パラドックス「朝令暮改の法則」
[結城義晴のBlog 毎日更新宣言]をしたら、
お蔭様で、アクセス件数とともに書き込みが増えてきました。
感謝します。
書き込み、そしてそれへの返答。
読んでみてください。
田坂広志著『これから何が起こるのか』(PHP研究所)
尊敬する中央化学㈱の川勝利一さんから贈っていただいて、
同感、同感、と声を上げながら、読んだ本。
目から鱗。
「ある共通のテーマで多数の人が集まったコミュニティに問題を投げかけ、
そのコミュニティに集う人々の知恵を集めて解決策を見出す方法を
『コミュニティ・ソリューション』と呼ぶこともあります」
私は、このブログを、
やがて「コミュニティ・ソリューション」の苗床にしていきたい。
そう、考えています。
まだ、[毎日更新宣言]を始めたばかりですが。
だから、書き込み、問題提起、問題解決の提案。
何でも受けます。
真剣勝負で。
よろしく。
さて、今日は。
優れた経営者の「朝令暮改の法則」。
写真は、
昨8月23日、
千葉・舞浜のホテルオークラ東京ベイ。
パチンコホール「ダイナム」佐藤洋治会長と私。
ダイナムは、287店、年商1兆1000億円の全国チェーン。
佐藤さんも良い意味での「朝令暮改」の経営者のひとりです。
「昨日まで言ってたことと違うじゃないか!」
それどころか、
「昨日と反対じゃないか!」
思わず口走りたくなる。
そんなトップマネジメントを、私は長年、見てきました。
しかし、優れた経営者ほど、
ギャップの激しい「朝令暮改」をするものです。
手のひらを返すほどの「方針転換」をするものです。
それが優れた経営感覚なのです。
鋭い時代感覚なのです。
「朝令暮改」が出来なくなった経営者こそ、ご退場願わねばならない。
こんなことすら考える私です。
「朝令暮改」とは、朝に政令を下して夕方それを改め変えること(『広辞苑』)。
すなわち、命令や方針がすぐに変更されて当てにならないことを言います。
この「朝令暮改」という言葉をあえて、逆説的に良い意味に使ったのが、
セブン&アイホールディングス会長の鈴木敏文さんです。
私が用いている「朝令暮改」もそんな良い意味のものです。
ただし、良い意味での「朝令暮改」にも、法則があると私は思う。
①経営理念に関する「朝令暮改」であってはならない。
②経営戦略レベル、戦術レベルの「朝令暮改」であること。
③したがって、頻繁過ぎる「朝令暮改」ではいけない。
④信念に基づいた「朝令暮改」であること。
⑤最後には、部下や組織がついてくる「朝令暮改」であること。
どんなに優れた経営者でも、間違うことはある。
時代や、市場が、大きく転換してしまうこともある。
したがって、改めるべきことは、間髪をいれずに、改変する。
ただし「経営理念」はそもそも朝、定めて、夕に、変える、ではいけない。
そんな経営理念は掲げることすら許されない。
「経営戦略」は一言で言えば、ビジネスにおける乗り物です。
だから、10数年から数年のうちに見直されねばならない。
「戦術」は週次での改善改革が必要とされる。
そのほか、組織・人事、財務・経理、営業・商品、
オペレーション、プロモーションなど、
さまざまな経営項目が存在しますが、
それらの方針や政策が頻繁に変更されることは決して好ましいことではない。
しかし、トップマネジメントにだけ許される特権があります。
企業の生死をかけて、意思決定する「朝令暮改」です。
正しきに対して、誠実であること。
迅速であること。
自らの非を認めるに、率直であること。
これが経営上、不可欠の「朝令暮改」の中身なのです。
サム・ウォルトンの朝令暮改
世界ナンバー1小売業の道を突っ走るウォルマートの歴史は、
1945年、サム・ウォルトンが、
「ベンフランクリン」というバラエティストアのフランチャイズチェーンに、
加盟するところからスタートします。
このときの店名は「ウォルトンズ・ファイブ&ダイムストア」。
すなわち「ウォルトンの5セント10セントの店」といった名前でした。
その後、1962年にディスカウントストアの「ウォルマート」に、
歴史的経営戦略の転換を決行。
さらに20年後の1982年にサムは、
メンバーシップホールセールクラブの「サムズ・クラブ」を始めます。
会員制でメーカー直接搬入の大容量商品を販売するこの不思議な商売が、
ウォルマ―トの収益を支える第2のフォーマットになっていきます。
バラエティストアは1976年に全店閉鎖、
1990年にはサムズ・クラブが第2のフォーマットの地位を確保します。
一方、ディスカウントストアの「ウォルマート」は20世紀の間、
同社の基幹フォーマットとして、
全米ナンバー1、世界ナンバー1のポジションを、
しっかりと掴み取ることに貢献してきました。
この間のサム・ウォルトンの意思決定は、見事なものです。
しかしサムも1987年、ミスを犯します。
12月、テキサス州ダラス。
フランス・カルフール型ハイパーマーケット
「ハイパーマートUSA」(1フロア2万)への挑戦が、
それです。
このフォーマットはすぐに頓挫。
しかしサムは、「朝令暮改」。
翌1988年3月、ミズーリ州ワシントンに、
「スーパーセンター」第1号店をオープンさせます。
その結果、1フロア1万の衣食住フルライン構成のこのフォーマットが、
1990年代に完成され、2007年の今も2000店を超えて、
ウォルマートを支えているのです。
第3の業態として、
十分な研究を積み重ねたはずのハイパーマーケットを、
3カ月後にはすぐにスーパーセンターに切り替える。
まさに朝令暮改。
サム・ウォルトンはこのあと、デビット・グラスにCEOの座を譲ります。
トップマネジメントとして最後の意思決定だったのかもしれません。
振り返ってみると、ウォルマートのディスカウントストアは、
1996年の1月末日に1995店をもってピークを迎えます。
まさに2000店の大台を目前に控えた時点で、
最高店舗数を数えたのですが、
このときサムはもうこの世の人ではありませんでした。
そして、残された経営陣には、
サムの最後の「朝令暮改」スーパーセンターが、
用意されていたのです。
しかし現在、そのスーパーセンターも全米に2000店を超え、
飽和を目前にしているのです。
このときのために、
1998年に始めたのが第4のフォーマット「ネイバーフッドマーケット」。
しかし、このスーパーマーケットもいまだ100店強。
劇的な「朝令暮改」も、急速な店舗拡大も見せないまま、
国際事業へ期待をかけているのが、
現在の第3代CEOリー・スコットの時代なのです。
勇気ある意思決定
無責任極まりないマスコミをはじめとする外部には、理解できない、
勇気ある孤独なトップマネジメントだけが、共有する感覚。
「朝令暮改」。
鈴木敏文さんやファーストリテイリングの柳井正さんに、
ときに見られる意思決定。
㈱商業界代表取締役社長の私にも、
2007年8月下旬の今、最後の勇気が求められている。
<「これから九州男児の肝っ玉をご覧に入れよう」の結城義晴>
0 件のコメント
Posted by 種本祐子 at 2007年08月25日 00:14
結城先生、頑張っていますね。
とても元気のでる文章でした!
私もそんなトップマネージメントの一人になりたいと心底思いました。これから楽しみに毎日拝読させていただきます。
Posted by 結城義晴 at 2007年08月25日 00:46
様々なトップマネジメントのタイプがあります。
様々あって良いと思います。
その差異性の豊富さが、
商業の現代化を証明するのだと思います。
ただし、良い経営には共通項があります。
「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」です。
良い経営の共通項のひとつは、
「不思議の負け」をしない経営のことです。
だから「朝令暮改の法則」は、
水際で凌ぐ「リスクマネジメント」の経営感覚なのかもしれません。
崖っぷちで耐える、水際で凌ぐ。
これこそ孤独なトップマネジメントの、組織に対する責任なのでしょう。
Posted by 結城義晴 at 2007年08月25日 11:44
【お詫びと訂正】
写真キャプションの「ダイナム」佐藤会長のお名前、間違っておりました。「佐藤洋治」さんです。訂正いたしました。心よりお詫び申し上げます。
佐藤さんは現在、純粋持株会社「ダイナムホールディングス」(資本金50億円)の代表取締役、NPO法人ワン・アジアクラブ理事長などを歴任されています。