ジジの函上の考え[日曜版]
お花がおくられてきました。
「まわた色したシクラメン」ではなく、
「もも色のシクラメン」。
これがいい。
とてもありがたい。
でも、ボクが気になるのは、
お花がはいってきたハコのほう。
ハコの中も、すき。
ハコの上のほうも。
ボクの名まえは、ジジ。
ハコは、ボクのものです。
ハコのうえは、おちつきます。
すぐに、うとうと。
じゅうたんの上や、
たたみの上、
ゆかの上もいいけれど。
なんといってもいいのは、
ハコの上。
よい考えが浮かぶところを、
「三上」(さんじょう)といいます。
中国の欧陽修という人が残した。
「馬上、枕上、厠上」。
「ばじょう、ちんじょう、しじょう」と読みます。
読んで字のごとく、
馬の上、枕の上、
そしてかわや、すなわちトイレ。
ボクの場合は、「函上」。
函上にて、まどろみ、
物思いにふける。
「………」
「んっ?」
「…」
いい…考え……が………。
うかんだ!
そうだ。
ユウキヨシハルのおとうさんに、
知らせなくちゃ。
どこにいるかな。
おとうさん。
ヨコハマのアラタマ川。
川のそばの商人舎に、
いってます。
シェラトンホテルが、
冬の空に映えて、うつくしい。
そのうしろの雲も、おもしろい。
ねえ、ねぇ、おとうさん。
ボク、いい考えがうかんだんです。
ほんとに、いい考えです。
ねえ、ねぇ、おとうさん。
「函上」で、いい考えがうかんだんです。
ねえ、ねぇ、きいてよ。
ユウキヨシハルさん。
<『ジジの気分』(未刊)より>