イギリス・テスコスタディ①「シェア30%超のクリティカル・マス」
イギリス第1位の小売業は、
スーパーマーケットである。
総合大型セルフサービス店のハイパーマーケットではないし、
もちろん百貨店でもない。
日本のイオン。
アメリカのウォルマート。
フランスのカルフール。
これらはみな総合店を主体に展開して、
ナンバー1の座を占めているが、
そういった企業ではない。
スーパーマーケットのテスコである。
英国内に1988店、11カ国に1275店。
年間売上高466億ポンド(10兆7000億円)。
英国内のスーパーマーケットの総売上高の、
なんと30.47%の占拠率。
(テイラー・ネルソン・ソフレス調べ)
イギリス第2位のスーパーマーケットがアズダで、
16.6%のシェア。
ウォルマート傘下。
第3位は、老舗のセインズベリーで15.74%。
この3社で、62.88%を占めてしまう。
イギリスは、スーパーマーケット王国なのだ。
テスコは、世界小売業ランキングでは、
ウォルマート、
カルフール、メトロについで、
第4位。
私は、単純に、日本の企業が、
このあたりに顔を出してもいいと思っている。
国際的なチェーンストアというからには、
日本くらいの消費大国のナンバー1企業が、
最低でも5番手くらいにランクされることは、
むしろ当たり前だろう。
そのテスコのマイク・ベイフォード氏の講演会があった。
オペレーション・ディベロップメント・マネジャー。
専門は店舗オペレーションで、
テスコが実施している150のプロジェクトの、
オペレーション改革の責任者である。
「テラオカニューバランスフェア東京」の記念講演で来日し、
貴重な話を聞かせてくれた。
ニューバランスフェアは、寺岡精工が全国で開催しているが、
私はもう20年以上も、このフェアで講演している。
マイクの講演が午前中。
私が午後。
だから10時30分からマイクの講演を聴き、
昼食時にインタビューし、
13時から私の講演というスケジュールとなってしまって、
昼食抜きの講演。
それでいて、私のテーマは、
「食育とオーガニックMDの謎を解く」
矛盾している。
マイクの話は、私には、極めて興味深かった。
テスコは今、4つの経営戦略をとっている。
第1が、イギリスでのビジネスを強力な核とすること。
足場を固めるということだ。
私は「クリティカル・マス論」を標榜しているが、
そのポイントは一般に、17%といわれている。
テスコの30%強は、明らかにクリティカル・マスを越えている。
第2位のアズダが今一歩。
しかしすぐに超えるだろう。
そして、かつてトップの座にあったセインズベリーは、
クリティカル・マスを下回ってから、
急激に業績がダウンして、
ウォルマートに買収されたアズダに、
一気に抜き去られてしまった。
だからテスコが、国内のビジネスをコアとするということは、
クリティカル・マスのご利益をさらに高めようという基本戦略を意味する。
そう思いながら、マイクの話を聞いていた。
すると、テスコの経営戦略第2、第3、第4は、
思ったとおりであった。
私は、膝をたたいた。
その第2の経営戦略は、
非食品でも強くなること。
すべてのテスコの店舗で非食品を扱っている。
当然、そのシェアもクリティカル・マスを越えている。
非食品の大半は、コモディティグッズである。
だから、さらに低価格実現を目指す。
非食品は、食品の2倍の成長率である。
2006年、「テスコ・ダイレクト」という事業をスタートさせた。
ノンフーズのカタログ販売である。
これは大きなビジネスチャンスをもたらし、
初期段階から利益を上げた。
大成功。
食品で圧倒的な占拠率をもち、
「クリティカル・マスを」突破したら、
非食品マーケットというご利益が、零れ落ちてくる。
非食品市場が伸びているから、
そのマーチャンダイジングを強化しよう、という発想ではない。
テスコの経営戦略第3は、
国際的な小売業の地位をさらに上げること。
メトロ、カルフールあたりを抜き去ろうということだ。
日本では、2003年にシートゥネットワーク(テスコ・ジャパン)を買収して、
現在、109店。
今期、35店の出店計画を発表している。
国際戦略の要は、資金と人材である。
これも国内の圧倒的なクリティカル・マス抜きには果たせない。
山之内一豊の妻ではないが、
内助の功無しに、外で存分に闘うことは出来ない。
テスコはイギリス以外の11カ国に進出し、
1275店の店舗を展開している。
そのうち5カ国で、ナンバー1シェアを獲得している。
それら5カ国でも、
クリティカル・マスの突破を狙っているということだ。
そして、国際的な小売業となるからには、
根本にこの発想がなければならない。
どこかの国に進出して、
繁盛店をつくる。
超繁盛店をつくる。
長い目で見ると、こんな店舗は、
やがて売却するしかなくなるに違いない。
それが国際企業の考え方である。
テスコの第4の経営戦略は、
小売サービス業の強化である。
小売業に関連して派生するサービス業で利益を上げること。
2000年から始めた「テスコ・ドットコム」
これはイギリスの96%以上の世帯が登録し、
世界最大の雑貨のインターネット販売額を記録する。
1997年から始めた「テスコ・ファイナンス」
銀行と保険会社。
スコットランドのロイヤルバンクとの合弁事業。
「複雑なマーケットに、簡素で価値のあるサービスを提供する」
見事な唄い文句。
セブン銀行やイオン銀行は、テスコの真似。
セブン銀行は、セブン‐イレブンが、
日本のコンビニ市場で、クリティカル・マスを越えている。
だから成功しつつある。
イオン銀行は、いかに。
まだまだクリティカル・マスにはほど遠い。
「テスコ・テレコム」
携帯電話、インターネット、固定電話の事業。
テスコの200万人のカスタマーにアプローチしている。
これらはすべて、テスコのスーパーマーケット展開の、
クリティカル・マスのご利益である。
クリティカル・マスに到達していない企業が、
この分野に将来性があるとして進出しても、
ほとんど失敗するに違いない。
本業をすべて辞めて、
こちらに本業を移すというくらいの決断をしても、
クエッションマーク? か。
もうすでに専門家がわんさといるからである。
マイクの専門分野に入る前に、
今日の話は終了。
明日に続く。
乞う、ご期待。
<結城義晴>