上場小売業の投下資本利益率平均8%と叔父さんに金を借りて事業をする話
日経新聞の企業面に、見出しあり。
「小売業の経営効率悪化」。
2月期決算の上場小売業の投下資本利益率の独自調査。
2010年度2月期は8.0%(前期比1.1ポイントマイナス)。
3年連続の低下。
これは8年ぶりの低水準。
投下資本利益率とは、
「分子に営業利益、
分母には運転資金と固定資産の合計額」
これを入れて計算した指標。
資本を投下して、その資本に対して、
いくら儲けたかを指標化したもの。
叔父さんから1000万円を借りて、
事業を始めるとする。
1年後の儲けが営業利益。
その営業利益の額を、
投下資本で割り算したもの。
儲けが30万円なら、3%。
100万円なら、10%。
だから上場小売業平均は、
1年の儲けが80万円だったということ。
これでは胸が張れない。
さて叔父さんに報告する時、
いくらくらいなら胸を張れるか。
少なくとも100万円は超えたい。
そして毎年、この儲けが少しずつでも、
増えていることを報告したい。
さてこの数値、業態別にみて最も低かったのは、
百貨店で2.8%、これは前年比2.4ポイント低下。
過去10年で最低の数値。
長期国債の利回り1.3%に近づいていて、
「百貨店事業を行うのも、国債を買うのも大差がない」と、
日経は報じている。
総合小売2強も苦戦。
セブン&アイ・ホールディングスは9.4%で、
1.5ポイントマイナス。
イオンは6.2%だが、これはほぼ横ばい。
一方、専門店とコンビニは13.4と、
業態別で最も高い数字。
ランキング上位企は、
ポイント 50.4%(前期比9.2マイナス)
あさひ 35.9%(6.1プラス)
エービーシーマート 30.8%(1.9マイナス)
ニトリ 28.8%(7.1プラス)
ローソン 26.2%(1.2プラス)
このあたりの企業は叔父さんも喜んで、
「もっと貸そう」と言ってくれるに違いない。
企業規模が大きいことが、
企業価値が高いことと、
イコールであった時代は終わった。
上場企業が必ずしも、
企業価値が高いわけでもない。
総資本経常利益率(ROA)や投下資本利益率で、
会社を見ることは重要な尺度である。
小売業の小売店には、戦前から、ずっと、
人が育たなかった。
百貨店を除いて。
それは、こういった収益性が低かったからだ。
小売店は、店員を雇っても、
若いうちは安い賃金でこき使い、
年齢が高くなると、一握りの番頭だけ残して、
あとは辞めさせた。
しかし労働力は若い店員の高回転で補った。
だから会社や店は存続したが、
人は育たなかった。
低年齢企業、すぐに店員が辞める企業。
それが小売業だった。
現在も、人がすぐに辞める企業には、
未来はない。
しかし、投下資本回収率や投下資本利益率が高く、
その利益を「サービス残業撲滅」や一定以上の待遇、
そして教育・訓練、職場環境の整備に充て、
なおかつトップが裏表のない言行一致であれば、
小売業は成長産業となれる。
戦後スタートした新興小売業は、
みな、長期的なビジョンと人材育成計画を立て、
それが成長の原動力となった。
今月の商人舎標語は、
「知恵・力」合わせて動け!
それが本当に実行されると、
投下資本利益率は向上し、
人材も育ってくる。
このことは小売業に限らない。
サービス業も製造業も、
規模ではない。
一定以上の投下資本利益率をあげること。
叔父さんに喜んでもらえること。
さて最後に、日経のコラム「人こと」。
マツモトキヨシホールディングスの松本南海雄会長のコメント。
松本さんも商人舎発足の会の発起人。
家電量販店の大衆薬販売について語る。
「家電量販店が安く薬を売っても、
わざわざ電車で会に行く人はいないだろう」
病気や怪我など必要性があって購入される大衆薬は、
値引きでは集客しにくいとの指摘。
優れた経営者は、常に業態の差異を考え、
それを言葉に表現する。
自分の業界、自分の企業のスポークスマン。
「雄弁は金」を示した。
投下資本利益率など明確な数字を示しつつのスポークスは、
「鬼に金棒」となる。
ものごとを見つめ、
ものごとを考えつつ、
週末へ。
今日は立教大学池袋キャンパス。
大学院のF&Bマーケティングの講義も、
結城ゼミも、充実していた。
ご清聴とご協力を感謝したい。
院生たちは、よく学び、よく考え、
自分のエンジンを回していた。
皆さんも、良いウィークエンドを。
「朝に希望、昼に努力、夕に感謝」
<結城義晴>