アリゾナ州フェニックスの死闘「森の熊と二人の男」
昨3月16日は、第6回USA視察研修会HOT編の出発日。
関東地方は、20度を超えるとびきりの快晴。
横浜も暑いほど。
成田に向かうリムジンバスの中でも、
原稿締め切りに追われて仕事・シゴト。
ゆったりとした気分で一度は出発したいものだ。
成田に集合後、恒例のガイダンス・セミナー。
メインテキストは今回はさらに充実。
そして、結団式。
団長は㈱阪食の松元努さん。
取締役執行役員営業政策室長兼商品統括部長。
ガイダンスを聞いて、
「ワクワクしてきた」と言ってくださった。
出発前の記念撮影。
そして不思議な空へ向かって、
ユナイテッドで飛び立った。
機中、原稿書きや読書の準備をしていたが、
ついつい映画を3本見てしまった。
ジョージ・クルーニーの「マイレージ、マイライフ」
サンドラ・ブロックの「ブラインド・サイド」ともう一本。
8時間余りで、あっという間にサンフランシスコ国際空港へ。
それから2時間で、フェニックスへ。
この2時間で原稿1本、仕上げた。
フェニックスは砂漠の中の街。
もう日本の真夏並み。
しかしからりとした夏。
すぐにバスに乗り込んで、視察。
初日は、コーネル大学エドワード・マクラフリン食品産業学部長から聞いた話。
「森の中の二人の男と熊の話」
森の中を二人の男が歩いていた。
そこへ熊が出てきた。
一人の男が、叫んだ。
「早く逃げよう」
もう一人は、言った。
「君より早く逃げさえすればいい」
熊とは、ウォルマート。
ふたりの男は、ローカルチェーン。
ここアリゾナ州では、
この二人とはバシャスとフライズ。
私たちはまず、熊を見に行った。
ウォルマート・スーパーセンター。
入口が二つある。
右側が「Market」
これだけで、食品売り場側だとわかる。
もうひとつが「Home&Pharmacy」
非食品と薬品・化粧品。
スーパーマーケットの「マーケット」は、
食品売り場を意味している。
スーパーマーケットは、
超級(スーパー)の食品市場(マーケット)である。
これ、荒井伸也さんの指摘。
私も賛成しているが、
ウォルマートの入り口がそれを示している。
その食品売り場は、ますます、洗練され、鮮度が高まってきた。
缶詰のエンド。
中央にビデオカメラがあって、
コマーシャルが放映されている。
それがとても面白い動きをする。
ときどき画面と売場がダブって、人目を引く。
コカコーラ2リットル1本、
なんと98セントのエンド。
1ドル48セントを98セントにロールバックと書いてある。
卵1パック1ドル77セント。
すごい売れ行き。
グレート・バリューがウォルマートのプライベートブランドだが、
それが今回はよく売れていた。
昨年、白いパッケージにリモデルした効果が出ていて、
売場でも目立つ。
グレート・バリューの食パンも、
よく売れている。
主通路のアイランドディスプレーは、
全面撤去され、見通しが良い。
「プロジェクト・インパクト」の成果。
衣料品でも、売れ筋が通路沿いに並ぶ。
子供用マウンテンバイク89ドルにロールバック。
94ドルからの値下げ。
森の熊さんは、相変わらず強力だった。
では、一人の男はどうか。
129店舗のバシャス。
2008年には166店に増やして、
ウォルマートの出撃に対抗したが、
それが裏目に出て、
昨2009年7月連邦破産法11条申請。
だから「センセーショナル・セービング&サービス・ツー」
の掛け声もむなしく映る。
ただしまだ15.4%のシェアで第4位。
肝心の青果売り場が死んでいた。
10年前ならば合格の売り場も、
現在では前世紀のレガシー。
もう一人の男は、フライズ。
バシャスよりも早くクローガーの傘下に入り、
このフェニックス地区で、ナンバー1シェアの企業。
88店舗で、18.7%の占拠率。
マーケットプレースは、非食品強化型。
ウォルマート・スーパーセンターの対抗フォーマット。
「プライス・バスターズ」のネーミングで、
生鮮食品のコモディティ・ディスカウント。
しかしこれは気まぐれ特売方式で、
ウォルマートのエブリデーロープライスにはかなわない。
アメリカでも、不況真っただ中。
顧客は、計画購買を望んでいる。
賢い顧客の賢い購買。
それは顧客自身に判断を委ねることだ。
フライズのデリ売り場は、対面方式。
対面売り場の中央に、
「オーダー・ヒアー」と書かれた場所がある。
生鮮同様に、デリは売れなければ、
どんどん鮮度が落ち、まずくなる。
コカコーラ2リットル1ドル68セント。
クラブカードがなければ1ドル98セント。
ウォルマートのロールバック98セントと比べると、
クラブカードのない客は2倍以上、1ドルの差。
しかしゴンドラ・アイルには、
基本通り島陳列が施してある。
桃の缶詰は、
左から「フライズ」のPB、
「クローガー」のレギュラーPB、
コンペティティブプランド「バリュー」PB。
三種類の品揃え。
この店でも、プライベートブランドがよく売れている。
そして食品売り場中央のキッチンウェアの売り場。
見た目綺麗だが、売れていない。
ウォルマートは、『商品ライン』の統一が図られていて、
キッチンウェアも売れ筋ばかり。
一方、クローガーは、ベンダー品揃え。
クローガー・マーケットプレースには、
非食品の売り場に家具がある。
これがさらにいけない。
非食品出身と食品出身のおおきな差が、
非食品のマーチャンダイジングに、くっきりと出てしまった。
ウォルマートの2010年決算。
売上高4050億ドル、1.0%の伸び。
純利益143億ドル。
クローガー年商767億ドル、0.8%の伸び。
純利益7000万ドル、マイナス94%。
森の熊さんの独り勝ち。
一人の男は、逃げ遅れた。
二人目の男も、逃げおおせたとは言えない。
(明日につづく)
<結城義晴>
2 件のコメント
米国視察のウォルマートストアーズの結城先生の写真とコメントは、私をさながらツアー参加者と錯覚させるほど興味深く拝見させていただきました。
ありがとうございます。
質問ですが、日本の西友さんも、ウォルーマート直輸入のような什器(特に青果)でゴンドラアイルも高くなりましたが、米国ような開放感や買い物の楽しさやストレスフリーにかける気がします。(価格がハイアンドローでは無く、EDLP?ですが。)
この違いはどこから来るのでしょうか?
いまちゃん、ご投稿とご質問、感謝。
ご返事遅れ、恐縮。
フェニックスからサンフランシスコ、
そして今、サクラメントにいます。
西友も、ずいぶんよくなって来ていると思います。
しかし、アメリカのウォルマートとはどこか違う。
私は、完全に再現するためには、はじめからまず、
完璧にコピーすることをお勧めしています。
日本のコストコは、完全コピーに成功しました。
それはマイク・シネガルというアメリカ人が、
先頭に立って完全なる再現を推進したからでした。
マイクは、アメリカのコストコCEOジム・シネガルの息子さんです。
つまり将来のコストコのCEO。
いたずらに模倣を貶めることはないし、
ことさらに創造を尊ぶこともない。
わたしは、そう考えています。
だから完璧なコピーを試みる。
そのあとで修正をする。
もっともイギリスのアズダでは、
やはりウォルマート傘下に入ってから、
スーパーセンターを作りましたが、
それはアズダ流でした。
我々の方が食品販売の専門家だ、と胸を張っていました。
彼らには信念があったのです。
日本の西友の皆さんにも、
信念をもって仕事にいそしんでほしいものです。