横浜松坂屋144年の歴史を閉じる、「ノザワさん、さよなら」
横浜松坂屋が閉店する。
私のような「浜っ子」にとっては、
さびしい限り。
82歳になる私の母は、
いまだに「ノザワさん」と呼んで愛している。
私の一家にある記念写真はすべて、
この「ノザワさん」の野沢写真館で撮られたものだ。
この百貨店は、
横浜が開港した5年後に出来た。
野沢屋呉服店。
創業144年。
25期連続赤字だったという。
経営の本質が問われていたことは確かだ。
イノベーションが不可欠だった。
これは経営体自体の問題。
しかし一方で、
百貨店という業態の社会的陳腐化の問題をも、
はらんでいる。
私など、あの伊勢崎町の百貨店が閉店するならば、
日本中に百貨店が成立する立地は、
本当にわずかしかないと感じてしまう。
すなわち、郊外百貨店など、
話に及ばないほど、採算を取るのは、難しいに違いない。
百貨店の収益構造が、
時代に合わなくなりつつある。
これが確かなことなのだ。
だから、百貨店の統合はまだまだ進む。
マーチャンダイジング面では、
ノンコモディティを売る百貨店は、
統合のメリットは薄いが、
経営管理費の面では、
確かに効率化を果たすからだ。
横浜松坂屋のあとには複合商業施設が出来る。
低階層に、スーパーマーケットなど商業機能、
上階層にはマンションやホテル。
「ノザワさん」は、もうない。
ノスタルジーと現実。
現実は、人々の郷愁を最大限活用して、
利益を上げ続けなければならないのに、
現実が郷愁そのものとなってしまうと、
こうなる。
マクネアの「小売りの輪」進化論。
1957年、ハーバード大学マクネア教授がたてた仮説。
私はこれを信じている。
第1段階。
新しい小売業態は必ず、
ローコスト経営を基盤にした、
革新的低価格を実現させるシステムによって市場に参入し、
そのマーケットでの地位を確保する。
第2段階。
その小売業態は、
品揃えやサービスの中級化・中コスト化・中価格化へ進み、
やがて高級化・高コスト化・高価格化・高マージン化経営へ移行する。
第3段階。
業界全体の高コスト・高マージン化の中から、
次の新しい小売業態が、低コスト・低価格・低マージンで登場し、
旧業態を席巻していく。
これが経営の進化のプロセスである。
百貨店は総合スーパーに席巻された。
しかしいまや総合スーパーも、
高コスト高マージンの体質にある。
プライベートブランドなど、
焼け石に水である。
個別的「イノベーション」が、
フォーマットの陳腐化を防ぐことができるのか。
百貨店は、少なくとも
横浜松坂屋は、それが出来なかった。
「ノザワさん」さよなら。
<結城義晴>
2 件のコメント
私は昭和46年生まれ。幼い頃は 百貨店の最上階のレストラン(大食堂)に憧れた最後の世代?かなとも思います。
『消費の多様化』それも事実ですね。百貨店のネームバリューが販路の再編により下落したようにも感じます。
先日、ある記事を読んでいましたが、外食に金を支出する要因として味よりも、ホスピタリティだとか。もしかしたら、『巻き返し』の糸口はそこにあるかもと思いながら
昔の思い出に浸ってしまいました。
私は、博多の岩田屋、横浜高島屋、
そして「ノザワさん」。
前阪神百貨店社長の三枝輝行さんとお話していて、
百貨店の蘇生の道が、多いことを、実感しました。
個別経営問題として考えると、
まだまだ方法はあります。
「個別の経営問題の解決」と百貨店マンが、
認識できるかどうかのスタートが、それこそ問題で、
それには三枝さんのように、
「自分で商売する」ことです。
その中には「心からのホスピタリティ」が、
包含されています。