融和は図りにくい。
合併において、企業の発想は最後に出てくるべき。
少なくともコメントとしては。
第1は阿部さんの言うように、顧客。
いつも顧客のために、何かをすること。
カスタマーのためにならない金は一切使わない、という企業もあるくらいです。