小型スーパーマーケットを考察する【前編】フレッシュ&イージーの巻
シルバーウィーク5連休の4日目。
ひと段落の火曜日。
新聞は連日、各紙とも薄いし、
日本全体、民主党・鳩山人気を見守る「待ちの態勢」。
店舗現場も、ちょっと中だるみ気味だろうか。
私は、テキストづくりと原稿書きに忙しい。
来週、水曜日から商人舎USA小型スーパーマーケット視察研修会に出発する。
そのまま10月の半ばまで、アリゾナ・テキサスからニューヨークに居座る。
前半は、小型店の行方を占うセミナー。
そこで、小型店に関する見解を、
今日と明日に分けて、少々ご披露。
もちろん、どんなサイズの店でも、
熱意と根性、誠意と努力、知恵とアイデアで、
お客さまの好評を博することはできる。
しかし、それをチェーン展開して、
100店、500店、1000店と拡大していくには、
「モデル」が必要となる。
10店舗であっても、フォーマットの基本は同じでなければ、
良い店と悪い店のばらつきが、大きく出てしまう。
「型」がなければ、知恵の共有化は難しい。
さて、アメリカでは、
一昨年11月8日にロサンゼルスにオープンしたテスコの小型店。
フレッシュ&イージー・ネイバーフッドマーケットが火つけ役。
その後、続々と、ナショナルチェーンがチャレンジした。
セーフウェイの「ザ・マーケット」
ウォルマートの「マーケット・サイド」
それに既存の超有力小型店フォーマットが絡む。
トレーダー・ジョーズとアルディ。
両社は兄弟会社。
私は、この二つのフォーマットが、
これまでもこれからも、小型店の中心となると思う。
そこに世界のウォルマートとテスコが、いかに迫るか。
大型化が行きついた末の、小型化へのチャレンジ。
ただし、小型店には絶対的な条件がある。
「小型の店は難しい」
店舗の大型化よりも、
小型化のほうが、
はるかに難しい。
難しい頭脳仕事が待っている。
このことを、はっきりと意識したうえで、
挑戦しなければならない。
かつて、日本のセブン-イレブンが挑戦した。
「セブン-イレブン・エクスプレス」
標準パターンの30坪の半分の15坪のコンビニ。
いかにアイテムを絞り込むかに呻吟し、苦悩した。
雑貨部門を大幅に削減した。
さらにカテゴリーごとに、
アイテムのポジショニングに、熟慮に熟慮を重ね、
ぎりぎりまで考え抜いて絞り込んだ。
例えば、祝儀袋と不祝儀袋。
コンビニのコンセプトで、絶対に欠かせないのは、
不祝儀袋。
不祝儀は、突然、起こるからだ。
祝儀は、あらかじめ日程が決められている。
だから突然のニーズに対応すべきコンビニは、
不祝儀袋を品揃えする。
こんな風にして、アソートメントを絞っていった。
しかし、結果としてうまくはいかなかった。
フォーマットやビジネスモデルには、
最適の収益構造がある。
そのモデルが最適であればある程、
それを小型化するとどこかに矛盾が生じてしまう。
従って、小型化とは、
まったく新しいマーケティングによって、
新しいフォーマット、新しいビジネスモデルを、
創造することなのだ。
しかし恐ろしいことに、
小型店は、一応、形は作りやすい。
既存のフォーマットからエイヤッと、
カットすればよいからだ。
ここに、逆に、
落とし穴がある。
日本でも、
イオンの「アコレ」や「まいばすけっと」がある。
「アコレ」は、
2008年9月に実験店としてオープン。
売場面積約100坪、取扱商品約1200品目。
ドイツの「アルディ」をモデルとしている。
アメリカでもアルディは、すごい勢いで、躍進中。
ハード・ディスカウンター、
あるいはディープ・ディスカウンターと呼ばれ、
ドライグロサリーの安売り中心。
「まいばすけっと」は、
2005年12月オープンの第1号・新井町店以降、
2009年6月までに南東京・川崎・横浜に49店舗。
2012年2月期に、首都圏500店舗の本格出店の計画。
売場面積約50坪で、生鮮食品を充実させている。
イオンは、両サイドから小型店実験に入っていることになる。
さてフレッシュ&イージーは、
9月16日に、広範囲の広告キャンペーンをスタートさせた。
2年目にして、125店舗となった段階での、
初めての大規模広告。
南カリフォルニア、アリゾナ、ネバダ。
しかしテレビや新聞、雑誌など、
高価な媒体を使った全面展開ではない。
広告媒体は、
①インターネットのバナー広告
②ラジオ
③フリーウェイのビルボードやバスストップのサイン広告など。
キャッチコピーは、
Sticker shock.
In a good way.
驚愕値札。
良品保障。
まあ、意味はこんなところか。
新たに1000アイテムの低価格商品を導入。
フレッシュ&イージーはこの2年間、
店舗周辺住民へのDMチラシやクーポンなどを宣伝媒体としてきた。
いわば口コミ・マーケティング
アリゾナで、そのフレッシュ&イージーを訪れた。
チームリーダーのパティさんが、
丁寧にインタビューに答えてくれた。
従業員は21名で、4人がフルタイマー、17人がパートタイマー。
1日の客数は500人から550人。
客数が多いのは、夕方7時前後。
しかし1万平方フィート(約280坪)の売場で、
この客数では、本当に苦しい。
生鮮食品と乳製品は、毎日配送。
品質保証期限前に、「フードバンク」に提供する。
この店の良さは、
「簡単に入ってきて、すぐに買い物して出ていけるところ」
だから、「カスタマーサービスを最優先している」
さらに1000品目のニューアイテム。
「New」のスポッターが各所に張り付けられている。
3500品目の品揃えで、
そのうちの半分がプライべートブランド。
売上高の7割がそのプライベートブランド。
別の店の青果売り場も、似たり寄ったり。
フレッシュ&イージーの広告作戦、
はたしてうまくいくかどうか。
アメリカでも、いまだ評価は分かれている。
しかし、マイナス評価のほうが勝っている。
コーネル大学名誉教授ジン・ジャーマン先生の見解。
「小型店は客数が少ない。
その少ない客数が、
生鮮食品の商品回転率を下げて、
鮮度を落とすリスクが生じる。
小型店には、この壁が、
常に大きく立ちはだかっている」
イギリスでは、テスコのロイヤルティは圧倒的に高い。
4つのフォーマットをもつ。
テスコ・エクストラ
⇒欧州型ハイパーマーケット、4600~9200㎡
テスコ・スーパーストア
⇒これが中心となるフォーマット、2800㎡
メトロ
⇒都心型の小型スーパーマーケット、1000㎡
テスコ・エクスプレス
⇒コンビニタイプ、200㎡(日本で実験したフォーマット)
この4フォーマットを中心に、
イギリス国内シェア30%を超える「クリティカル・マス」を
構築している。
そしてイギリス人の全生活を支えている。
テスコカードは1000万枚も普及している。
イギリスでは、
テスコ・エクスプレスやテスコ・メトロの小型店モデルが成功を見ている。
テスコはそれをそのまま持ってはこなかった。
なぜか。
イギリスでは小型店は、
全体の中での補完機能として十二分に価値を持つ。
しかしアメリカでは、テスコには何のロイヤルティもない。
初めての店には、
特別のインパクトがなければならない。
そこで、この店は、
トレーダー・ジョーズとアルディを、
足して2で割ったフォーマットにした。
私は、そう考えている。
圧倒的な人気の二つのフォーマット。
トレーダー・ジョーズは、
208年度年商72億ドル(7200億円)10.7%の伸び。
店舗数は326店で、前年度に比べて16店の増加。
米国アルディAldi[Box Store] は、
2008年度年商66億3300万ドル(6633億円)19.3%の伸び。
店舗数989 店、こちらは10.5%の伸長率。
店舗数の伸びの2倍近く、売上高が伸びている。
だが、アルディとトレーダー・ジョーズは、
「あちらを立てればこちらが立たず」の関係にある。
一方は、健康・安全・おいしさと人的楽しさを提供し、
一方は、徹底したローコストとウォルマート以上の安さを追求。
この二律背反を、アメリカのマーケットで、
実現させようという試みに、
テスコは果敢に挑戦した。
しかし頭で考え、形で入った。
だから、いまだ中身が伴ってこない。
小型店の難しさを、そのまま体現してしまっている。
しかし私は、この試み自体は評価したい。
従来からアメリカのマーケットに、
あまた存在するフォーマットで進出しても、
社会的にはあまり意味がない。
テスコの頭脳と腕を見せてもらいたいものだ。
それこそナレッジ・マーチャントの「Brains&Hands」である。
本体のテスコは、
年商943億ドル(9兆4300億円)純利益37億5100万ドル(3751億円)。
フレッシュ&イージー125店舗くらいでは揺るぎもしない。
アメリカに、1000店のニューフォーマットを築き上げるくらいの心意気で、
臨んでいるに違いない。
むしろ、この英国人魂のほうが、
アメリカで試されているような気がする。
だから、まだまだ、監視を続けなければならない。
(明日につづきます)
<結城義晴>
今日も[毎日更新宣言]にお越しいただいた上に、
最後まで、お付き合いいただいて、
心から感謝します。