結城義晴のBlog[毎日更新宣言]
すべての知識商人にエブリデー・メッセージを発信します。

2010年12月24日(金曜日)

クリスマス・イブの「ヒット商品番付・小売業編」とユニクロ柳井正の「我々の本来の立ち位置」

今日は、クリスマス・イブ。
世界中で展開されるキリスト教の宗教的イベント。

しかし商業・サービス業はどんな宗教であろうとも、
許容し、活用する。

サイゼリヤ会長の正垣泰彦さんが言った。
「ビジネスをやり続けていると、
それ自体が宗教のようになって、
宗教は必要なくなる」

だとすれば逆に、商売は、
すべての宗教を受け入れることができることになる。

私はむしろ、ギリシャ・ローマ時代の多神教が好きだ。
わが日本はずっと、ある意味で多神教。
だから天皇誕生日がクリスマス・イブ・イブに化ける。

それはそれで、とてもよろしい。

今日の日経MJで「ヒット商品番付・小売り編」
横綱が「都心向け小型スーパー」
大関に「エコ店舗」
小結が「ドラッグコンビニ」

前頭四枚目には「脱・門前薬局」が入っている。
前頭二枚目は「ネットスーパー」。
今年のトレンド、
それは店舗のコンセプトが広がってきたということ。

小売業がつくるものは何か。
荒井伸也先生の持論。
「小売業のプロダクト(製品)は店舗である」

㈱セブン&アイ・ホールディングス顧問となった大久保恒夫さんは、
「小売業は売場をつくるのが仕事」という。

法政大学大学院教授の矢作敏行さんは、
「小売業がつくるものは業態である」と表現する。

私はそのすべてだと考えている。
ただし現在のチェーンストアは、
「フォーマット」をつくるが。

その店舗や売り場をつくるが。

いずれにしても、今年の「小売業編のヒット番付」には、
それが現れた。

ただし、日経MJのヒット番付に登場した店や業態が、
小売業の趨勢に大きく影響する本命ではないが。

この新聞の特徴の一つだが、
そして新聞の特徴の一つでもあるが、
浮遊した現象を捉える。

都心小型スーパーマーケットもネットスーパーも、
ドラッグコンビニもそれぞれの現象ではあるが、
本質論ではない。

日経MJは一面トップの特集に、
「西友“変身”進んだか」を掲載。
「ウォルマート流 7合目」と結んだ。

早稲田大学教授の野口智雄さん、
R2リンク代表の鈴木敏仁さん。
おふたりを伴って、
リヴィンよこすか店を訪れ、
分析・評価。

野口さんの評価が80点の甘口、
鈴木さんは50店の辛口。

「専門家」を称する人たちの30ポイントもの評価の格差。
いかなることになっているのやら。

なにを持って評価するのかがちょっと曖昧だからこうなる。
さらにこの記事で決定的に欠けているのが数字。

改装後1年の現在も、
売上高は「二桁ペース」で伸びているというが、
ディスカウントしてボリュームが増えても、
営業利益が伸びていないのであれば、
それほど意味はない。

マルエツが「魚悦」というディスカウント店舗をオープンさせ、
日経をはじめ様々なメディアでレポートされているが、
こちらも同じこと。

かつて、ダイエーがトポスで失敗した。
イトーヨーカ堂もザ・プライスで失敗した。

西友がウォルマートに変わるのは、
これは当然のことだが、
それさえも、苦労に次ぐ苦労を重ねている。

ディスカウント商法の成否は、
「ハウ・ツー」や「ノウ・ハウ」の問題ではない。

精神の問題である。

石を投げつけられても、
中傷を浴びせられても、
「ディスカウントこそお客が喜ぶ」
「ディスカウントこそ正義だ」

そう思うことができる者でなければ、
成功は絶対にしない。

通常のスーパーマーケットが伸びなくなったから、
ディスカウントでもやろう。
そういった儲けを念頭に置いたディスカウントは、
必ず失敗する。

これは断言しておこう。

したがって西友がウォルマートとして蘇生するか否かは、
西友自身がどこまでウォルマートに成りきれているかにかっかっている。
昨日の日経新聞に、
ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正さん登場。

「成長戦略をを描くシリーズ」の第1回。

記者は「衣料品店で世界4位につけた」ユニクロが、
「H&Mなど流行品を低価格で提供するファストファッション」に、
どう対抗するかが聞きたい。

それに対して柳井さんが答える。
「H&MやZARA以上に成長するには、
海外中心に年間300店を新設する必要がある。
実行できなければ、2020年に連結売上高5兆円の目標を達成できない」
ちなみに2010年8月期は年商8148億円だった。

「当社は日本に頼らずに世界中で商売しないと生き残れなくなった。
グローバル企業への脱皮が欠かせない」

「(今年の)売り上げがあまりよくないのは、
ブームの反動もあるが、それ以上にこの1年間、商品政策を間違えた」

「必然性のないデザインものが多すぎた。
あくまでベーシックな服にファッション性があるのが、
我々の本来の立ち位置。
ファッション自体は我々には期待されていない。
商品計画をきっちりつくり、毎週、
生産調整をしていくという地道な作業を改めて徹底させる」

柳井さんの言う「我々の本来の立ち位置」こそ、
私の主張する「小売業のポジショニング」。

来年からの10年は間違いなく、
「ポジショニング競争の時代になる」

ディスカウントでも、新タイプの店舗でも、
「自分の立ち位置」が明確でない限り、
そしてそのポジショニングの正しさ、強さを信じていない限り、
うまくはいかない。

クリスマス・イブそのものを創出したイエス・キリストこそ、
当時の宗教界でユニークなポジショニングを築いた男だった。

<結城義晴>


2 件のコメント

  • 結城様、久しぶりに投稿させていただきます。
    ディスカウントの評価と文章表現に圧倒されました。
    全くの同感ですが、文面からは確信が感じられました。
    常々、価格競争の先には価格競争しかないと思っておりましたが、
    ディスカウントなるものの価値というものが今の時代でも同じだった、むしろ多様な価値の時代でより鮮明になったと感じています。20年前のトポスの実験で結論が出ている問題で「2年間の期間限定職場確保の延命政策」以外の戦略性・戦術性は考えられないことでした。やはり、暮らしの中での使い勝手や食卓満足のところで進化するものでなければ、ディスカウントという概念自体に意味がないと私自身、確信致しました。いつも、時代と世の中の変化の中での小売・商業に携わる人たちの立ち位置を示してくださっているようで、毎日欠かさず読んでいます。これからも楽しみにしております。私見、お許しください。

  • 薫のバイオリン弾きさま、お久しぶりです。
    お元気ですか。投稿ありがとうございます。

    日本列島も急な寒波に襲われていますが、
    郡山はずいぶんと寒いことと思います。
    お体、気をつけてください。

    1852年、フランス・パリにボンマルシェが登場した時も、
    1930年、マイケル・カレンがスーパーマーケットを始めた時も、
    そして1954年、コルベットが初めてディスカウントストアをつくったときも、
    低価格やディスカウントは強いインパクトを持っていました。

    クレイトン・クリステンセンの言う「ブレイクスルー型イノベーション」でした。

    歴史を画す「革新」には根本的な部分で、
    ディスカウントが一つの要素ではありました。
    ですから私はその効用を否定するものではありません。

    しかし小売業の歴史的イノベーションのなかでも、
    日本のセブン-イレブンが果たしたブレイクスルー型もあります。

    むしろこちらのイノベーションこそ現代的かもしれませんが、
    これは明らかにディスカウントタイプではありません。

    もちろん「良いものが安く」が実現されることは、
    いつの時代も顧客にとって最大の価値提供となります。
    一番まずいのは、似非ディスカウントです。

    構造的に低価格を創出する、
    取引先・産地、顧客、自社自店、ともにウィンウィンとなる、
    そんなディスカウント。

    トポスにもザ・プライスにもありませんでした。

    アメリカでも、コルベットは消えていきました。
    Kマートも衰退していきました。
    フードラック、フードバーンといった廃物利用型のディスカウント店は、
    ブームを引き起こしましたが、あっという間になくなりました。

    これは歴史が示す事実なのです。

    本物のディスカウントは、
    経営者自身が一生、質素倹約に努め、
    従業員もそのことに心から共感し、
    宗教のごとくその社会貢献を信じているという類のものです。

    私はこういったイノベーターも、
    心から尊敬しています。

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