司馬遼太郎の「リアリズム」と第44回SMトレードショーの総括
2010年の建国記念の日。
毎年のことだが、なぜかこの日には、
司馬遼太郎の『この国のかたち』(文藝春秋)に手が伸びる。
その「四」の「日本人の二十世紀」。
明治維新と『坂の上の雲』についてのくだり。
「開国という、ときに卑屈なほどのリアリズムの開幕でありました」
「十九世紀後半の明治人は、どの時代の日本人よりも現実的でした」
ここでいう「リアリズム」と「現実的」
私は、いまこそ、それが大切だと、
今日こそ、思う。
ロシアとの日本海海戦に戦勝したときから、
日本人のリアリズムが崩れていく。
「戦勝の報告によって国民の頭がおかしくなっていきました」
つまりリアリズムの喪失。
「自己を正確に認識するというリアリズムは、
ほとんどの場合、自分が手負いになる」
だから「大変な勇気が要ります」
司馬遼太郎さんの指摘は、まるで、今を予想したように映る。
1992年から93年の、バブル崩壊後の述懐。
日経新聞一面の真ん中にドンとある囲み記事。
「国の借金871兆円」の見出し。
国債や借入金、政府短期証券を合わせた債務残高の合計額。
2009年12月末時点でそれが871兆5104億円となり、これは過去最大。
最大額の更新は3期連続。
「今年1月時点の推計人口(概算値)で計算すると、
1人当たりの借金は約683万円」
2010年度末には約973兆円にまで膨らむ。
財務省自身の推定。
主因は、麻生政権の2009年度第1次補正予算での国債の増発。
さて、いかにリアリズムを取り戻すか。
読売新聞の「編集手帳」では、
鳩山由紀夫総理の誕生日のエピソードを披露している。
「鳩山一郎元首相は、その日の日記に書いている。
〈今朝、安子、男児を生む。
威一郎は平和になつた其日(そのひ)に生れ、
其子(そのこ)は紀元節に生る〉」。
ここで書かれた「其子」が由紀夫総理。
1947年(昭和22年)2月11日生まれ。
由紀夫の名の「紀」は紀元節の紀だろう。
「きょうは政権を担って初めて迎える鳩山首相、63歳の誕生日である」
編集手帳は、この新聞の主張で、朝日と正反対の立場を取るが、
この後、強烈に鳩山政権を皮肉って終わる。
しかし、鳩山首相や民主党に限らない。
私たち日本人全員が、
日露戦争日本海海戦勝利の瞬間に失った「リアリズム」を、
考える必要がある。
今日こそは。
さて、昨日終了の第44回スーパーマーケット・トレードショー。
日本の「国の借金」とは正反対だが、
過去最高を記録した。
エキジビター数もビジター数も。
そしてその盛り上がりや内容も。
会場東1ホールのセミナー会場でトリを飾ったのは、
「変わる流通、変わる店長」のパネルディスカッション。
第2回ベスト店長大賞受賞者の二人がパネリスト。
ハローデイ綾羅木店の戎谷秀彦店長、
サンシャインチェーン・カルディア店の野町一志店長。
コーディネーターは㈱イズミヤ総研の金原由香取締役主席研究員。
二人の店長には、この賞を一生背負ってもらいたい。
小売業の店長の地位を上げ続け、
若者がなりたい職業にしてもらいたい。
アメリカのウェグマンズやナゲット・マーケット、
ホールフーズやスチュー・レオナードのように。
三日目となると、会場の熱気も落ち着いてくる。
㈱イシダ専務の吉岡典生さん。
よねや商事㈱社長の佐々木隆一さん。
佐々木さんは明るい経営者。
今の時代にぴたり。
その上で勉強家。
㈱イズミ食品部デイリー課長の矢野靖ニさんとバッタリ。
お分かりでしょう。
あの大創産業㈱社長の矢野博丈さんのご子息。
年を重ねるごとに、瓜二つの度合いが増してくる。
矢野さんは、伊藤雅俊さんや川野幸夫さん、横山清さんと並んで、
わが商人舎発足の会の発起人。
デイリーフーズ課バイヤーの野田慎吾さん、
デイリーフーズ課中四国地区バイヤーの友岡誠さんと、
全員で写真。
イズミも、実によく勉強する会社。
山西泰明社長の「リアリズム」に根ざした勉強の姿勢が貫かれている。
最後の最後は、バリラジャパン㈱社長の豊田安男さん。
バリラジャパンは、この展示会の中で、
実にユニークなマーケティングを展開している。
ほとんどすべてのブースが、
このフェアへのすべての来場者を対象にしている。
だからオープンエアーのブースづくり。
道行く人を引き入れるパリの「オープンカフェ」と同じ。
これはいわばコモディティの考え方。
それに対してバリラジャパンは、
クローズ方式。
はじめからすべての来場者を相手にはしていない。
ロイヤルカスタマー主義。
ノンコモディティの商品の売り方は、
ロイヤルカスタマー主義でなければならない。
これが広大なフェア会場での「ブルーオーシャン戦略」となっている。
あのW・チャン・キムとレネ・モボリュニュの「ブルーオーシャン」。
私はいつも豊田さんの戦略性に感心している。
しかしだからといって、すべてのブースがこの方式ではいけない。
日本の消費市場でコモディティ化が進んだからといって、
すべてがノンコモディティを志向したら、
何よりも顧客が困る。
ただしウォルマートは、
最大マスマーケットのコモディティ分野で、
ロイヤルカスタマーを獲得することによって、
「ブルーオーシャン」を実現させてしまった。
そんなことを考えつつ、
イタリアンレストランLA BETTOLAの落合務シェフの味を楽しんだ。
日本製粉とバリラジャパンが落合さんと提携して、
様々なプロモーションを展開している。
これはまさしく「ノンコモディティ戦略」。
食品流通研究会会長の井口征昭さんと帰路につく。
井口さんは、食セレクションブースを担当し、
セミナーでも好評の講演を展開した。
さて、祭りの後の寂しさを感じつつ、
2010のスーパーマーケット・トレードショーの総括。
第一に、出展者・来場者、その内容、すべて過去最高だった。
特に出展者のブースの充実が際立っていた。
つまり、生産者・製造業・卸売業の充実。
これは日本商業全体の財産。
それを自分たちの顧客に、
いかに「リアリズム」のもとに伝えていくか。
小売業やスーパーマーケットの役割。
我々の近い将来は、決して暗くはない。
「既に起こった未来」はむしろ明るさを示している。
第二は、今回も全国の中小企業の出展が多かったこと。
地方行政や地方金融機関の活躍が、それを実現させた。
アメリカのFMIが展示会の隔年開催へと後退した理由は、
「コモディティ展示会」になってしまったことにある。
FMIでは、入り口をコカコーラとネスレのブースがデンと占める。
それはそれでコカコーラやネスレを批判はできない。
むしろアメリカ社会が全体に、
コモディティ化現象の真っ只中にあることを証明してしまった。
それではわざわざFMIの展示会に行く必要がない。
ヨーロッパの食品フェアにはそれがない。
パリのシアルもケルンのアヌーガも、
ヨーロッパ中の村々、町々の産品が参集される。
つまりノンコモディティ・グッズの、1年に一回の大集合の場なのだ。
だから楽しいし面白いし、新しいし、革新的である。
そしてそこには食品消費産業の「リアリズム」がある。
日本の2010スーパーマーケット・トレードショーは、
日本産業界に先駆けて、それを証明した。
ここに大きな意義があった。
「私たちの明日は明るい」
明治人の「リアリズム」に学べば、
日本人本来の「リアリズム」に目覚めれば。
建国記念の日に、これだけは言い切りたい。
<結城義晴>