アークス横山清の「創発」とフェニックスの競争模様鳥の目検分
Everybody! Good Tuesday!
北海道のアークスが、
札幌東急ストアを買収し、
完全子会社化する。
買収額は50億円程度の模様。
札幌東急ストアは札幌市内を中心に28店を展開し、
2009年2月期売上高は523億円。
50億円で年商523億円の企業買収は、
「超お買い得」
企業をモノのように扱って申し訳ないが、
モノのように企業が売り買いされる時代ではある。
しかしそこで働く人間は、モノではない。
働きがいのある仕事と職場を提供してほしいものだ。
アークスの同期売上高は2539億円だから、
連結売上高は北海道初の3000億円を超えて、
「17%仮説のクリティカルマス」に到達する。
このクリティカルマスのご利益は、
両社の顧客と従業員にも還元されるべきである。
アークス横山清社長が、
この道理を分らぬはずはないから、
まさに「蛇足」だろうが。
9月8日の札幌の晩、横山さんが私に言った言葉。
「創発」(emergence)
Wikipediaには、こうある。
「創発とは、
部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が、
全体として現れることである。
局所的な複数の相互作用が複雑に組織化することで、
個別の要素の振る舞いからは予測できないようなシステムが構成される」
「組織をマネジメントする立場からは、
組織を構成する個人の間で創発現象を誘発できるよう、
環境を整えることが重要とされる」
「一般的に、個人が単独で存在するのではなく、
適切にコミュニケーションを行うことによって、
個々人の能力を組み合わせ、
創造的な成果を生み出すことが出来る」
横山さんは、「創発」を考えている。
それがアークスの八ヶ岳連峰経営になったし、
今回の札幌東急ストアの子会社化にあった。
あの時の「創発」は、これを意味していたのだ。
さて、私は、アリゾナ州フェニックス。
先ほど深夜2時過ぎ、近くのタワーが事故で、
全館停電になった。
部屋の電気が一斉に消えた。
エアコンも突如、動かなくなったし、
パソコンも、通信が切れた。
今回の旅行は、いろいろ、ある。
しかしますます意気軒昂。
昨日は、朝8時半から10時半まで講義。
商人舎では、一人で講義を受け持つが、
今回は、ノブ・ミゾグチさんとふたり。
それから視察へ。
今日は7店舗をウォッチし、インタビューした。
①ウォルマートのスーパーセンター
年商4012億ドル(約40兆円)のウォルマート。
伸び率7.2%で、
純利益は132億ドル(1兆3200億円)
スーパーセンターは2612店で、
1年間に165店増えた。
この店も、大繁盛。
経済不況や消費不振、雇用不安は、
ウォルマートの成長の追い風になっている。
全体がシュリンクする中で、
ウォルマートだけが伸びる。
アークス横山さんの言葉を借りれば、
「縮小拡大」
②ウォルマートのマーケットサイド。
ウォルマートの第5番目のフォーマットは、
昨年10月のオープンから、
ちょうど1年を迎えた。
このフェニックスエリアに4店舗は変わらない。
しかし店頭ファサードのロゴが変わった。
“by walmart”が下にくっついた。
昨年9月からの新しいロゴマーク。
マーケットサイドは、低価格をさらに強く打ち出し、
ウォルマートのグループであることを強調し始めた。
それは、「アンチ・ウォルマート」の風が、
止み始めたことを意味する。
この店は、夕方型。
だから月曜日の午前中に訪れても、
評価はしにくい。
クレンリネス、鮮度、品揃えは、
進化しつつ、維持されている。
新フォーマットの手ごたえを模索中。
「1年にしてまだ模索中とは何事か」といった声も聞こえそうだが、
それだけ、可能性を見ている証拠。
同時に、スーパーセンターの飽和が迫っている。
③クローガー傘下のフライズ・マーケット・プレイス。
年商760億ドル(7兆6000億円)伸び率8.2%の米国小売業第2位。
スーパーマーケット第1位。
純利益12億4900万ドル(1249億円)で、店数3654店。
そのクローガーのアリゾナ地区を担当するフライズ。
その非食品強化型店舗。
当然ながら、ウォルマート・スーパーセンターへの対抗策。
しかし私もミゾグチさんも、
これはやめた方がいいという考え方。
クローガーのグループは、
スーパーマーケットに徹するべきだ。
④テスコのフレッシュ&イージー。
イギリス第1位の小売業テスコが、一昨年、
アメリカに進出させた新業態。
現在、世界企業ランキング56位で、
世界小売業順位は、ウォルマート、カルフール、メトロに次いで4位。
年商943億ドル(9兆4300億円)。
フレッシュ&イージーは現在、120店舗ほどで、
1割がやっと合格点、3割がぎりぎり、
6割が完全不合格店といったところ。
さてどうするのか。
300店まで、物件を手当て済みという話もあって、
引くに引けないのかもしれない。
私は、いまだ、かすかな期待を持っている。
しかし、アタマで考え、カタチで入った店は、
さらにひとつのイノベーションを要する。
それがテスコにできるのか。
⑤ホールフーズ・マーケット。
年商79億ドル、店数275店舗の、
オーガニック・スーパーマーケット。
不況のあおりを受けて、
既存店の伸び率は4.9%と鈍ったし、
粗利益率も1ポイント落として34.0%。
しかし、社員のモチベーションは相変わらず高く、
売場がきちんと維持され、次の視野を見ている。
⑥トレーダー・ジョーズ。
年商72億ドルで326店。
いまだ絶好調。
言うことなし。
コーネル大学のジン・ジャーマン名誉教授はお気に召さないようだが、
ビル・ドレイク教授は、大のお気に入り。
私も、ビル派。
小型店問題の正しい回答のひとつは、
このトレーダー・ジョーズにある。
そして⑦地元バシャスのAJファイン。
バシャスは、1932年創業のアリゾナのローカル・チェーン。
現在、156店舗。
しかしこの地のマーケット・シェアは4番手で15.4%まで落ちてきた。
そして昨年7月12日に連邦破産法11条の適用申請。
かつてフライズと2強だったアリゾナの雄は、
ウォルマート、ホールフーズ、トレーダー・ジョーズの進攻で、
存続の危機に陥っている。
主力のフォーマットが進化を見せず、
大きく時代遅れになってしまった。
この高級店AJファインも、客数が落ちて苦しい。
ふつうのグルメスーパーマーケットと、
ふつうのメインストリーム・ストア。
イノベーションの不足は、企業を、
どんどん追い込んでしまう。
156店舗の店数が、逆に重荷になっている。
そのことこそ、日本のスーパーマーケットが教訓とすべきだ。
4番手のマーケット・シェアならば、
良い立地の良い店だけで、
再起を図るべきだろう。
鳥の目で、フェニックスの競争を見てから、
ホテルに戻り、ステーキハウスで乾杯。
左からMDD会会長の今津龍三さん、
副会長の坂本修三さん。
私とノブ・ミゾグチ先生。
そして、エクゼの前田仁さん。
万代の磯田雅人さん。
お疲れさま。
皆で「創発」しよう。
<結城義晴>