アメリカ・カメラ日記⑧クローガー・セーフウェイは良くなったのか?
米国スーパーマーケットに関して、ご質問をいただきました。
ありがとうございます。
「初めてメールさせていただきます。
結城先生のブログを楽しみに見させていただいております。
その中で米国流通についての内容で私の理解しているものと
少し違うと感じるところがありましたので、
ご意見いただければと存じます。
今年5月に米国視察に2年ぶりに行って参りました。
2年前に行った時と今年で明らかに違ったのは、
ナショナルチェーンの復活でした。
業績的にもクローガー・セーフウエイは好調ですし、
顧客セブメントに基づく売り場展開もすばらしいとおもいました。
復活の理由として2つありまして、
1つは顧客セグメントにもとずく、ライフスタイル型の店をつくり、
ウールマートとの差別化に成功したこと、
2つ目はウォールマートの拡大に伴い体力の無いSMが淘汰された。
以上の理解をしています。
ご意見をいただければと存じます」
以下、私の回答です。
クローガーは最新の決算で、
年商は前年比9.2%増、純利益で16.4%増と復活してきました。
セーフウェイは年商4.6%増であるものの、
純利益前年比はなんと55.2%増です。
しかし、前者の売上げ対比純利益率は1.69%、
後者は55.2%も伸ばしたにもかかわらず、2.17%です。
一方、ウォルマートは10月4日のウォルストリートジャーナルで、
「ウォルマート時代の終焉」と揶揄されながらも、純利益率3.24。
パブリクスはさすがに5.07%、
ホールフーズは、あれだけ人手をかけながら3.64%。
数値的に見ると、クローガーもセーフウェイも改善されて来ましたが、
まだもうちょっと、というところなのです。
セーフウェイのニューライフスタイルストアは、それでも、
最近の店づくりのトレンドを捉えて好調です。
私も評価しています。
コロラド州ボーダーの店舗、シアトルの新店など、
ホールフーズにも引けをとらない内容です。
セーフウェイは古い店舗を、次々にリニューアルし、
このニュータイプへの転換を図っています。
しかし、私のレポートにあるのは、
ダラスのトムサムという傘下の会社の店で、
まだまだ完璧にこなしきれていないようです。
もちろん、ダラスにはホールフーズやHEBセントラルマーケットなど、
比較される対象として、先行する企業の最新店が目白押しで、
このニューライフスタイルストアも、やや色あせて見えます。
クローガーはシグニチャーという古いタイプですから、
これも条件は良くはない。
クローガーは、
傘下に入れた企業の自主性を重視したマネジメントを採用します。
このチェーンオペレーションに関する基本姿勢が、
全体の数値を押し上げる効果をもたらしました。
全体を標準化の網の下に置き、
それが画一化・硬直化に陥ってしまったアルバートソンと、
決定的に異なっていました。
私は、ローカルチェーンという単位こそ、
チェーンストア経営の最重要要素であると考えています。
さて、米国スーパーマーケットを評価するに当たって、
クローガーの3659店、セーフウェイの1761店という
現在のスケールを考えると、
1店、2店を見て全体を言い切るのは危険ですが、
それでも1店1店をしっかり捉えて評価することが一つ。
サム・ウォルトンの「小さく考える6つの方法」に、
Think one store at a time.
という一節があります。
もう一つは、この会社が根本的にどういった政策を採っているかを
読み取ること。
私が今回指摘したかったのは、
クローガー、セーフウェイの価格政策と販促政策が、
ハイ&ローのまったく古い概念にとどまっている。
この点です。
それがプラノ地区という最先端の消費ゾーンと、
最強店舗が集合している競合ゾーンで、
顧客から完全に見放されている、
という事実です。
中田さんがご覧になった地区の店では、
素晴らしい内容だったに違いありません。
シアトルのQFCなどクローガー系の店が、
これもホールフーズに伍しているうえ、
ラリーズを倒産に追い込んでいます。
しかし、クローガー、セーフウェイの
「メインストリーム」と呼ばれる営業スタイルに、
イノベーションが求められ、
彼らがそれを模索している段階であることは確かでしょう。
イノベーションの先にあるのは、TPOSによるカテゴリーの見直しと、
ターゲットマーケティングであることは間違いありません。
「顧客セグメントによるライフスタイル型店舗」と表現されるものです。
ウォルマートのターゲットマーケティング、
ホールフーズやウェグマンズのターゲットマーケティング。
この鮮明な両極の間で、メインストリームが苦戦している。
クローガーやセーフウェイは、
TPOSによるライフスタイルアソートメントという課題を、
クリアしつつあるかもしれませんが、
それに応じた価格政策は、まだまだのようです。
このあたり、注目すべきテーマでしょう。
アメリカのチェーンストアでは、
プライス問題こそ、
決定的競争要素となるからです。
そしてこのとき、
ライフスタイルアソートメントの中での
コモディティグッズの取り扱いが、
重要な意味を持ってきます。
アメリカ小売業の競争を、
私は、プロレスの「バトルロイヤル」にたとえています。
10人ほどのプロレスラーがいっせいにリングに上がり、
次々に場外に押し出したり、
フォールしたりして、
退場させてゆく試合形式です。
誰かが、ちょっとでも油断すると、
たとえ最強のレスラーでも、
寄ってたかって、やっつけられてしまう。
まさにサバイバルゲーム。
この数年で、最高の企業体質といえるものを構築していた
アルバートソンが退場させられてしまいました。
プロレスでは、最後に二人のレスラーが残ります。
私はこの状態を「複占」と表現しています。
アメリカ小売業では、複占が多く見られます。
そして、最後に勝ち残る決定的要因こそ、
「正札販売」の姿勢であると思います。
そういった観点から、
ダラス・プラノ地区のクローガーとセーフウェイの、
とりわけ価格政策を見る必要があると思うのです。
いかがでしょうか。
<結城義晴>